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51.奪還作戦

「ふう、何とか片付いたわね……」

「しかし……犠牲も多く出てしまった」

 最深部の広場で戦っていたロルフとクラリッサ率いる部隊は、人数差や大型の魔物が敵側に居る事もあってかなりの苦戦を強いられた。

 負傷者は勿論、最初に首を刎ねられたあの騎士団員を始めとして結果13人の犠牲者まで出してしまった。

 それでも何とか勝てたのだが、首謀者であるあの女頭目には逃げられてしまった。

 一方でその女頭目と遭遇したレメディオスは一旦引いて態勢を立て直そうとしていたのだが、女頭目の部下は坑道の色々な場所に人員や魔物を配置していたらしくこっちも苦戦していた。

 そんな戦いを続けていれば当然戦う事に集中せざるを得なくなるので、賢吾とレメディオスがはぐれてしまう事になった。


 それでも何とか3つの部隊の戦いが全て終わったのだが、それ以上に現実は残酷であった。

「賢吾がさらわれただと!?」

「ああ、あの女は恐らくこの敵を操っているリーダーだ。僕の目の前で連れて行かれたんだ、すまない……」

 クラリッサから治癒魔術を受けて回復し、申し訳無さそうに詫びるイルダーをレメディオスは手で制しつつ冷静な指示を出す。

「後悔するよりも先にやる事があるだろう。ここからは部隊を2つに分ける。さらわれた魔力を持たない人間を探す部隊と、この戦いで出た怪我人や死者を治療したり埋葬の手続きをする部隊だ。当然だが、捜索にあたる部隊の方の人数を多くするぞ」


 そして、賢吾と一緒にさらわれてしまった女の事も気になる。

 イルダーがその女に接近した時に覚えた、「魔力が無い」と言う違和感。

 それからあの女頭目に捕まってしまった賢吾が叫んだ「美智子」と言う名前。

 詳しく話をイルダーから聞いたレメディオス、ロルフ、クラリッサの3人は、椅子に縛り付けられていたその女こそが賢吾の捜している女なのだと確信出来た。

 それと同時に1つの疑問が生まれる。

「んん、ちょっと待てよ? もしかしたらその魔力を持たない女はあの女頭目に捕らわれていたって事になるのか?」

「そう言う事になるわね。目撃情報とあの賢吾って人の今までの話から察するに、恐らくこの世界に来たのはほぼ同時のタイミングだったって事でしょうね。それでその美智子って人が王都をさまよっていてこの盗賊団に捕まって、何かをされようとしている……」


 ロルフの疑問にそこまで予想したクラリッサを見ていて、矢を射られて倒れてしまったイルダーが女頭目と賢吾の会話を思い出した。

「そう言えばあの女、確か……魔力を持たない人間だから実験生物として高く売れて貰わなきゃとか、情報収集能力を舐めないでくれとか自慢気に話していたよ」

「成る程な、珍しい生物扱いにして高く売りつけるのが目的と言う訳か。そして私達がこの坑道を目指すのを知って先回りをして、あの美智子と言う女を広場に縛り付けて放置し、魔術で姿を隠した自分の部下や魔物を沢山配置しておいた広場に誘い込む……この作戦なら全てつじつまが合う」

「私達騎士団に追い回されているなら仕事も満足に出来ないから、一気にここで叩き潰す作戦って事ね……」


 女頭目率いるこの盗賊団の目的がはっきりしたのは良いが、だからと言ってあの2人を連れ去られたままにはしておけない。

 あの2人がさらわれたと言うのであれば自分達の監督責任にもなるし、盗賊団の頭目だと名乗った女を逃がしてしまうのは非常に悔しい。

 ただし、あくまでもこれは騎士団の中だけの情報と言う事にして緘口令かんこうれいを出しておく。

 こんな状況になってしまった以上、魔力を持たない人間がどうのこうのとは言ってられない。

 本当の事を言えば国中に情報を出して賢吾や美智子、そして女頭目の情報を掴みたいのだが「魔力を持っている」と言うのがこの世界における生物の常識なので、余りこの事実を口外してしまうと例え女頭目の手から取り戻したとしても、また賢吾や美智子がさらわれてしまう事にもなりかねないからだ。


 今回の戦いの結果を見る限り、相手の勢力は思っている以上に強大なのが分かった。

 北の坑道で捕まえたリーダーの男が「分隊」と言っていた事からも分かる様に、部下の人員の数もなかなか多く、大型の魔物まで従えている事からそこ等の小規模な盗賊団とは一線を画すものだ。

 だとすれば賢吾がその後の食事の時に言っていた「本隊を潰さない限りまたあいつ等は活動し続ける」との予想は当たる事になるだろう。

 幾ら盗賊団の部下や従えている魔物を倒しても、あの赤髪の男の様に分隊を潰そうとも大元であるあの女頭目を倒さない限り、幾らでも人員は募集して補充出来るし魔物だってまた捕獲して従えれば良いのだ。

 女頭目のセリフや分隊の存在からすると盗賊団のネットワークも王国のあちこちにあるかも知れないので、動きやすさと言う面では規律に縛られた騎士団よりも動きやすいと言える。

 騎士団に楯突くと言う事は王国を敵に回したと言う事と同じなので、その気になれば第3騎士団の10万人を総動員する事だって可能である。

 だが余り大事にすれば国民の不安をイタズラに煽るので、第3騎士団長のレメディオスはこれからどうするべきかを良く考えなければならない責任を背負う事になった。

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