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47.最深部にて

 その頃、賢吾とレメディオスのグループは「アタリ」のルートに入ったらしく余り戦わずに済んでいた。

 最初に開通されたルートと言うだけあってか魔物の駆除も進んでいるらしく、ここまでで武装集団の何人かに襲われた位なのと魔物を少し狩った程度で地下に向かって進む事が出来ている。

 それでも賢吾の中から不安は消えてくれないどころか、むしろその不安な気持ちが徐々に彼の心を蝕んで行く。

 このままレメディオスに着いて行ったら何か悪い予感がするのだ。

(杞憂で終われば良い……か)

 そのレメディオスのセリフが今になって思い返されるが、この先に一体何があるのかと言う気持ちもあるので杞憂で終わって欲しいのは賢吾も一緒だ。

 道幅の広い坑道を総勢17人で、たまに現れる人間や獣人や魔物を倒しながら進む。


 そして何度目になるか分からない襲撃が終了した所で、レメディオスが地図を広げて今の場所を確認する。

「ここを通ってここまで来て……ここがこうで……こうなってるから……良し、この先が最深部だ」

 そう言いながら地図から顔を上げるレメディオスの視線の先には、大きく逆U字型にくり抜かれた岩壁がある。

 掘り出した鉱物や人員の出入りがしやすい様にこの形で穴を開け、崩れない様に固定されている事からも分かる通り、この穴の先に広がっている大きな広場がこの坑道の最深部になるらしい。

 今まで魔物達や武装集団が襲い掛かって来たのは、十中八九この最深部から始まっていると見て間違い無さそうである。

「皆、準備は良いか?」

 レメディオスのその確認に、賢吾を含めて一緒にここまでやって来たメンバー達は無言で頷きを返した。


「では行くぞ」

 ロングソードを構えて歩き出すレメディオスに続くメンバー達だが、いきなり広場の中に入る様な事はしない。

 まずは最深部の中の様子をじっくりと窺い、それから進入する。

 ここから魔物や武装集団が現れているとなれば、トラップの1つや2つがあったっておかしくないからだ。

「……どうだ?」

 賢吾が恐る恐ると言った表情と声色で広場の様子を覗き見るレメディオスに尋ねるが、騎士団長のその表情は硬い。

「中は生物の気配がする。それも複数だ。それと……ここからでは顔は元より服装も良く判別出来ないのだが、誰か椅子に縛り付けられている人間が居るのが分かる」

「えっ?」

 椅子に縛り付けられている、と言うと真っ先にイメージ出来るのが「監禁」と言う単語が賢吾にはある。

「そ、それ以外に誰か居ないのか? 魔物が居たりとか……」

「いや、私にはその人間以外見えないな」

 だったら代わりに覗いてみるか? とレメディオスに言われた賢吾は、これから踏み込むに当たって自分も見ておかなければと言う気持ちからその広場の中を覗いてみる。


 だが、彼の目には信じられない光景が映った。

「……お、おい……騎士団長」

「何だ?」

「冗談はよしてくれ。明らかに待ち伏せって言うか……俺達を誘い込む為に凄く沢山の敵が居るじゃないかよ!!」

「え?」

 賢吾の目に映ったのは椅子に縛り付けられた人間では無く、明らかに自分達を待ち伏せている数多くの武装した人間、獣人、それから大小数々の魔物達である。

 自分が目にした光景とはまるで違う賢吾の報告に、まさか……と言う訝しげな目つきで賢吾と広場の内部をそれぞれ見比べるレメディオス。

「本当に御前にはそう見えるのか? 例えば何処に何が居る?」

「ええと……あそこの一帯に見えるだけでも10人程の槍を持った連中、あっちには小型の魔物が1……7……20匹位、でかい3つ首の真っ赤な四足歩行の魔物も2匹見える」

「冗談で言っている訳ではあるまいな?」

「冗談で言える内容じゃないぞ、これは! とにかく俺は忠告したし、あんな数の敵を相手にこの人数じゃ絶対に踏み込むのは無理だ!!」


 必死に訴えかける賢吾のその顔から真剣さが窺える。

 冗談で言っている訳では無いとすれば、自分達には見えない「何か」がこの異世界からやって来たと言っている賢吾には見えると言う事だろう。

 正直、レメディオスにとっては「異世界」と言う単語からして最初は半信半疑の状態だった。

 だがあの武器庫での謎の現象、それから治癒魔術を使った時の尋常じゃない痛がりよう、そして「自分に見えていない」ものが見えると言う特異体質。

 だったらこの男はやはり……と疑問が確信に変わって行くレメディオスだが、今はそれよりももっと考えなければならない事がある。

「分かった。もしそれが本当だとしたら敵は魔術で姿を消している可能性がある」

「魔術……?」

「そうだ。御前に攻撃魔術の効果が無かったように、そう言う補助魔術がこの世界にはあるんだ。そうした魔術が見破れると言うのなら、御前には利用価値が十分にあると言える」

「利用価値」と言う自分を物扱いする様な言い方に若干ムッとする賢吾だが、今はレメディオスと同じくそれどころの話では無いので怒りを飲み込んで話を続ける。

「……じゃあここは一旦退散して、作戦を練ったり応援を呼んだりした方が良いと思う」

「良し、聞いての通りだ。一旦全員ここで引き返す。そして態勢を立て直すぞ」

 だが、事態はそうそう上手く転がってくれなかったらしい。

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