93.選考会当日
選考会の日。
我こそはと腕に自信のある人間と獣人達が、シルヴェン王国の各地から王都シロッコにある王城の鍛錬場の1つに朝早くから集まって来ていた。
功績を認めて貰い、そのまま王国騎士団に入りたいと考える人間。
ただ単に腕試しでやって来た獣人。
傭兵としての依頼を増やす為に、この戦いで名を挙げておきたい傭兵達のグループ。
それぞれ動機もやって来た地方も使う武器や魔法もバラバラだが、共通するのは「この選考会に参加する為にここに居る」と言う話だ。
参加人数は全部で600人と最初に王国から通達が出されており、締め切り人数に達した所でエントリーしている者が参加者として登録される。
勿論、3ケタに届くその参加者を全てトーナメントで1対1で競わせると何日掛かるか分からないので、広い鍛錬場の中を12箇所の区画に仕切ってそこで騎士団員達と戦って貰う予選会を開催。
その騎士団員を倒す、もしくは一定時間以上倒れずに立っている事が合格の条件であり、傭兵としての実績を積んだ実力者達でも厳しい戦いがあちらこちらで見られる予選会になった。
その予選会に合格した240人が夕方から行なわれる決勝トーナメントへ進む。
実は予選会に合格した時点で既に捜索部隊のメンバーになる事は決まっているのだが、このトーナメントはその中の部隊長を決めるトーナメントになる。
最初に参加者の証として赤い布を上腕二頭筋の部分に巻きつけて貰い、それからいよいよ夕方の鍛錬場にてトーナメント戦が開始される。
こちらも1組ずつ順番にやっていては今日中に終わらないので、40箇所に区画を分けてそのスペースで戦って貰う。
1番広い鍛錬場はおよそ3000人の騎士団員が騎乗して鍛錬出来る位に広く、歴代の騎士団様を決める為の実力試験も必ずここで行なわれて来た歴史がある。
そこで準決勝からの戦いが1対1で観戦出来ると言う仕組みだ。
公正を期す為に、この日の為に即席で造られた岩の壁に囲まれた区画で他の戦いが見えない様に戦って貰うので誰がどんな戦い方をするのかが分からない参加者達。
事前に城のエントランスでトーナメントのクジ引きをして貰い、そのトーナメントの都合上シードで1回戦が免除される人間達も出て来るのでそこである程度は武器や格好からイメージは出来るのだが、実際に戦ってみないと分からない事も色々あるものだ。
エントランスには今回の選考会の開催を決定したレメディオスは勿論、審判としてクラリッサも参加している。
クジ引きで戦う相手が決定した後は、時間も余り取れないのですぐにエントランスから鍛錬場へと移動する。
あのフードの男を捜しに行く人材を確保するこの選考会を一目見ようと、多くの騎士団員達がその鍛錬場に集まっていた。
そんな騎士団員達の眼差しを受けながら選考会に臨むと言う事もあって、ここまで残って来た一握りの最終選抜者達にも緊張が漂うと同時に気合いが入る。
このトーナメントの準決勝まで進出した4人は、その600人と言うエントリーの中から勝ち残って来ただけあってかなりの実力者なのだ。
参加者には事前に面接と同時に適性検査を受けて貰い、部隊を率いるのにふさわしいと判断された者だけを騎士団では選抜してある。
なので準決勝の4人には、あのフードの男の捜索部隊をそれぞれ率いる部隊長の権限が与えられる事になっている。
一方で、賢吾と美智子の姿は鍛錬場では無く何時もの騎士団の総本部の建物の中にあった。
城のエントランスでそのクジ引きにやって来た参加者を見物していたのだが、その人数の多さに途中で飽きて帰って来てしまったのだ。
それでも幾らかの情報は見ただけで分かる。
「いかにもこれは強そうって言う風貌の獣人も居れば、俺と余り背の高さが変わらなさそうなのも居るし、明らかに魔術師ですって言う女も居るな」
「最終的に私達と一緒に行くのはその中の40人だってレメディオスから聞いてるんだけど、見かけだけじゃ誰が残るか分からないわよ」
240人のトーナメントと言うと、1度に40箇所に区画を分けてやるとしてもそれなりの時間が掛かる筈なので、2人は騎士団の宿舎で結果報告を待つ事にした。
そこで本音がポロリとこぼれる賢吾と美智子。
「別にこんな事しなくてもさぁ、騎士団員だったらええと……何万人居るのかは忘れちゃったけど、とにかく一杯居るんだから素直に王国全土に通達を出して捜した方が早いんじゃないかしら?」
「うん……そこは俺もそう思う」
魔物の討伐があるのは分かるが、こうしている間にもあのフードの男が何かを企んでいるかも知れない。
それに今の自分達はこの騎士団の総本部で待機する様に言われているのだが、ここでもしかしたらあのフードの男がワイバーンで襲って来るかも知れない。
「騎士団が大っぴらに動けないのは国民の不安を煽らない為だって王様は言ってたみたいだけど、こうやって選考会を開く方がよっぽど不安を煽るんじゃないか?」
「そうよねえ。それも600人もエントリーを募るんだから……何か引っ掛かるわよねぇ」