50.思わぬ再会
「う……ん、ん!?」
「ああ良かった、気がついたみたいだな!」
とりあえず意識があったのでまずは一安心だが、目が覚めた女はイルダーの顔を見て急に椅子をガタガタと揺らして暴れだす。
「い、嫌っ!! 誰なのよあなたは!? 賢ちゃんは何処!?」
「落ち着け! ここは魔物が沢山居て危険だから、僕と一緒にまずは脱出しよう!」
何とか自分は敵では無い事を分からせようとするイルダーだが、女は尚もパニック状態から解放される気配が無い。
このまま暴れ続けられたら、せっかく騎士団員達が魔物や他の武装集団と戦って気を逸らしてくれているのにこちらに気がつかれてしまう。
(参ったな……完全に錯乱状態じゃないか。どうすれば良いんだ?)
このまま声をかけ続けてもお互いのリアクションが平行線のままになるのは目に見えている。
とにかく女を落ち着かせたいイルダーは、ふとある事に気がついて自分の腰に手をやった。
「わ、分かった。それじゃ僕はこれを外すからさ」
そう言いながら、自分の腰にぶら下げている愛用のロングソードをベルトごとカチャカチャと外し、地面へと置いて一旦両手を上げた。
「ほら、これなら大丈夫だろう? それからこのマントの下にも何も隠してないし、何ならズボンも一緒に脱いで全部見せても良いんだよ?」
敵に自分の行動を悟られない様にする為、そして女をここから連れ出して事情を聞く為にイルダーも危険を省みずに武器を置いたのだ。
その必死さが徐々に伝わったらしく、パニック状態だった女の顔が少しずつ落ち着いて来た。
「ほ……本当に敵じゃないの? あいつ等の仲間じゃないの?」
「当然だよ。むしろ僕はあいつ等の敵さ。騎士団に頼まれてこうして君を助けに来た傭兵って訳。色々事情があるみたいだけど、まずはここから脱出しないとね」
騎士団に頼まれたと言うのも傭兵であると言うのも嘘だが、自分が騎士団に認められたと言う事実があるのでこうして女を助けようとしている。
見ず知らずのイルダーに対してまだ半信半疑の女だが、ようやくまともに話が出来る様になった事もあってとりあえずここから出る為に自分を縛っているロープを解いて貰う。
木の椅子に長時間縛り付けられていたせいで背中や尻が痛いが、今はそんな事に構っていられない。
「……分かったわ。それで、ここからどうやって出るの?」
「僕と一緒に来てくれ。僕はこの近くの村の住人だからこの坑道にも何回も入った事があるし、道案内をする」
自分のロングソードを再び装着したイルダーに連れられて女は立ち上がり、敵に見つからない内にさっさとここを出るべく行動開始。
……したのだが。
「ぐあっ!?」
「!?」
ヒュッと風を切る音がしたかと思うと、次の瞬間イルダーの左の太ももに1本の矢が深々と突き刺さる。
突然の出来事に女は唖然として動けず、イルダーはイルダーで足を射られた事で動けず。
そんな2人の元に嘲笑が聞こえて来た。
「ふふっ、残念だったねえ。そう上手く行くとでも思ったのかい?」
現れたのは椅子に縛られていた女をここまで連れて来た、武器や防具で武装している女。椅子に縛られていた女と同じ黒髪である。
と言っても武装している黒髪の女の方が背が高い。
「わ、私をどうする気なのよ!?」
「あんたにはまだまだ利用価値があるからねえ。だからしばらくこれからも私達に付き合って貰うよ」
「ふざけないでよ! 私はあんたの言いなりになんかならないわ!」
「戦えもしないのに良く言うねえ。じゃあ、その口だけ達者なあんたはこれを見てもそう言えるのかい?」
武装している女はそう言うと、自分が引き連れている部下の1人にアゴで命じて1人の人物を連れて来た。
その人物を見た瞬間、椅子に縛られていた女の表情がまるでこの世の終わりを見たかの様なものに一気に変わった。
「美智……子……!?」
「け、賢ちゃん!?」
思わぬ再会だった。
まさかこんな形で、こんな場所で再会する事になるなんて。
周りの戦いの喧騒からそこだけ時間が切り取られて止まったかの様に、呆然とお互いの顔を見る賢吾と美智子。
「な、何で……どうして……?」
「お、おいちょっと待てよ!? 何で美智子がここに居るんだよ!?」
「私等の情報収集能力を舐めて貰っちゃ困るねえ? あんた等にはこれから実験生物として高く売れて貰わなきゃ困るんだよ。魔力を持っていない人間がこうして2人も居るなんて知ったら、無魔力人間の出現に興味を示す連中に例え非合法なルートでも幾らでも買い手がつく筈だからね」
「ふ、ふざけんな! 俺達は実験動物なんかじゃないんだよ! 盗賊団の女頭目だか何だか知らないが、こんな事して騎士団が黙っている筈が……!!」
「うるさいね!」
鞘に収まったロングソードで思いっきり腹をど突かれ、顔を殴られ、部下の1人が取り出した汚い布で猿轡をされて賢吾は黙らされる。
「賢ちゃん!」
一方の美智子も唖然としていた所を彼女の部下に手早く拘束されてしまい、床に組み伏せられながら自分の幼馴染が暴行を受けるのを見るしか無かった。
「さぁ、それじゃあいつ等が騎士団を足止めしている間にここからさっさと出るよ!」
まだ戦いが続いている広場の様子を尻目に、女頭目は床で呻いているイルダーの顔面を足の裏で踏み潰して昏倒させてから、そばの壁にある坑道の裏側への出入り口を通って2人を連れ去るのだった。
ステージ3 完