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79.探査魔術

 いざその洞窟へと進む……前に、何やらレメディオスはやる事があるらしく引き連れた部下の中から数名を呼び寄せる。

 それは騎士団員達の中でも特に魔術に長けている、魔術師にならずにこっちの騎士団に入ったと言われる位の実力の持ち主ばかりだった。

 その誰もがレメディオス以上に魔術を知っている人間だからこそ、この洞窟に入る前に魔術を使ってある事をするのだと言う。

「何するのよ?」

 洞窟の出入り口前に横一線に並んだ魔術師達を見て、レメディオスにそう問い掛ける美智子。


 彼女の質問に対して、レメディオスは入り口を見据えたまま顔も視線も美智子の方に動かさずに答える。

「探査魔術で洞窟内部の様子を探るんだ。ここに来るまでに色々と不自然な点があったから、それを確かめる為にな」

「不自然な点って?」

 脇目も振らずにそれこそ一目散にここまでやって来た賢吾と美智子には、レメディオスの言葉の意味が分からない。

「焼け跡が無かったんだ」

「焼け跡……」

「そうだ。ここの登山道の麓でその魔物を見かけたと言う村人の証言だが、その証言が正しければ魔物がこの山道を進んだと言う事になるだろう」

「ああ、そりゃそうだな」

「それにここに来る前、その村でその村人に話を聞いた限りではやはりその魔物は身体が燃えていたと言う。となれば焼け跡の1つや2つあってもおかしくない筈なのに、ここに来るまでに一切私は焼け跡を見ていないんだ」


 そこまで周囲の状況を確認しながら急ぐ事が出来る余裕が、まだレメディオスにはあったと言うのか。

 そうなるとかなりの観察眼を持っていると同時に、レメディオスの体力には今も余裕があると言う事になる。

 ロルフやクラリッサもそうだが、やはり騎士団員達は鍛え方が違うのかここに着いた時に息も切らしていない。

 その差に賢吾が心の中で驚き、そして落胆している間に洞窟の探査が終わった様である。

「団長、内部に多数の生体反応があります。それも……人間の類ではありません」

 魔術師の話を聞き、レメディオスが腕を組んで難しい顔になった。

「そうか……。そうすると、その大きな魔物が多数の魔物を使役して待ち伏せや罠を仕掛けている可能性が高いな。なら賢吾と美智子には私達の後ろから着いて来て貰おう。魔物相手には流石に素手では危険過ぎる」

「うん、俺もそれは賛成だ」


 美智子には何かあった時の為にあの時の鉄パイプを持たせている賢吾なのだが、流石にそれだけでは魔物相手には色々と無理がある。

 小さなサイズの魔物だったら前に賢吾がやったみたいに素手で対抗出来ない事も無いのだが、あの南の坑道の最深部の魔物軍団の中に居た大型の魔物は絶対に素手での相手は無理である。

 だからここは素直にレメディオスの作戦に乗っかる形で、賢吾と美智子を温存しつつ最深部までとりあえず進んで見る事にする。

 もしかしたら、またあの島で戦う前の時の様にあのフードの男が姿を隠しているのかも知れないのだから。

「それでは準備は良いか?」

「ああ、大丈夫だ」

「私もよ」

 ロルフとクラリッサが頷くのを見て、レメディオスが腰のロングソードを抜いて真っ暗な洞窟の中に踏み出す。


 夜の闇で足元が見えないといけないので、登山道に入る前にあらかじめたいまつを準備していた騎士団だが、ここにも坑道と同じ様に魔力で明かりを灯すライトが設置されているし、いざと言う時に手が塞がっていると対応が遅れて命取りになる危険性もあるのでたいまつを消しに掛かる。

 そもそもライトがあればたいまつを灯す必要が無いので要らないのだが、それに関して賢吾から声が掛かった。

「あーちょっと待った。たいまつを消すんだったら消えるまで俺達に持たせてくれないか?」

「何故だ?」

「ほら、火が灯っているんだったらそれこそいざと言う時の魔物避けになるんじゃないかと思ってな」

「ふむ……」

 それも一理ある、とレメディオスは納得した表情になる。

「だったら御前達が持っていろ。もし火が必要になったら燃やす為の布はまだまだあるから、その時は私達騎士団員に声を掛けるんだ。それに、この洞窟の中は色々な所に貯蔵庫があるからかなり入り組んだ造りになっている。絶対にはぐれない様に最後まで着いて来るんだぞ」

「分かった」


 こうしてたいまつを渡された賢吾と美智子は、大勢の騎士団員達の後ろ……つまり集団の最後尾に続いて進む事になった。

 本当はレメディオスやロルフ達の居る前線で、それこそあの南の坑道の時と同じ様に魔術で姿を消している魔物が居ないかどうかを確かめて欲しいと言う思いもあったのだが、それこそ魔物に不意打ちでもされて死なれたりしたら騎士団にとっても厄介な事になる。

 だからこうして騎士団員の後ろに続く形で、入り組んだ洞窟の中へと自分達も足を踏み入れる賢吾と美智子。

 出来れば何事も無ければそれで良い。

 しかし今までの経験からすると、どうしても嫌な予感が拭えないのもまた事実。

 そんな嫌な予感を抱えたままの2人が進むこの順番が、この後に思わぬ展開を呼び寄せる事になるとは誰も知る由も無かった。

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