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97.キナ臭い噂

 翌日の夜。

「食堂の人達に料理を教えて貰う事にしたから、宿舎まで行って来るわ」

「美智子1人じゃ何かと心配だから、俺も一緒に行って来るよ」

 レメディオスとクラリッサにそう言って、賢吾と美智子は騎士団の総本部から少し離れた場所にある食堂の従業員達の宿舎にやって来ていた。

 そこのコック長に割り当てられる広い部屋には、前日に騎士団の食堂で話をした従業員達が5~6名集まっている。

「そうか、その騎士団員達はそう言う変な行動をしていたのか」

 女の従業員の手引きで無事に戻った賢吾と美智子の報告を聞き、コックの中年男は怪訝そうな表情で呟いた。

 それとは別に賢吾には心配な事が1つある。

「今更聞くのも遅いとは思うが、そのクラリッサを見かけたのは確か夜だったって話だから、俺の時と同じ様に見間違いとかって事もあるんじゃないか?」

 例えばその夜の薄暗い中で良く似た別人を見間違えたと言う可能性もあるかも知れない。

 自分達の思い過ごしで騎士団にあらぬ疑いをかけてはいけないので、賢吾はそこを1番気にする所なのだと考えて女の従業員に再確認する。


 その女の従業員は迷いの無い顔で答えた。

「確かに薄暗かったけど、私が見たのは間違い無く貴方達と良く一緒に居るあの女の騎士団員よ。背中に大きな斧を背負っている女の騎士団員って実は本当に珍しいの。女の獣人であればそう言う大きな武器を振り回す騎士団員も居たりするんだけど、人間の騎士団員だったらあの人位しか斧を振り回すのは見た事が無いからね。それに髪だって茶色で長かったし、顔もしっかり見たし間違い無いわ」

 そう言いながら女の従業員は宿舎の窓の外を指差す。

「ここからじゃ見えないけど、この王都の至る所に魔力で動く街灯があるのよ。それなりの規模の街なら大体何処も夜に出歩きやすい様に街灯を街中に沢山つけているんだけど、この騎士団の総本部の近辺は特に多いの。隣が王城だから防犯はしっかりしなきゃいけないからね。その街灯の明かりで私は夜でもそのクラリッサって言う女の騎士団員の顔をハッキリ見たわ」

 そこまで断言するのであれば、やはり夜にその物体を運んでいたのはクラリッサで間違い無い様だ。


 それに続けて、今度はこの食堂のリーダー的存在であるあのコックが騎士団に関する自分の思いを口に出し始める。

「私はこの従業員達の中で1番長く働いているのだが、騎士団に対して色々とキナ臭いものを感じていたのは前々からなんだ」

「そうなんですか?」

 そう聞いた賢吾に対して頷いたコックは、腕を組み直してもっと詳しく話し始める。

「ああ。例えば第1騎士団と第2騎士団は仲が悪いから、第2騎士団の団長が第1騎士団の団長の弱みを握って失脚させようとしている噂とか、その第1騎士団の中では汚職が横行しているとか色々さ。……もしかして、レメディオス団長に続いてロルフ副団長も何か任務を失敗したのを誤魔化す為に早めに戻って来たとかじゃ無いだろうな?」

「はい?」


 今、このコックは何と言った?

 レメディオスが任務を失敗したのを「ごまかした」と言ったのを賢吾と美智子はハッキリと聞いた。

「え……と、ごまかしたってどう言う事よ?」

 単刀直入に美智子がそう聞いてみると、コックの口から思いもよらないエピソードが語られ始める。

「今の第3騎士団長のレメディオスが、元々近衛騎士団の団員だったと言う話は聞いた事はあるか?」

「ええ、それは前に聞いた事があります。それと何か関係が?」

 3つの騎士団からエリートがそれぞれ引き抜かれて集まる、国王をその身を挺して守る騎士団員の存在が近衛騎士団だと言う。

 そこにレメディオスが属していたと言う話を聞いて驚いたのは今でも記憶に新しい賢吾だが、レメディオスがその近衛騎士団から第3騎士団に移った詳しい理由までは聞いていない。


 だが、その理由には少し認識の違いが所々であるらしいとコックは言う。

「その話なんだが、表向きにはレメディオス団長が魔物を逃がしてしまったのでその責任を問われて近衛騎士団を除隊になった。そして第3騎士団の団長として主に魔物を討伐する為の任務に出向く事になったと言う話だ」

「まぁ、それだけなら別に不自然じゃないわね。何か違うの?」

 これだけなら特に突っ込み所も無い様に思えるのだが、問題はここかららしい。

「だが……一部ではその近衛騎士団員時代のレメディオス団長の行動を不審に思う輩も居たらしい。数年前に魔物が異常繁殖した時があったんだが、同時にその時の近衛騎士団が王の遠征に付き添って進軍する事になった。そこで進軍ルートに選ばれたのは、魔物が多く生息している激戦区だったらしい」

「えっ、王様を守らなきゃいけないのにわざわざそこを選んだって事なの?」

 だったら近衛騎士団としてはありえないわ、と美智子が絶句する一方でコックも神妙な顔で頷く。

「そのルートを通る様に進言したのがレメディオスだったらしいんだ。そのルートの魔物の討伐は済んでいるから、そこを通って国境を越えましょうと言ったそうだ」

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