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8.襲い掛かる不安

 連れて行かれた先には、多くの人間がガヤガヤと何やら活動している平地だった。

 いや、平地と言うよりもそこは紛れも無い草原。

 そしてテントが至る所に張られており、中世の鎧と思わしき格好で薪を集めている兵士らしき人間や、何かの動物を解体しているこれまた兵士らしき人間の姿が賢吾の視界に入った。

(何だ、この集団は……)

 その昔、テレビの地上波で放送していた何かの映画のワンシーンで目にした記憶がある、中世ヨーロッパの兵士達が野営の準備をしている光景そのものであった。

(ドッキリ仕掛ける為だけに、人間もセットもかなり大掛かりにするって言うのは無くも無いかも知れないけど……)

 辺りをキョロキョロと窺う素振りをして、何処かにカメラクルーが居ないかどうかを賢吾は探してみる。


 その賢吾の様子に気が付いたクラリッサが問い掛ける。

「どうかしたかしら?」

「……なぁ、カメラクルー居るんだろ?」

「は?」

 いよいよ不安な気持ちが心を支配し始めた賢吾は、この一連の流れがドッキリ番組の企画であって欲しいと言う思いと真面目な表情をミックスさせてそう尋ねてみる。

 だがいざその質問をしてみると、みるみる内にクラリッサの表情が呆気に取られたものに変化して行くでは無いか。

「何を言ってるの? カメラクルーって何?」

「またまた……トボけたって無駄だよ。こう言うのって大抵何処かに隠し撮りしてる奴等が居るに決まってんだから」

 そう言いながら賢吾は野営地の中に足を進め、テントの中や草原近くの林の木々の中に目を向けてみる。

 きっと何処かに、この壮大でバカバカしいドッキリ番組のスタッフが居る筈なのだから……と信じて賢吾は野営地の隅から隅までをクラリッサを従えて探し回ってみた。


 ……その結果はと言うと……。

「おい、カメラクルーとかスタッフとか隠れるのは上手いって分かったからよぉ~……良い加減にしてくれないか?」

「だから何の話をしてるのよ?さっきから貴方、おかしいわよ?」

「おかしいのはそっちの方だろ!?」

 賢吾はイライラがピークに達して、思わず声を荒げてしまった。

「もうドッキリだって分かってんだからよ、騎士団だの魔物だのって……。だがな、幾ら何でも人を拉致してあんな薄暗い洞窟に放置した挙句、スマートフォンも使えない様な場所まで連れて来るなんてやり過ぎじゃないかと俺は思うんだ」


 だから真面目にもう勘弁して欲しいと頼み込む賢吾だが、クラリッサも騎士団の2人も困惑した表情のままである。

「んな事言ってもよぉ、俺達はお前の言っている事がさっきからまるで分かんねー」

「こちらとしても事情を色々と聞かせて貰わなければならないし、そもそも怪しい者に事情を聞くのは当たり前の話だからな」

 相変わらず混乱状態にある賢吾を引き連れて、王国騎士団の3人は1番大きな天幕へと入った。

 そこにある簡素なテーブルに向かい合わせになる様に、賢吾と黒髪の男が座る。

 賢吾の斜め前には青髪の槍使いが隙の無い雰囲気を醸し出しつつ控えており、黒髪の男の斜め後ろにはクラリッサが控えている。

「さて、それでは色々と話を聞かせて貰うとしようか」


 事情聴取はかなり長くなった。

 騎士団員3人の考えている常識と賢吾の考えている常識が、まるで食い違ったものになっているからだった。

「こんな小さな物で遠くに居る人間と話が出来たり、紙も使わないのに文章が送れると言うのか?」

「魔術でも似た様な事は出来ない事は無いけど、そもそもこの金属の集合体みたいなのでそう言う事が出来るなんてまるで思えないわ」

 しげしげとスマートフォンを眺める騎士団員の3人。

 そんなスマートフォンの説明を、賢吾は自分の言葉で出来る限りの表現をして騎士団の3人に伝える。

「ふうむ。どうやら未知の技術を持った所から来たらしい、と言うのは理解出来たが……」

 やはりまだ腑に落ちない点があるのか、黒髪の男は賢吾を訝しげな目で見る。


 対する賢吾も、これまでの短いやり取りの中である程度この黒髪の男が何者なのかを察した。

(何となくだが、この黒髪の人がこの3人の中では最も偉い様な……)

 騎士団と言う組織は、今の地球であればそれこそ「マルタ騎士団」位しか賢吾は聞いた事が無い。

 だからそう言う類の組織なのかと思いつつも、さっきの剣だとか槍だとかを突き付けられた現実を考えてみると、そうした部分での疑問が湧いて来るのも当然と言えば当然であった。

 そう考えている賢吾の横から、青髪の男が黒髪の男に声を掛ける。

「何にせよ王国領への無断侵入と言う事で、1度王都まで来て貰わねーとこっちも対処出来ねえな」

「そうね。私達の管轄外だし詳しい事は陛下にもお話ししなきゃね」

 もしこれが演技だとしたら、ここまで大掛かりな人員やセットを用意してまで騙す価値が自分はある者なのだろうか? と考える賢吾。

 しかしこれがもし、演技でも何でも無い(・・・・・・・・・)事だとするのであれば。

(おい……俺はもしかすると、本当にシャレで済まされない様な事態に巻き込まれたんじゃないのか!?)

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