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91.武器のあれこれ

 身もフタも無い「運」の話をされて戸惑いを隠せない美智子に、賢吾は「いずれ分かるさ」とだけ告げてトレーニングを始める。

「始めに言っておくが、さっき話した様に敵も色々な相手が居る。集団だったり獣人だったり鎧を着込んでいたり魔術師だったり。武器を持っているのも居る。それでもまずは基本的なエスケープのテクニックから始めよう」

 その中には自分の祖父から習ったものもあるので、この1ヶ月間はそれを中心としたトレーニングメニューを組んで徹底的に頭と身体で覚えさせる事にする賢吾。

 今までは基礎体力をつけさせていたのと同時にパンチやキック等の打撃技を教えていたが、その基礎体力はアップして来ているしパンチやキックに関しては身体が段々慣れて来ているので、次のステップとして関節技のジャンルに入るのだ。


「武器を持っている相手、それから防具を着込んでいる相手には打撃技でまともに対抗するのは難しい。かと言って逃げられない状況ならば何とか逃げ出せる状況を切り開かなければならない。相手に組み付かれた時の対処法、それから胸倉を掴まれた時の対処法、武器を持った相手への対処法。この3つを中心に進めて行くぞ」

 本来であればクラリッサにもまた手伝って欲しかった賢吾だが、彼女は今回の事件の後始末をする関係で忙しいので今回は2人だけである。

 そして賢吾の手にはあの鉄パイプが握られており、その鉄パイプを使って今回は武器を持った相手へのトレーニングも教えるのだ。

 日本拳法では武器を使用しないし、実際に賢吾も武器を持って攻撃をした事が無いので武器の扱いに関してはこちらで少しばかりクラリッサやレメディオスから手ほどきを受けただけの素人。

「武器を持つ位なら、その分を素手の稽古の時間に回せ」と祖父から教えられていた事もあって、初めて武器を握って本格的に戦ったのはこっちの世界に来てからだと言っても間違いでは無い。


 ただし、祖父と知り合いだった師範に個人的に投げ技と関節技のレッスンを長年に渡って受けて来ただけでは無い。

 武器を持った相手と実戦で戦った事は「全く」無いものの、武器を持った相手から「どう逃げるか」、その武器を「どうやってかわすか」、武器を持つ相手の体勢をどうやって崩すかと言う事は教わった事がある。

 勿論そうした「対武器術」はそのトレーニングだけの中の話であり、この世界でクラリッサやレメディオスから教わったのは「武器を使った攻撃や防御の仕方」なのでまるで別の話だ。

 それに、自分には苦い思い出があるのを忘れてはならないと思う賢吾。

(あの時……俺はロルフに手も足も出なかった)

 草の地面の上で行なった、あの手合わせ。

 ロルフの持つ槍のリーチに翻弄され、最終的には体格差を存分に利用されて投げ飛ばされた挙句、槍を突きつけられて足の裏で首を踏みつけられて「弱っちい」と言う屈辱的なセリフまで吐かれたあの思い出。

 あれがあったからこそ、賢吾は「武器」を強く意識する様になったのも事実だ。


 そしてこの前、美智子の手助けで助かったアディラードとのバトルで美智子が鉄パイプとたいまつを持っていた事であの男に一撃を与える事が出来た。

 せっかくその鉄パイプも回収した訳だし、こうして使う機会が出来たのだから存分にトレーニング道具にさせて貰うと決める。

 そう考える賢吾に対して、美智子がこんな疑問を投げ掛ける。

「そう言えばトレーニングを始める前に聞きたいんだけどね……」

「何だ?」

「その鉄パイプは私も賢ちゃんも普通に持てて、武器として使えてるじゃない。でも……私があの男の短剣を握った時みたいに、大きな音や痺れが出ちゃう武器と何の違いがあるのかしら?」

「え……?」

 この世界にやって来た最初の頃に初めて経験した、あの音と光と痛みの現象。

 それに関しては賢吾は勿論、レメディオスもロルフもクラリッサも全く経験した事が無い未知の体験だったらしい。

 魔術師達にこの現象の解明を極秘裏に依頼して賢吾の身体を調べて貰った事もあったが、原因は未だに分からずじまいである。


 しかも考えてみれば、賢吾がこの世界で武器を使ったのはこれが初めてでは無い。

「あのワイバーンと追っ手から逃げる時だって、俺は物干し竿を使っていたな。でもそれも何も問題無く使えていたよな?」

「うん。もしかしたら……魔術が使えないのと何か関係があるのかしら?」

「良く分からないな。この鉄パイプに何か特別な仕掛けがしてあるって言う事なのかな?」

 しげしげと鉄パイプを隅から隅まで見つめてみる2人だが、何の変哲も無い鉄パイプと言う事だけしか分からない。

「俺が聞いた話だと、この世界の武器と防具は魔力がどうのこうのって言ってたんだが……それが関係あるのかな?」

「結局は良く分からないわね、また時間が出来たら色々とレメディオスとか魔術師の人に聞いてみましょうよ」

「そうだな」

 武器について考えるのは幾らでも出来るが、トレーニングは時間がある時しか出来ないのでようやく2人はトレーニングを始める事にした。

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