表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/258

65.灯台下暗し

 レメディオスとロルフからクラリッサが聞いた情報によれば、問題の盗賊団の本拠地は何と王都の中にあるのだと言う。

あの分隊のリーダーから聞き出した場所に賢吾と美智子も一緒に向かい、その様子を確認する。

「……まさか、私達を連れ去ったあの女の本拠地がこんなに近くだったなんてね」

「ああ。灯台下暗しってこう言う事なんだな」

そう、王都のスラム街の中にアジトを作っておけば拠点としては圧倒的に便利である。

人の出入りが多いから人混みに紛れて目立たずに行動出来るし、人が多いと言う事はそれだけ盗賊団の仲間に出来そうな人間を幾らでもスカウトしたり募集も出来る。

王都だからこそ物資も豊富に手に入るし、スラムだったら騎士団員達も面倒臭がったりしてなかなか見回りに来ないので身を隠すにもうってつけだ。

「ワイバーンを使って移動していると言う事だったから、てっきり色々な所を飛び回って拠点としていると思ったんだがな」

人間の真理を上手く利用した身の隠し方に、レメディオスは少し悔しそうな表情を浮かべる。

それでもこうしてアジトが見つかったと言うのは大きな収穫だ。


「さて、これからどうするんだ?」

「このまま乗り込むつもりかしら?」

スラム街の一角にある、古びた酒場の近くまでやって来た一行は作戦を練る。

実際に先程から見ていても出入りしているのはガラの悪い連中ばかりなので、その分隊のリーダーが吐いた情報には信憑性があると見える。

しかし、相手の人数が何人なのかは分からないのでこのまま踏み込むのは危険だ。

何人かの応援を連れて来たとは言え、あの女頭目の事だから至る所に仲間をバックアップとして配置していてもおかしくは無い。

「いや、ここは一旦戻るぞ。応援をもう少し連れて来てから突入する」

「そうだな。何があるか分からないし……」


そんなレメディオスとロルフの会話を横で聞いていた賢吾は、何処かで今の様な光景を見た事がある、いわゆる「デジャヴ」状態になっていた。

(あれ、この展開って確か前に……)

夢の中で見た光景が現実に起こるとは言われるが、夢の中で見た光景では無くて現実で、それもかなり最近の話だ。

そして、こう言う時の悪い予感とは大抵当たってしまうものだ。

「やっちまいなぁ!!」

「っ!?」

何処からか聞こえて来た、何かの映画の代名詞にもなった記憶があるそんな声に一同は辺りを見渡す。

その一同の目に見えたのは、スラムの裏路地を駆けて来る何人もの武装した人間と獣人達。

それから屋根の上から弓矢で一同を狙っているのも居る。

「散開しろ!!」

大勢の人員が入り乱れ、スラムの裏路地は一気に戦場と化した。


賢吾と美智子はハッキリ言って戦力としては頼りないので、共にこの裏路地からの脱出を図る。

「美智子、こっちだ!!」

賢吾に先導されながら、美智子も敵の居ない方の路地を駆け抜けて逃げる。

こう言う狭い場所で追い込まれたら逃げ場が無い。

だったら広い場所に一刻も早く出るか、あるいは少し危険だが一気にショートカットできる広いルートがある。

「美智子、高い所は平気か!?」

「えっ!? へ、平気だけど……」

「だったら上に上がるぞ!」

上とは一体何処の事だろうか?

走りながらも頭の中で疑問符を浮かべる美智子の目の前で、賢吾は民家の裏に取り付けられている、屋上へ上がる為の階段に足を向けつつ美智子を引っ張った。

「わわっ、ちょっと!?」

「屋根の上を通って一気にメインストリートまで出るぞ!! そして騎士団の総本部まで走るんだ!!」

屋上の3階部分に出た賢吾と美智子は、それ程隙間が空いていない屋根と屋根の間を全力でジャンプして逃げ続ける。

捕まったら今度こそ間違い無く売り飛ばされるか、最悪の場合は殺されてしまうので美智子も度胸一発の心境で賢吾の後に続いてジャンプして行く。


この様に屋根の上を走って一気にショートカットする作戦を取る賢吾だったが、ここは地球と違う世界。

地球だったら自分の足で屋根の上まで行くか、ロープを投げて上手く引っ掛けてそれで上がるか位しか手段が無いものだが、こっちの世界ではいとも簡単に屋根の上に辿り着けるテクノロジーが実用化されている。

だがそのパルクールを行う2人の目の前には、武装した追っ手が何の道具も使わずに空中に「浮かび上がって」来た。

「……ううぇえ!?」

「嘘ぉ!?」

まさかの光景にここは3階だよね、とこんな状況でも自問自答してしまう美智子の斜め前では、その浮かび上がって来た追っ手を賢吾が全力でダッシュからの前蹴りをかまして屋根の下に蹴り落とす。

だがその追っ手は空中で体勢を立て直し、再び賢吾と美智子を追いかけて来た。

「あ、あんなのチートじゃないかよ!?」

ゲームや漫画では良く見られる、相手を簡単に凌駕する事の出来る強大な力。

賢吾や美智子としては「相手の魔術の効果が自分には無い」と言うのがそれに当てはまるだろう。

しかしながら、魔力が無いので魔術が使えないのはまだ分かるにしても武器も防具も使えないと言うのは、これはいわゆる「逆チート」と言えるのでは無いだろうか?

この世界に神と言う存在があるのならば、その神が何故自分達に味方をしてくれないのか。

今の賢吾と美智子は2人共、居るのか居ないのか分からないこの世界の神に対して、心の中で恨み言を呟きながら逃げるしか無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ