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76.魔術都市イズラルザ

 レメディオスの過去発覚から更に3日後。

 トレーニングを重ねながら騎士団に混じって王都から遠征して来た賢吾と美智子は、王国領の北東に位置している山の麓の魔術都市イズラルザに辿り着いた。

 その外観は一言で言えば、世界各地にある有名な遊園地。

 勿論観覧車やジェットコースターがある訳では無いのだが、出入り口の大きくて高い門から始まって内部の家や施設のほぼ全てがカラフルな色合いをしている。

 その最大のシンボルとも言えるのが、門から1番遠く離れた再奥に存在している魔術研究所である。

 王都シロッコの魔術研究所よりも明らかに建物の大きさが縦にも横にもあり、出入りする人々も引っ切り無しだ。

 それを見た美智子がポツリと呟く。

「何かこう……魔術師って部屋に閉じこもって研究ばかりしているイメージがあるんだけど、意外とそうでも無いみたいね」

 王都では色々な事情から余り外に出る機会が無く、魔術研究所も全くと言って良い位に観察する事が無かった。

 それこそ「ここが王都の魔術研究所よ」とクラリッサに言われて近くから建物を見上げた記憶しか無い賢吾と美智子に取っては、その頭の中で描いていたイメージとかなりの違いがある様だ。


 そのクラリッサが美智子の発言を聞き、補足情報として話し始める。

「そのイメージは半分当たっているわね」

「半分なの?」

「ええ。魔術師って言うのは変わっている人が多いからね。例えば私が知っている人だと私達が使う魔術よりも高度な魔術をいとも簡単に使いこなせるけど、部屋が散らかり放題で寝る場所も無い位なのにそれを気にしない人が居るわ。それから普段はまるで無気力で無口なのに、魔術の事になると食事と睡眠以外それについて1日中その話題しか喋らない人もね。後は……まぁ、数え切れない程の変人の集まりって事よ」

 思い出して行く内に嫌な思い出もフラッシュバックしてきたのか、徐々にクラリッサは顔を変え、声色を買え、そして最終的には態度も変えて話を打ち切った。

「そうなんだ……。でも半分って事は、残りの半分は変じゃ無いって事?」

「そうよ。普通の人と同じ様に朝は出勤、夕方には研究や実験終わりで退勤。休日は息抜きでリフレッシュして、また仕事に出かけたりね。魔術以外の趣味がある人も居るし、魔術には余り興味が無いけど安定した生活が保障されるから魔術師のサポート職員として勤務している人も居るのよ」

 話を聞く限りでは地球のサラリーマンの構図とそんなに変わらない気がするのだが、高校と大学でアルバイトの経験位でしか社会経験の無い賢吾と美智子にとってはそれ以上のイメージがどうしても湧かない。


 一方でこの魔術都市イズラルザの住民達には既に連絡が行っていたらしく、騎士団員達がかなりの人数でやって来たにも関わらず驚く者は殆ど居なかった。

 実際、何度かここに遠征で騎士団が来た事もあるので一時的な駐屯地として貸し出す事もあったらしい。

 しかし、今回は賢吾と美智子と言う「魔力を持っていない人間」の存在があるので余り滞在は出来ないらしいと、魔術研究所の所長とこの街のトップの権力者と話をして来たレメディオスは言う。

「魔術を研究する人間達が集まっているこの街だと、御前達の様な魔力を持たない人間と言うのは非常に厄介な存在かも知れん」

「えっ、何で?」

 何と無くイメージは出来るものの、ここは敢えて知らない振りをしてその理由を全て聞いてみようと賢吾は思う。

「簡単に言えば2つ。1つは魔力が無い人間と言うのが魔術師達にとっては格好の研究対象だからだ。王都から連れて来たこっちの騎士団員達の中にも興味がある連中は居るが、こっちの魔術師達はその比では無い位の興味を持つだろう」

 そこで一旦セリフを切り、2つ目の理由を話すレメディオス。


 だがそれは、1つ目の理由よりも更に過激なものであった。

「2つ目は……魔術関連と言うのは同じでも中身は正反対の理由だ。命を狙われる恐れがある」

「命?」

「そうだ。魔術を愛するがゆえに、魔術が1番と言う考えを持っている魔術師達も少なくは無い。魔術が自分の人生と思う位にな。だが、そう言う魔術至上主義の研究者に対して魔力が体内に無いと口走ってしまえば、そんな事は有り得ないといきなり逆上してしまう様な面倒臭い研究者も居ないとは限らん」

「うーん、確かに」

 何だか妙に納得してしまう賢吾と美智子。

 本格的に社会に出た経験は無くても、面倒臭いクラスメイトや教師、それからバイト先の人間等を知っているからだ。

「だからどちらにせよ、この街では御前達も目立った行動はしない様にして貰いたい。私達も御前達と魔術師達を接触させない様に最大限の配慮はするが、最終的に自分の身を守る事が出来るのは自分だけだから、余計な事をしたり言ったりしない方が自分の身の為だぞ」

「はい、分かりました」

 美智子が思わず今までと違う口調になってしまう程、レメディオスからの忠告は大切なものだった。

 リスクを管理出来るのは自分自身だけ。自分の身を守る事が出来るのも自分だけ。

 賢吾と美智子がそれを念頭に置く一方で、あの魔物の発見と討伐に向かうべくこの街を拠点にした情報収集を騎士団員達は始めた。

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