75.レメディオスの過去
王都を出発し、所々でキャンプを張りながら北の海に沿って進む。
地図を見てみると王都の北東に向かってひたすら進軍する、シルヴェン王国第3騎士団の団員およそ500人。
あの魔物が相手だと言う事で、王都から集めて来た人員500人にプラスしてこの後は北の駐屯地の団員達とも合流する予定だ。
島であの魔物と遭遇した時には全部で100人程度の調査部隊しか騎士団員が居なかった為、大きな苦戦を強いられたのが記憶に新しい。
その反省を踏まえて、今回は王都で集められるだけの人員を集めて来たのだ。
近衛騎士団、第1騎士団、第2騎士団はそれぞれ管轄が違うので協力は認められず、しかも近衛騎士団からは自分達の鍛錬場に部外者である賢吾と美智子、それにあの女頭目ウルリーカの侵入を許してしまった為にレメディオスが監督不行き届きと言う事で責められる結果になってしまった。
随分大勢で今回は進軍して来たなぁ、とふと気がついた賢吾が同じ馬に乗っているロルフにポツリと漏らした所、ロルフはレメディオスに聞こえない様にその事情を説明したのだ。
「だとすると俺、何か悪い事しちゃったかな……」
もしかしたらレメディオスが責められる結果になったのは、成り行き上とは言え近衛騎士団のテリトリーに入った自分かも知れないと賢吾はふと思ってしまう。
そんな賢吾のセリフに反応したロルフが声を掛ける。
「何言ってるんだよ。御前はあいつ等に追われてたんだから何も悪くねえだろ。それに迷ったとしてもその近衛騎士団の鍛錬場でリーダーの女を見つけたからこそ、その女頭目と戦ってこれ以上の被害を防げる形になったんだろ?」
だから悪くねえよ、と賢吾はロルフに言われて元気を取り戻す。
「そうか……すまん、俺らしくないな」
普段だったらこんな事は考えない筈なのに、ロルフから聞いた事情が理不尽な内容だったからなのか、それとも色々な事があって精神が疲弊しているせいなのか。
そんな自分の考えに少し自己嫌悪しながらも、あの女頭目の事はもう終わったのだからと首を小さく横に振って考えを打ち消す賢吾。
だが、その時ふとこんな事も思い出す。
「そう言えばレメディオスって、昔は近衛騎士団に居たって俺の最初の事情聴取の時に言ってなかったっけ?」
「え、そうなの?」
何時の間にか隣にやって来ていたクラリッサと美智子の乗る馬から、その美智子の反応する声が届く。
でも別に隠す事でも無いので、少し前を行くレメディオスに聞こえない様になるべく小声でロルフは異世界の2人に纏めて説明する。
そのロルフは何時に無く神妙な顔だ。
「そうだよ。レメディオスは元々近衛騎士団の人間なんけど、ある事件を切っ掛けにあいつは俺達の団長になったんだ」
「第3騎士団の団長になったのね?」
確認の意味で美智子が聞けば、ロルフは神妙な顔つきのまま頷く。
「そうだ。まず近衛騎士団って言うのは俺達第3騎士団、それから第2騎士団に第1騎士団と3つの騎士団の中から選ばれた一握りのエリートで構成されているんだ。例えば国王に認められる程の活躍をした人間だったり、近衛騎士団長から推薦された人間だったり、年に1回行われる選抜試験でその権利を勝ち取ったりすれば晴れて近衛騎士団の人間として活動する事が出来る」
「確か、近衛騎士団って管轄もこの第3騎士団とは違うんだよな?」
「そうだ。俺達はこうやって王国中の魔物退治に出かけたりするんだけど、近衛騎士段は王族の警護や王城の警備と言った、王城関係の仕事に就いているんだ。国王陛下の命を守る為には命を捨てても構わないという覚悟があるのが近衛騎士なんだからな」
「そのエリートの集まりって言う近衛騎士団員だったレメディオスが、何故第3騎士団の団長をしているの?」
美智子のその疑問にはやや話し難そうにするロルフ。
それを見たクラリッサがロルフの代わりに説明を始める。
「えっと……レメディオスは王族の警備に当たっていたんだけど、その警備当番の時に王城に賊が侵入してね。勿論王城に忍び込んだ賊だからさっさと捕まえないといけないんだけど、その賊はかなり素早くてなかなか捕まえられなかったらしいの。それで……その賊を最終的に追い詰めたのがレメディオスだったんだけど、結局捕まえ切れずに逃がしちゃったらしくてね。その責任を取らされて、レメディオスは近衛騎士団を追われて第3騎士団の団長に指名され、色々と危険な任務にも回される様になってしまったのよ」
それからは第3騎士団の団長として今日まで活動しているらしいが、クラリッサもロルフもそのレメディオスが物思いにふけっている光景を見る事があるらしい。
「レメディオスが何時も仕事をしている団長室の窓からは近衛騎士団の宿舎が見えるんだが、時折りその宿舎をじっと見つめて何かを考え込んでいる素振りを俺とクラリッサは2人とも見た事があるんだ。勿論俺達は人の心の中までは読めねえから、レメディオスが何を考えているかは分からねえんだけどな」
そう言いつつ、ロルフは自分達の少し前を進んでいるレメディオスの背中に視線を向けるのだった。