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54.思わぬ苦戦

 閉じ込められていた船室から出ておよそ5分。入り組んだ船内を抜け、ようやく甲板に出る事が出来た。

 船内に続くドアが開かない様にする為、甲板に置かれているタルをドアの前に置いてブロックしておく。

 後は何とかしてこの港から逃げ出すだけだが、船から下りる前に敵のボスがゆったりとした足取りで2人の前に現れた。

「何処へ行くんだぁ?」

「お、お前はさっきの奴隷商人だな! 俺達はここから逃げるぞ!」

「ほう、出来るものならやってみるが良い」

 肥満体の奴隷商人……それこそ映画等で良くある、太った悪役そのままと言える顔つきや体型の男。

 手には短い鉄パイプを持っており、ロルフの槍やウルリーカのロングソードと比べると殺傷能力は低くなる。


 しかし油断は出来ないし、このまま普通に船から下ろしてくれる筈が無いので賢吾は拳を構えながら美智子に言う。

「美智子、隙を見てさっさと逃げろ。ここは俺に任せろ」

「えっ、いや……賢ちゃんも逃げよう!?」

「2人で逃げて2人とも捕まったらまたあの部屋に逆戻りだぞ。だったらバラバラに行動した方がまだ助かる可能性がある筈だ。逃げて港の警備隊か何かを呼んで来てくれ」

「……分かったわ」

「どうやら話は終わったみたいだなぁ?」

 余裕か、それとも律儀な性格なのか。

 会話が終わるまで待っていてくれたらしいこの船の船長は、鉄パイプを構えつつドスドスと足音を立てて襲い掛かって来た。

 拳を構えた賢吾は鉄パイプの振り下ろしを避け、船長の膝の関節目掛けてローキック。

 そのローキックでガクンと体勢が崩れた船長だが、さほどダメージが無い様ですぐに体勢を立て直す。


 一方で隙を見て走り出した美智子だったが、逃げ出す途中で甲板の近くに居た船員に行く手を塞がれてしまう。

「嫌、嫌あっ! 離してよぉ!!」

 手先は起用でも戦う術を持っていない美智子は賢吾の様に戦う事が出来ず、あっけなく捕まってしまった。

 それでも何とか振りほどこうとするものの、船の作業で鍛えられた屈強な船員に力で敵う筈が無い。

(くぅ……こうなったら!!)

 一か八かで、美智子は自分の着ているTシャツをグイッと捲し上げた。

 その下からはブラジャーに包まれた胸が露わになり、男の力が止まる。

 その隙を突いて、美智子は男の顔面に全力でパンチ。

「ぐわあっ!」

 当たり所が良かったのか美智子から男が離れてくれた。


 だが男は再び美智子に襲い掛かって来ようとするので、咄嗟に近くに落ちていた拳大の石を掴んで男の側頭部を全力で殴りつける。

「がはっ!!」

 打ち所が悪かったのか、男は頭から血を流して地面に倒れ込み動かなくなってしまった。

「……あ……ああ……」

 仕方が無い事だとは言え、やってしまった。殺してしまった。

 美智子は石を手から落としてしまい、その場所にへたり込む。

「くっ……う……ううあああっ!!」

 自分自身を奮い立たせる為か、1度雄叫びを上げた美智子は後悔の念を振り切って足に力を入れて立ち上がり、甲板から港に続く渡し板を降り始めた。


「ふっ、りゃっ、はっ!!」

 賢吾が相手にしている船長は、その体型のせいか動きがかなりスローモ-なので攻撃を当てようと思えば幾らでも当てられる。

 それでもなかなか倒れてくれない。

 幾ら攻撃しても怯む様子が殆ど見られず、賢吾からしてみるとダメージが全然通っていない感触だ。

(くそ、攻撃を当てても当てても倒せない!!)

 男の肥満体が幸いしてか、身体の贅肉がクッション代わりになっているらしい。

「そりゃああ!!」

「うわっ!」

 ドアを塞いでいるタルが置いてあった場所から別のタルを持ち上げた船長は、賢吾に向かってそのタルを投げつけて来た。

 間一髪で地面を転がりタルを回避した賢吾だったが、船長が全力疾走からのタックルをかまして来た。

「ぶほっ!?」


 クリーンヒットのタックルで、今度は後転を繰り返すフォームでゴロゴロと甲板を転がる賢吾。

 このままでは確実にまずい。

 追い込まれているのは自分の方だと思いつつ、それでも賢吾は立ち上がる。

 明らかな体重差があるこの状況では、体格差を考えずに色々な相手とスパーリングをする日本拳法で鍛えた賢吾でも限度があると言わざるを得ない。

 まずいと思うのは自分の攻撃に対する船長の耐久力だけでは無く、まだ他にも1つあるのだ。

「はぁ、はぁ……はぁ……っ!!」

 格闘技の世界でもそうなのだが、戦う時は守るよりも攻める方が体力を消耗する。

 守りに入っているとひたすらブロックに徹するので精神力が削られるのだが、攻めるのは攻撃を繰り出すので守るよりも確実にスタミナが削られる。

 防御の「ぼ」の字も見られない様な船長に対してひたすら攻撃を当て続けていたツケが回って来た賢吾は、明らかに最初よりも動きが鈍っている。

「どうしたぁ~、もう終わりかぁ?」

 その顔にニタニタと嫌らしい笑みを浮かべ、賢吾を次第に追い詰めて行く船長。

 このままでは先に逃げた美智子にもう1度再会する前に殺されてしまう未来しか見えないので、それは避けたい賢吾だったが、その時思わぬ乱入者が現れた。

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