71.新たな問題
「文献が見たい?」
「ああ。俺達が元の世界に帰るヒントが見つかるかも知れないから、何かそう言う事に関しての文献とかがあれば見せて貰いたいんだ」
朝食を終えた賢吾の申し出に、直々に食器を回収に来たロルフは考える。
「あー、それだったらとりあえず図書室行ってみたらどうだ? もしかしたら何かが見つかるかも知れないぞ」
「うん、分かったわ、それじゃ食器下げるついでにそこまで案内して貰えないかしら?」
「ああ、良いぜ」
少しでも地球へのヒントが見つかるのなら、何でも出来る事はするつもりで2人は行動する。
今回の文献閲覧の申し込みもその1つだ。
まさかロルフが直々に食器の回収に来てくれるとは思っていなかった2人だが、その意外な展開も場合によってはチャンスになるのでこれ幸いと図書室まで案内して貰う事にする。
その図書室は騎士団の総本部の中では無く、総本部に併設されている王城の中にある図書室だった。
城下町にある図書館に本当は案内するつもりでロルフは考えていたらしいのだが、まだあの盗賊団の残党が城下町の何処かに潜んでいる可能性もあるので王城の中に居て貰った方が安心らしい。
「ここなら俺達も何かあった時にすぐ駆けつけられるからな」
王城の図書室はかなり広い。
賢吾や美智子が今まで見て来た、小学校から大学までのどの図書室よりも何倍も広いイメージだ。
ここなら本当に何かヒントが見つかりそうな気がすると思っていた矢先、図書室の奥にもう1つドアがあるのを見つけた賢吾。
出入り口の赤い両開きのドアとは違い、鉄製のいかにも重そうな片開きのドアだ。
「あれ、あっちは何なんだ?」
「あっちか? あっちは王国の機密書物を貯蔵している重要書庫って場所だ。あそこも見たいのか?」
「ああ。あっちにも何かヒントがあるなら見てみたい」
しかし、ロルフは賢吾の頼みに首を横に振った。
「悪りーけど、あそこは騎士団長以上の人間と王族関係者しか入れない場所なんだ。俺じゃ許可は出せねえよ」
「ええっ、そうなの? それじゃレメディオスに頼んでみてくれない?」
だったら入室許可のある人間の許可を得れば良いだろうと思った美智子だが、ロルフはまた首を横に振る。
「それが……今はまだ無理だ。盗賊団の後始末で俺達も忙しいし、また新たな問題が出て来てよぉ」
「新たな問題?」
また何かあったのかよ、と若干うんざりした顔になる賢吾。
その賢吾の表情にロルフも何かを感じ取ったのか、1つ頷いて答える。
「ああ。王国内で怪物が暴れ回っているって話なんだ」
「か……怪物?」
ワイバーンだけでも賢吾や美智子にとっては「怪物」と呼べるレベルの生き物なのに、この世界の人間であるロルフが怪物と呼ぶレベルの生物とは一体?
2人が疑問に思っているのを感じたロルフから、一応と言う事で伝えられた怪物の目撃情報。
その情報が賢吾の態度を一変させる。
「そう。それが……俺達が最初に出会ったあの島に居た、あの魔物らしいんだ」
「何だって!?」
静かな図書室内に賢吾の叫び声が響き渡り、司書や警備の騎士団員の視線が一気に賢吾の方に集中する。
「ちょ、ちょっと声が大きいって!」
「あ……す、すまん。え……っと、その怪物ってもしかして、炎に包まれてて凄く大きくて、更に幾ら攻撃しても何の効果も無かったって俺がレメディオスから聞いた……」
「目撃情報と照らし合わせると間違い無いだろうな。だけど俺達はまだその目撃情報でしか知らねえから、可能性が高いってだけだ」
そこで一呼吸置いてロルフは続ける。
「その怪物なんだが、奇妙な事に騎士団の駐屯地ばかりを襲っているらしいんだ」
「えっ?」
「騎士団を狙ってるって事になるのかしらね、それだと」
横で聞いていた美智子も、すっかりその怪物への興味を持ってしまっている様だ。
「多分な。今は北の方で2つやられているらしいから、盗賊関係の後始末が終わったら俺達もすぐにその怪物の調査に向かわなきゃならなくてさ。今は余り大きな被害が出ていないみたいだけど、こうも騎士団の拠点ばかりを狙われたんじゃあ俺達も調査しない訳には行かないからな」
「って事は……」
「重要書庫の閲覧はレメディオスに頼むのはまだまだ掛かりそうだ。すまねえけど俺達も仕事があるから今すぐは無理なんだよ」
そう言い残してロルフは去って行き、後に残された2人は目を見合わせる。
「忙しないな」
「うん……盗賊団の話が終わったと思ったら、今度は何だかまた物凄い生物が現れたって言うじゃない。私がレメディオス団長やさっきのロルフ副長から話を聞かれた時にチラッとそれらしき生物について言われた気がするけど、もしかしてそれかも知れないわね」
美智子は実際にその生物の姿を見た事は無い。
だがあの奴隷船から脱出して騎士団の総本部に戻って来た時に、レメディオスやロルフから事情聴取を受け、続いて賢吾から今までの事情を説明して貰う時にクラリッサと共にその生物に関しての情報も聞いていたので何と無くイメージは掴める。
だが今の自分達には関係無いので、まずは図書室で情報収集を始める事にした。