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66.逆チートの脅威

 賢吾と美智子を狙い、相変わらず追っ手がしつこく食い下がって来る。

 そんな追っ手を倒しても倒してもすぐに復活して来る為、成す術が無い今の状況。

 最初の前蹴りで蹴り落とし切れなかった事から始まり、決定打に欠けるのはやはり小柄な体格故のパワー不足と言うのがある。

(でかい相手は良く隙もでかいとか、スローモーだって言うけど……そんなのとんでもない!!)

 でかければそれだけパワーがあるし、リーチだって違う。

 体格差がいかに勝敗に影響が出るのかと言うのを、あの船長とのバトルでもそれを実感している賢吾。

 武器や防具が使えないなんて、もっとこっちにもチートで優遇して欲しいもんだぜと心の中で悪態をつく彼の前に屋根の端が迫る。

「美智子、飛ぶぞ!」

「うん!」

 何度目か分からないジャンプ。

 最初は勢い任せに自棄やけになって飛んでいた美智子も、場数を踏んでいる為かジャンプするその表情に若干の余裕が見える程になった。


 そして、そのジャンプした先で賢吾と美智子はこの逃亡劇で使えそうなアイテムを発見する。

 3階部分から2階部分へと高低差を利用して上手く飛び降りる形になった賢吾は、そのアイテムを見上げて迷わず手に取った。

 それは屋上にタオルや服を干す為の物干し竿。

 ヨーロピアンスタイルの物干しはスタンドが一般的だが、この王都では日本で良く見かける自分の肩よりも高い竿のタイプも使われているらしい。

 この竿は使い方によっては一気に形勢逆転出来る武器になる。

「ちょ、ちょっと賢ちゃん!?」

「こうでもしなきゃ、あいつ等を倒す事なんて出来やしないからな!」

 どうやら敵が空中に浮かび上がる事が出来るのは、浮遊する事の出来る魔術の効果らしいと直感的に賢吾も美智子も感じている。


 その敵ばかりが有利になる逆チートの脅威にさらされる賢吾は、自分達が度胸一発で苦労しているのにそれをあざ笑うかの様にいとも簡単に屋上から屋上へと逆チートで飛んで来た敵に対して、物干し竿を思いっ切り突き出した。

「ぬおぁぁぁっ……げひゃ!?」

 飛ぶスピードまでを急に落とす事が出来ず、追っ手の1人が喉に物干し竿を突き出される格好で空中で脱力し、そのまま地面へと落ちて行く。

 落ちて行った先にある木箱の山を粉砕したのを見届け、賢吾と美智子は再び走り出した。

 その後も屋上の外側から魔術で浮かび上がって来る敵に対して、主に顔面や喉、みぞおちを狙って賢吾は物干し竿を突き出して撃退して行く。

 レメディオスやロルフは例外だとしても、基本的にはフルアーマースタイルで武装している騎士団と違ってこの盗賊団は個人個人の装備がバラバラなのだ。

 それこそフルアーマーに近い装備の追っ手も居れば、最低限胸当てや肩当てだけしか着けていない様な者も居る。

 だから対峙しないと装備が分からないのだが、その装備が軽ければ軽いだけ賢吾も物干し竿で撃退しやすくなるのだ。


「さっきよりは減ったか?」

「うん。でもまだ居るわよ!」

 少しずつ、しかし確実に物干し竿を使って撃退を繰り返した賢吾のおかげでかなり追っ手の数も減った。

 武器術は習った事が無いのでただ単に物干し竿を突き出している格好の賢吾だが、それでも割と何とかなるもんだなと自分自身に感心していた。

 その行動は追っ手の盗賊団のメンバーにも警戒心を植え付ける。

 無闇に空を飛んで近付けば、リーチの長い物干し竿で撃退されてしまうと言う恐怖心からかその魔術を使わず、自分の足で追い掛けて来る様になったのだ。

 だが、そうなると今度は身に着けている装備が重いフルアーマースタイルの追っ手が屋上から屋上へと飛び移るのを躊躇する様になる。

 ただでさえ重たい装備を身に着けてスピードが上がらないのに、目の前で賢吾と美智子に軽々とジャンプして屋根から屋根へと飛び移られてしまえば勢いが足りないと思って更に躊躇する悪循環だ。


 追うのを諦める追っ手もチラホラ出て来て、賢吾と美智子の背後からようやく追っ手の姿が無くなった。

「良し、後は何処かに身を隠しながら騎士団の総本部に向かうぞ!!」

「うん。もうすぐそこだからね!!」

 総本部の建物の青い屋根を近くに見られる様になり、少しばかりの安心感が2人の心に宿る。

 騎士団の総本部まで逃げ込んでしまえば、盗賊団の追っ手も手は出せまいと踏んだのだ。

 流石に走り疲れたし、屋根の上に居たら目立つので一旦地上に下りてさっさと騎士団の総本部へと入ってしまおう。

 この時、そう考えていた賢吾と美智子は追っ手を振り切ったその安心感から油断していた。

 前もそうだったが家に帰るまでが遠足であり、今回で言えば逃げ切るまでが逃亡劇。

 自分達の目指すべきゴールが見えた事で安心していた2人を、突如大きな影が覆う。

「っ!?」

「え?」

 影に気がつくと同時に、バサバサと羽ばたく大きな音が2人の耳に飛び込んで来た。

「えっ、う、うおわっ!?」

「きゃああっ!?」

 何かにがっしりと身体を掴まれそうになり、寸での所で回避する賢吾と美智子。

 立ち上がりつつ何とか頭上を見てみれば、そこには1匹の大きなワイバーンが自分達を狙っている姿が目に入った。

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