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85.崖っぷちのギリギリバトル Final Round

「な、何っ……」

「いきなり俺の後ろから奇襲とは、やってくれるじゃないか」

 戦場だから何でもありだがな、と言いつつフードの男は短剣を突きつけてズルズルとそのまま美智子を引っ張って行く。

 そのまま引きずられる美智子は手から鉄パイプを落とす一方で、フードの男は短剣を突きつけつつも器用に杖を動かしてアディラードをコントロールする。

「君には色々とまだ利用価値がありそうだし、そもそも俺には君が必要なんだよ」

「キモイ……!!」

「とりあえず、まずはここから早く逃げないとね」

 このまま自分を人質にして、あのワイバーンで逃走を図るのだろう。

 そうはさせたくない美智子だが、こうして捕まってしまった以上はなかなか逃げるのは難しい。


 一方の賢吾はアディラードに崖から突き落とされそうになる。

「うおっ……とっととおおお!?」

 間一髪で何とか踏みとどまり、続けてやって来たキックも斜め前方に飛んで回避。

 崖から少しでも離れておけばそれだけ精神的な余裕も違うので、何とか崖から距離を取ろうと動く賢吾。

 崖の下を覗いてみれば川が流れているのが確認出来るが、崖の途中には何本もの木が生えているのも確認出来る。

 崖から真っ直ぐに木が伸びていると言う、地球でもそんなに見る機会が無い光景がそこにはあった。

 だが、今はそんな光景を気にするよりもアディラードを気にしなければならない。

 崖から少しだけ離れた賢吾はそのアディラードの横をすり抜けてさっきのフードの男の所に向かう……が、アディラードは何と林の切り株を賢吾に向かって蹴り飛ばして来た!

(げえっ!?)

 咄嗟に切り株を横っ飛びで回避するも、これでまた崖の方向に近付く事になってしまった。

 それを見たアディラードは足を更に動かし、まるでブルドーザーの如く賢吾を押し出し始める。

「う、うおうおうおっ、ちょ……っ!?」


「賢ちゃん!!」

 目の前で幼馴染が崖の下に落とされそうになっているのに、自分が力不足のせいでただその光景を見る今年か出来ない美智子。

 そんな彼女の視線の先で、賢吾が押し出しに抗う事が出来ずに崖下へと落ちて行くのが見えた。

「い、嫌ああああっ!!」

 美智子の絶叫が夜空に響き渡る。

 幾ら日本拳法の全国大会出場者と言っても、敵う相手と敵わない相手が居るのだ。

「残念だったね。あの男はここで息絶える……か」

「ひ、酷い……!!」

「これが戦場なんだよ、お嬢さん。力の無い者から先に死んで行くんだ。本当はまだ死んで欲しくなかったんだけど、あの男は騎士団の手先となって動いているみたいだからね。仕方無いね。君はまだ色々と事情を聞かなければならないから、俺と一緒にこれから来て貰うよ」

 美智子を人質から解放する気が無いフードの男は、賢吾の始末を確信して彼女と共にワイバーンの元に向かう。

 杖についているボタンを押してアディラードもしまう。


 だがその瞬間、崖から人間の手が現れた。

 完全に油断しているフードの男も、それから美智子も這い上がって来る「それ」に気がつく事は無い。

 崖から這い上がって来た人間……賢吾は、あの魔物が居なくなっている事に驚きながらも足音を忍ばせて男目掛けて近付いて行く。

 それでも完璧には上手く行かず、こんな時に限って足元の小枝を踏んでしまった。

「んっ!?」

 振り返った賢吾に気がついたフードの男は素早く距離を取り、これが見えないのかと言わんばかりに美智子に短剣を突きつける。

 だが人質にされている美智子は、賢吾から以前聞いた事のある話を思い出した。

(そうだわ、確か……)

 もしかしたら、それが自分にもあるかも知れない。

 そう思った美智子は一か八かで、男が握っている短剣の柄に自分も触れてみた。


 バチイイイッ!!

「ぐあっ!?」

「きゃあっ!?」

 美智子が男の短剣の柄を握った瞬間、賢吾の時と同じくあの音と光と痛みの現象が発生した。

 それにより人質状態から何とか逃れた美智子は素早く振り返り、男の顔目掛けて全力のパンチを叩き込む。

「ぐへっ!?」

 フォームも出来ていないパンチだが、人質に取られた恨みを晴らす様に全身全霊のストレートが決まって男は吹っ飛ぶ。

 意外と男の体重は軽い様で、地面に転がるまでには至らなかったが、それでも短剣と杖をその手から落としながらよろけてたたらを踏んだ。


 一方で、その吹っ飛んだ杖を見た賢吾がある事に気がついた。

(そうか……)

 音と光、そして吹っ飛ばされた衝撃で男が悶絶しているその隙に走り出して杖を狙う賢吾。

(そう言う事だったのか!!)

 杖に直に触れると先程の現象がまた起きてしまう可能性があるので、自分のかかとを使って全力でその杖を叩き折った。

 それを見た男が絶望の声を上げる。

「し、しまった! 杖が……!!」

「これであいつはもう復活出来ないんだろう!? あいつが動けるのはこの杖のおかげだったんだからな!!」

 完全に動揺している男目掛けて一気に肉薄した賢吾は、先程の美智子よりも更に強いストレートパンチで男を殴りつける。

 今度こそ男は吹っ飛び、アディラードに押し出された時の賢吾と同じ様に崖下に落下して行った。


 しかし、そんな彼を助けるべく相棒のワイバーンが崖下へと向かう。

「なっ!?」

 崖下に落下して行く男の身体をうまくキャッチし、そのまま夜空へと舞い上がって行くワイバーン。

「くそっ、逃げられたか!!」

「でも……賢ちゃんが無事で良かった!」

「ああ、俺もだよ美智子」

 フードの男には再び逃げられてしまう結果になってしまったものの、何とか死の淵から生還した賢吾は美智子とお互いに抱き合って無事を確認したのだった。


 ステージ5 完

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