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69.ドッグファイト

 バトル開始前のセリフとその戦い方から、ウルリーカが自分達を殺す気は無い事は賢吾にも分かったので少しは気が軽くなる。

 かと言って相手がロングソードと言う武器を持っているのは紛れも無い事実なので、圧倒的に自分の方が不利なのも分かっている。

 今まで騎士団総本部の建物を駆け回って来ただけあって、体力的にも余り余裕が無いので早く決めたいと賢吾は自分を分析しながらウルリーカとバトルする。

 やはり王国全土を股に掛ける盗賊団の女頭目と言うだけあって、賢吾より素早さも体力も上なのはバトルしている賢吾自身が感じている。

(くっそ……こいつ、強いな!!)

 ファーストコンタクトの時に1度だけだが上手く逃げおおせる事が出来たのは、周りのシチュエーションも手伝ってくれたのが大きい。

 あの時は隙を突いてウルリーカの体勢を崩す事に成功したのだが、タイマンで戦う今は賢吾との実力差が明らかだ。


「ふっ!」

「ぐはっ!?」

 ロングソードの下段薙ぎ払いをジャンプで回避したまでは良かったが、着地と同時に上手く当たる事まで計算していたのか、ロングソードを薙ぎ払った勢いを利用したウルリーカの左の回し蹴りが賢吾の側頭部に綺麗に決まる。

 吹っ飛んでゴロゴロと地面を転がる賢吾だが、ここで負けてしまえばまた奴隷として売られてしまう。

 それだけはどうしても避けたいと言う気持ちだけで、頭の痛みでふらつきつつも立ち上がる。

「無駄に抵抗するとどんどんダメージが増えるよ。さっさと諦めて売り飛ばされたらどうだい?」

「俺は品物じゃない!! 命を持った人間だ!」

「私にとっちゃ大事な品物さ。でもそう言う態度ならしょうがないね。もう少し痛い目を見て貰おうじゃないのさ!!」


 いわゆる姉御口調で宣言しながら再び向かって来るウルリーカ。

 彼女に完全に隙が無いとは言い切れない。

 例えばロングソードを振った後に少し「タメ」の時間を作ってしまうのが彼女の癖らしく、そのタメの時間を隙とみなして賢吾は攻撃を当てられるだけ当てて行く。

 だが、攻撃を当てても彼女には余り効果が無い様だ。

(駄目だ、ダメージが与えられない!!)

 その原因は賢吾とウルリーカの体重差。

 そう、あの奴隷商人の船から脱出する際に戦ったあの太った船長との戦いで感じた事が賢吾に再び襲い掛かって来たのだ。

 あの時も自分より体格で勝っている船長相手にかなりの苦戦を強いられていたのは記憶に新しいが、今もまたそうだ。


 賢吾よりも少し高い身長のウルリーカは、それだけでまず少しリーチで勝る。

 たった少しかと思いきや、その「少し」の差で攻撃が届かない事が今までの日本拳法のトレーニングの中で1度や2度では無かった賢吾だからこそ「少し」の重みの怖さが分かる。

 更に通常では男と女では筋肉のつき方が違うので、その分パワーのリミットも性別で変わるのだが……骨格の違いか普段の鍛え方か、それとも人種の違いか詳しい事までは分からないが賢吾よりも元々のパワーがある様で、一撃一撃がなかなか重いのがウルリーカ。

 胸当てやすね当てと言った、金属製の鎧を身体の各所に装着しているのも体重差を更に大きくさせている原因となっている。

 繰り出されるキックを避ける事は出来ても、腕でブロックしようとするとパワー負けして幾らか弾かれてしまうのだ。

(俺が小さいのもあるかも知れないがな……)

 自分の体格が小柄と言うのもプラスされ、パワーで勝る相手に真っ向勝負は負ける確率が高くなる。

 相手の体格差を気にしない組み手が行われる日本拳法の体得者である賢吾は、その体格差がどれだけ重要なのかがリーチ以外にもパワーと言う面で嫌と言う程に実感して来た。


 かと言ってここで引き下がれない。

 自分と美智子で出入り口のドアをロックしてしまった以上は逃げ場が無いので、ウルリーカを倒さない限りここから出られない。

(くそっ、どうすれば良い……どうすれば!!)

 何か一発逆転出来そうな物は無いかとウルリーカから距離を取りつつ辺りを見渡すと、入り口のドアのすぐ横に木製の2人掛け程の長さの椅子が置いてある。

 肘掛が無い所を見ると、武器を傍らに置いて休む事が出来る様に置かれている物の様だ。

 ウルリーカの攻撃を回避して素早く椅子を両手で持ち上げ、自分の足目掛けて突き出されるロングソードの先端を椅子の座面でブロック。

「ぐ……っ!!」

「えっ!?」

 咄嗟に足を大股に開いたおかげで、座面を貫通したロングソードの刃が賢吾の両足の間を通る。


 突き刺さったロングソードごとそのまま椅子を放り投げる形で手放した賢吾は、いきなりの事で呆気に取られて隙だらけのウルリーカの顔面に全力のストレートパンチ。

「がへっ!!」

 悲鳴と共に吹っ飛んだウルリーカを追って彼女の背中側へと回った賢吾は、彼女の腰をその背中側から手を回して抱えて持ち上げ、そのまま自分の背中側に彼女を頭から叩きつける。

「ぐぇうっ……」

 賢吾の手が彼女の腰から足首までをスルスルっと滑り終わった時には、後ろから彼女の首の骨が折れる音と奇妙な声が聞こえて来た。

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