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57.駆け引きの提案

「でもこの話は俺1人じゃ無理だ。騎士団員の協力が必要なんだけど、クラリッサの立場でも駄目だと思う」

「はぁ? 何よそれ?」

 自分だって騎士団員なんだけど……と言う態度のクラリッサだが、賢吾曰く「この問題はロルフとレメディオスクラスじゃないと無理」らしい。

「俺は取り調べの経験なんて無いし、このアイディアを勝手に実行して問題が起こったらまたややこしくなるだろうからな。その内容だけは今とりあえず話しておくけど、実行するのはロルフとレメディオスが戻って来てからだ」

「う、うん……」

「で、賢ちゃんの考えたアイディアって言うのは?」

 納得し切れていない様子のクラリッサを横目に、美智子が急かす様に聞く。

「それはな……」


 そのアイディアを話し終えた賢吾だったが、女2人の反応は何とも微妙なものだった。

「ええ~? それってそんなに上手く行くかしら?」

「アイディアとしては悪くは無いと思うけど、確かにロルフとレメディオスに判断を仰がないと無理みたいね」

 リスクもそれなりに高いので、今の3人だけで実行に移せるものでは無い。

 地球で言えば実際に警察でも良くある話だし、映画や漫画やアニメ等でもありきたりな話の展開として作られる方法だが、こっちの異世界でそれをやる……それも一般人2人と騎士団員1人で、と言うのは到底無理な話だ。

「ロルフとレメディオスはどれ位で戻る予定だ?」

「まだ飛ばした鷹が私の所に戻って来てないから、その連絡用の鷹が手紙をつけて戻って来たら分かるわよ」

「そう、か……」

 もどかしい気持ちが3人の心を支配して行く。

 こうしてもたもたしている間にもあの女頭目が何処かでまた盗みを働いたり、一般人を誘拐して奴隷市場に送る等の被害を拡大しているかも知れない。

 もしくは自分達を狙ってこの騎士団の建物を襲撃する準備をしているかも知れない。

 それでも自分達の判断で動けない以上はここで待つしか無いのだ。


 だからロルフとレメディオスが戻って来るまで待つ事を決めた3人だが、その中の美智子が唐突に賢吾にこんな申し出をして来た。

「ねえ賢ちゃん、頼みがあるんだけど……」

「何だ?」

「私に日本拳法を教えてくれないかしら?」

「へ?」

 本当に突然の申し出に、一体何を言い出すのかと賢吾は驚きを最大まで表現した顔で美智子を見る。

 その顔は美智子も若干引き気味だ。

「そ、そんなに驚く様な話?」

「ああ。だってお前は日本拳法どころか格闘技すら今まで全く無縁だっただろう。突然どうしたんだ?」


 そう、美智子は賢吾とは幼馴染ではあるものの賢吾と違ってインドア派の人間である。

 格闘技は賢吾の日本拳法の試合を何度か見に行った位でしか関わりが無いので、アクションと言うジャンルに関しては全くの未経験である。

 そんな美智子が何故いきなり日本拳法を習いたいと言い出すのか、賢吾には理解が追いつかない。

「……私も自分でそれは分かっているわ。賢ちゃんの試合は何度か見て来たけど、自分で身体を動かすのはそんなにやって来なかったからね」

 そこで一旦言葉を切り、美智子は強い目つきでセリフの続きを言う。

「でもね……今回、私が誘拐されたでしょ。大人数相手に誘拐されて、私……凄く怖かった。だからせめて自分の身は自分で守れる様になりたいって思ったの」

「守る?」

「うん。勿論すぐには無理だけど、もしこの先この世界で生きていかなければならなくなったら……日本とは治安がまるで違う国だから、自分の身は少しでも自分で守りたいの。危険な時は逃げれば良いと思ってたけど、今回みたいに日本の感覚で油断しててこうなったのは私自身の責任もあるからね」


 何が何だか分からないままこの世界に来て、その上でいきなり複数人の男に囲まれて袋詰めにされて誘拐され、奴隷として最終的に売り飛ばされそうになってしまった。

 今回は運良く賢吾と一緒に逃げ出せたものの、もし次も同じ様な事が自分の身に起こったとして賢吾がまた助けに来てくれる保障は何処にも無いのだ。

 アメリカでは護身用に銃の携帯が認められている様に、それからこの世界では武器の所持が当たり前の様に、自分が危険な目に遭わない様に身体を鍛えつつ自信を持ちたいと言うのが今回の申し出の理由だった。

「武器とか防具が使えないって言うのはクラリッサから聞いたから、賢ちゃんに頼みたいの」

「……まぁ、教える分には構わないけど……ついて来られる自信はあるか?」

「無かったらこんな話はしてないわよ。それに私は身体が生まれつき柔らかい方だから、ガチガチに固い人よりは運動に向いているんじゃないかと思ってね」

 そう言いながら立ち上がった美智子は、自分の柔軟性を見てくれとばかりに右足をゆっくりと真上に上げて行く。

 その足は自分の頭の横に……とまでは行かないものの、それでも真横から見てみれば140度位までは上がった。

 利き足で無い左足はおよそ130度位だが、確かに足が90度前後までしか上がらない人間よりは良いだろうとの判断を賢吾は下す。

 そしてそばに座っているクラリッサに頼んで、3人は早速これから鍛錬場に向かう事にした。

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