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78.急行

 ロルフの慌て様に首を傾げた翌朝。

 賢吾と美智子は騎士団員達と共に、魔術都市を出発して東へとかなりのハイペースで向かっていた。

 朝食すら満足に味わって食べられない位に急いで出て来た一行を、太陽が昇ってそんなに時間が経っていない、ようやく明るくなったばかりの晴れた空が見下ろしている。

 こんなにも朝早くから出発した理由は、明け方に飛び込んで来たあの大きな怪物の目撃情報があったからだった。

 その情報によれば、魔術都市からずっと東に行った場所にある山の麓でその生物を見かけた近くの村人が騎士団員に通報した事から、魔術都市に一時的に駐屯しているレメディオスの遠征部隊に伝わってこうして急行しているのだ。

 まるでテレビの特集で見た事位しか無い競馬の様なハイスピードの馬のペースに、賢吾も美智子も落馬しない様にそれぞれレメディオスとクラリッサに掴まりながら目的地まで我慢する。


 その馬のスピードに揺られながらも、ある程度の直線で会話が出来る余裕が出来た時に賢吾がレメディオスに聞いてみる。

 朝食を素早く済ませたらすぐに出発するから、と質問をする時間も与えられなかったのだ。

「な、なぁ、俺達がこれから行くのってどう言う場所なんだ?」

「東の方には大きな山脈がある。その中には騎士団が今まで集めた鉱物の貯蔵庫にしている洞窟があるんだ。そしてその鉱物は騎士団で使っている武器や防具を生成する為に少しずつ取り崩して使っているんだ。だから今までの騎士団の駐屯地を狙っている所からすると、その鉱物を全てその怪物で破壊するつもりかも知れん!!」

「えっ、そ、それじゃあ……!!」

「ああ、戦力をこれ以上落とされない様に鉱物を守るんだ!!」

 もしその計画が本当だとするなら、あの怪物とフードの男が狙うのは騎士団の壊滅と言う事だろうか。


 何だかやけに山脈や洞窟には縁があるなと思いつつも、そのまま馬の背中に乗ってその日の夕暮れに辿り着いた東の村。

 既に馬は息切れを起こしており、最低でも2日は休ませなければ今までのスピードを出すのは難しいと村の馬のトレーナーに言われたので、そこの村で総勢300頭の馬を休ませて貰う事に。

 残りの人員は魔術都市に駐屯させ、何かあった時のバックアップや連絡係として配備していたのでその点に関してはレメディオスは心配していない。

 むしろ心配するべきなのは洞窟の中の鉱物だ。

「良し、これから山に登るぞ!!」

「えっ、今から!?」

 村に着いたばかりなのに、しかもこれから夜になるに連れて見通しはどんどん悪くなる一方なのに。

 そう言いたげな美智子に対し、レメディオスは何の躊躇も葛藤も無い表情で頷く。

「当たり前だ。事は一刻を争うのだぞ。この村の住人が、その怪物が山の中に入って行ったと言うのを見た情報も既に入っている。まだ陽は落ちていないんだし、山を封鎖してしまえばその怪物を追い込んだも同然だ。さぁ、今すぐに進軍だ!!」


 有無を言わせないレメディオスの態度には誰も逆らえず、騎士団は夕暮れから夜に変わろうとしている薄暗い山道に進軍を開始する。

 朝早くから出発し、食事やトイレや物資の買い込みで途中で数度休憩を挟んだとは言え夕方までほぼ走り通しだった。

 だが、それだけの時間が掛かったと言う事は既にその目撃情報があった怪物はこの山の中に入って行ってからかなりの時間が経っている事になる。

 もしかしたら既に鉱物の貯蔵庫になっている洞窟を破壊し、下山して行方を暗ませているかも知れない。

 その場合は完全な無駄足だが、レメディオスとロルフとクラリッサの頭の中には「まだ間に合うかも知れない」と言う期待があるのだと賢吾と美智子にも伝えられる。


「何で間に合うかも知れないって分かるんだ?」

「ここに貯蔵している鉱物は少しずつ取り崩して使っているのよ。普段は南の鉱山とかで採れる鉱物を売って貰っているから、あくまでここにあるのは鉱物の採掘量が少なかった時の非常用ね」

「その非常用の鉱物だからこそ、俺達も簡単にそれに頼らない様にしているんだ。だからわざと入り組んだ洞窟を掘って、その洞窟の最深部に隠したんだ。初めてここに入る奴にはなかなか見つけられない筈なんだよ」

「でも……これだけ時間が経っているんだからやっぱり急がなきゃならないわね」

 クラリッサとロルフの発言を聞いた美智子だが、やはり朝早くから夕方までと言うその掛かった時間の長さが鉱物の場所まで辿り着く時間となってしまっているかも知れない。


 それでもここまで来てしまったからには、騎士団と賢吾と美智子はその怪物に出合う事を信じて進むしか無いのだ。

 地図も無いこの山脈の登山道だが、レメディオスの頭の中にはその登山道の見取り図が叩き込まれているらしく確実に洞窟に向かって進軍を進めて行く。

 それはロルフとクラリッサも同じの様で、足取りが迷う事は無い。

 本当に非常用で貯蔵しているのだろうか?

 もしかしたらちょくちょくここに来ているんじゃないか?

 そう思わざるを得ない程のスムーズな足取りを見せる一行に続いて賢吾と美智子も進んで行くと、やがて陽が落ちて真っ暗になった頃にその洞窟が大きな口を開けて姿を現した。

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