70.残った疑問
「今日はゆっくり休め」
全ての後処理が終わり、事情聴取も終わった賢吾と美智子にレメディオスがそう声をかけて部屋を出て行った。
「体調は大丈夫か、美智子?」
「うん、もう大丈夫。賢ちゃんは?」
「俺ももう平気だ。けど……色々と謎が残るばかりだ」
「そうね。でも今は身体を休めましょう。色々疲れちゃった」
賢吾がウルリーカの首の骨を折る形で絶命させた後、駆けつけた騎士団員達によって美智子は救出され、ウルリーカの死体も運び出された。
城下町のスラム街で戦っていた騎士団員達も無事に戦闘を終わらせて帰還し、この事件は幕を下ろす。
医務室に運ばれた美智子の意識も無事に回復し、そのまま医務室で事情聴取を受けた。
何とか騎士団の総本部まで戻って来た事、部屋に戻る時に迷ってしまった結果が近衛騎士団の鍛錬場まで行ってしまった事、そしてそこでウルリーカと戦った事。
「そうか、ならその女頭目が御前達を狙ったと言う訳だな」
「ああ。そっちのスラムの方も何とかなったみたいだな?」
「問題無い。途中で騒ぎを聞きつけた民間人が応援を要請してくれて、私達はあの盗賊団の本隊を一気に壊滅出来た。しかし、まだ分隊は残っているだろうからこれから更に忙しくなりそうだ」
レメディオスのセリフに賢吾はとりあえず一安心。
お互いに一件落着したと言う事で今回の事件も終わりを迎えた訳だが、部屋に戻って次の日の朝を迎えた賢吾と美智子にはまだまだ疑問が残っていた。
「さて、色々整理しましょう」
騎士団員に持って来て貰った朝食のトレイをテーブルに置いて、美智子と賢吾が自分達の中に残っているモヤモヤを吐き出す。
「私はあのウル……何とかって言う女が言っていた事が気になったわ」
「ワイバーンの話か?」
口に入れたサラダを飲み込んだ賢吾も美智子と同じ事を考えていたらしく、すぐに察しがついた様だ。
「ええ。あの女……ワイバーンを使わずにあそこにやって来たって話をしてたでしょ。でもあそこは確か近衛騎士団の鍛錬場だから、私達みたいな一般人がおいそれと入れる場所じゃ無い筈よね?」
そう言ってからパンを口に放り込む美智子を見て、賢吾は神妙な顔つきで頷いた。
「そうだよな。そう言えばあの時は部屋に向かうのに必死で気づかなかったけど、近衛騎士団のテリトリーだったら警備が厳重な気がするし、まして王城に近い場所であんなに易々と俺等の様な部外者が入れるとは思えない……」
美智子の問い掛けに賢吾は肯定する。
近衛騎士団のテリトリーに、自分達があんなに簡単に入れる訳が無い。
ましてや国内を股に掛ける程に大規模な盗賊団のリーダーであるウルリーカが、ワイバーンを使っているとは言えああも簡単に入れるのだろうか?
そうなると最初の疑問に辿り着く。
「こう言う場所で屋外に鍛錬場がある、それからワイバーンと言う生き物が普通に存在しているこの世界となれば当然空からの襲撃も想定に入れて色々対策しているのが普通だよな?」
「そうね。近衛騎士団って言う位だから当然そうした襲撃には備えているでしょうし、ほら……私達の世界でも映画とかで出て来る対空ミサイルとかだっけ? ああ言うのがあったりするじゃない」
「だからワイバーンで来なかったのかな。空を飛んでいてワイバーンごと攻撃されるのを恐れて……」
だったらつじつまが合わない訳でも無いが、近衛騎士団の鍛錬場と言う警備の厳しいエリアにコソコソ忍び込むのは幾ら情報収集能力に優れていても厳しいレベルでは無いだろうか?
「何か、話がかみ合わないわね……」
「じゃあ一旦その話は止めて、あの城下町で俺達を襲って来たワイバーンについて考えよう」
屋根の上をジャンプして逃げ、ようやく騎士団の総本部の近くまで来た時に突然襲い掛かって来たあのワイバーン。
自分達を狙っている様子だったのは明らかに間違い無いが、気がついたら何処かへ消え去ってしまっていた。
「結局あれっきりだったっけ、私と賢ちゃんがワイバーンに襲われたのって?」
「ああ。俺達の知らない間に何処かに行っちまったみたいだけど、あれがもしあいつのワイバーンだったとしたら誰か部下が操縦していたって事になるのかな?」
「分からないわ。乗り手の姿は全然見えなかったし、仮にあの女の手下だったとしたら私達を捕まえる為にあそこで仕掛けてくるのはリスクが高過ぎるわね」
「それは言えるな」
あくまで素人の考えではあるが、人の出入りが激しい王都の上空からワイバーンであんなに堂々と誘拐をしようと言うのは目立ってしょうがない。
ワイバーンだったら自分達を捕まえてすぐに飛び去る事が出来るから気持ちは分からないでも無いが、その反面目撃情報も多く出るので誘拐するのはリスクが高いだろうと地球人の2人は思う。
こうやって考えれば考える程、賢吾と美智子の頭の中に次々と盗賊団に疑問が湧き出て来る。
「こんな事なら、何とかあのウルリーカって女を生かして色々と聞き出せば良かったぜ」
「仕方無いわ。映画や漫画みたいにそう上手くは行かないわよ。今はとにかく、無事に事件が終わったのを喜んで安心しなきゃ」
「そうだな」
あくまで最終的な目標は地球に帰る事なので、朝食を摂ったら情報収集をしに行こう。
そう決めた2人は、まずは目の前にある食事を平らげる事にするのだった。
ステージ4 完




