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73.申し出

 その8日後、賢吾と美智子は騎士団員達と共に馬に乗って王都から北上していた。

 話は前日の朝、つまり分隊のリーダーが脱獄してから1週間後にさかのぼる。

「脱走したあの男は、結局王都の中では見つかっていない」

 1週間と言う長い時間を掛けたにも関わらず、あの分隊のリーダーが忽然と姿を消してしまったと言うのだ。

 王都の中をしらみつぶしに探し回ったが結局見つける事は叶わず、今は王国全土に連絡を回して港や国境を全て封鎖して貰った、と部屋にやって来たレメディオスからこうして2人に報告があった。

「結局、俺達はこの1週間ずっとこの騎士団の総本部と城の中に居た訳だけど……まだこれから先も居なければならないのか?」

 これじゃいわゆる「引きこもり」状態なので、もっと外に出てみたいと思う賢吾と美智子。

 図書館の本はこの1週間で結構読んだが、未だにレメディオスからあの重要書庫の閲覧許可が出ていない。

 それ以外の時間は日本拳法のトレーニングを賢吾が美智子に教え、クラリッサが提案した武器のトレーニングをその張本人のクラリッサが話をつけて他の騎士団員にも一緒にしてくれる様に頼んだのだ。


 盗賊団の残党に目を付けられない為に、騎士団の総本部から出ない様にしながらこの1週間ずっとトレーニングをしていたおかげもあって、美智子の基礎的なトレーニングもそうだが賢吾の武器に対する恐怖心も大分薄れて来た。

 美智子は基礎トレーニングを続けて来ただけあって、トレーニングを始める前よりも確実に体力がついて来た。

 勿論まだまだ実戦レベルには程遠いものの、最初は腹筋、背筋、腕立て伏せも5回と満足に出来ない程だったのが今ではそれぞれ30回ずつ出来る様になった。

 それなりに身体が慣れて来たらしく、パンチの打ち方にキックの仕方、身体の構え方等も少しずつ様になって来ている。


 賢吾の方はあの鉄パイプを使って実際に騎士団員達とトレーニングをさせて貰う事で、言葉で色々と教えられつつ実際のスパーリングで武器の扱いもそれなりに形にはなって来た。

 あの物干し竿を使って、追っ手から逃げつつ地面に突き落として行った時の感触を思い出して突き主体の攻撃を繰り出す賢吾だが、それだと横方向の薙ぎ払いや振り抜きに弱い事が分かったので横方向への対策も一緒にして貰う。

 それから防御面でもどう攻撃を受けてそこから反撃に転じるか等、王国騎士団の剣術をベースにして日本拳法の身体捌きも取り入れた武器術を試行錯誤している。

 空手や合気道では武器を使う事はあるものの、日本拳法では基本的に武器を使う事は無いので賢吾にとっては新鮮な経験であると共に、改めてその難しさを実感している。

 間合いの取り方も素手とは違うし、武器のリーチや重さも関わって来るし、身体の捌き方だって違う。

 今までの常識が通用する時もあるが、大半は通用しない。


 それから武器を相手にした素手の戦い方でも、自分の日本拳法での経験が全て有効に活かせてはいない。

 フードの男と戦った時、分隊のリーダーと戦った時、そしてウルリーカと戦った時はもう無我夢中だったのでバーリトゥードスタイルで戦っていたのだが、本格的に体術として習うとなるとまた話は別だ。

 それでも今まで日本拳法を習って来た者として、ここで絶対に逃げ出す訳には行かない。

 もしかしたらこの先また武器を相手にして戦う事があるかも知れないので、その時にこの苦しい経験が役立つかも知れないからだ。

 そんな基礎トレーニングに励む美智子と、武器術に悪戦苦闘しながらも少しずつ慣れて行く賢吾にレメディオスからこんな申し出が。


「基本的にはこの先も御前達はこの騎士団の総本部に居て欲しい。今までの事件で恨みを持っている連中も居るだろうからな。だが今回の事件は私達がお前と初めて出会った時に一緒に見かけた、あの大きな魔物が関わっているかも知れないと言う話だから私達と一緒に来て欲しいんだ」

「何処に行くんだ?」

「その魔物の所だ」

「はあっ!?」

 先に声を上げたのは賢吾では無く美智子だった。

「な、何でわざわざ賢ちゃんも一緒に行かせるのよ? 賢ちゃんからその魔物については聞いたけど、かなり大きくて炎がブワーッて纏わりついてる様な物凄い魔物なんでしょ? 危険過ぎるじゃない!」

 少しヒステリック気味になりつつそう訴えかける美智子を見ても、レメディオスは眉1つ動かさない冷静な態度で続ける。


「それはこちらとしても把握している。だが、今回のその魔物対策にはこの男の力が必要になるかも知れないんだ」

「俺の……力?」

 特異体質はあるにせよ、それ以外は武器術も発展途上だし防具は着られないし魔術だって使えない自分が何の役に立つのだろうか?

 自分でも卑屈になっていると感じつつも、レメディオスに素直にその思いをぶつける賢吾。

 それを聞いたレメディオスは、一緒に部屋にやって来たクラリッサにアゴで指示を出す。

 クラリッサはそれを見て賢吾に近づき、同行の理由を説明し始めた。

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