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44.出発

 そのモヤモヤした気持ちを抱えたまま、賢吾は翌日の朝に騎士団の一団と村長の息子イルダーと一緒に坑道へと向かう。

 最初、イルダーが「僕もついて行く」と言い出した時にはレメディオスやロルフから反対の声が上がった。

 だが、そこはイルダーが地元の利を活かして説き伏せたのだ。

「そうは言うけどさぁ、君達よりも僕の方が何倍もこの辺りを知ってるんだよ。それに僕は坑道の中で鉱物の採集を父さんから命じられて、この村の仲間達と一緒に森の魔物を倒して森の奥にある坑道の中にも入った事があるんだ。最初にこの事は少し触れたと思うけどなぁ」

 イルダーのマシンガントークは止まらない。

「幾ら坑道までの道が整備されているとは言っても手前の森の中には色々な魔物が居る訳だし、その生態系も僕はずっと見て来たんだよ。僕がまだ19歳だからと言っても、ここの経験は君達より僕の方が圧倒的に上なの。それからそこの女の騎士団員に僕は勝ってるんだから、一定の実力は示したでしょ?」


 まだ10代なのに、20代後半のレメディオスとロルフが口でまるっきり敵わないこの状況。

 いや、もしかしたら面倒臭くなって呆れたと言った方が良いのだろうか。

 そのマシンガントークを黙って聞いていたレメディオスが、首を横に振って溜め息を吐いた。

「分かった。そこまで言うならついて来い。ただし命の保障は出来んぞ」

「そう来なくちゃね……それじゃ、僕も準備をして来るから村の入り口で待っててよ」

 こうしてイルダーを引き連れた騎士団員達はまずその坑道の前に広がっている森を抜けて、森の先にある坑道の入り口に辿り着くまでが最初の関門だ。

「おい、向こうからも来たぞ!!」

「お前達は向こうだ。私達はこっちから攻める!!」

 レメディオスが落ち着いた指示を出し、ロルフが実働部隊の先頭に立って騎士団員達を動かして襲い掛かって来る沢山の魔物達を相手にしている。

 地元民のイルダー曰く、今の時期は魔物達の繁殖期らしく数が増えやすい上に繁殖する魔物達の親は子供が増えると言う事で、ピリピリと気が立って凶暴化しやすいのだとか。


 その話を聞いていた賢吾はイルダーと一緒に行動し、素手でも戦える小型の魔物を相手に戦っていた。

 魔物のサイズも大小様々であり、地球で言う所のウサギ位の小さなものからライオンやキリンサイズの高さや幅のある大きなものも居る。

 大きなサイズは騎士団員達のチームプレイに任せておけば良い、とロルフが言っていたのもあって、賢吾はゲームや漫画で言う所の「ザコ敵」担当となった。

 賢吾自身も思い返してみれば、今まで魔物とは戦った経験は無いと森に入る前に気が付いた。

 厳密に言えば魔物では無いが、人間以外を相手にした最後の記憶はこの世界に来る前のあのカラスとライオン位だ。

 今のこの小さな魔物相手の奮闘は、この世界の魔物と戦うチュートリアルと言っても良いだろう。


 最初こそ自分にも戦えるのだろうか、と言う感情が頭の中にあったものの、いざこうして戦ってみると意外と戦える事に気がつく。

「キシャアアアアッ!!」

 カマキリを中型犬サイズに大きくした様な小型の魔物が襲い掛かって来る。

 そのカマキリもどきの突進をしっかりかわし、動かなくなるまでローキックを何発も叩き込んで絶命させる。

 そう、絶命するまで、徹底的に。

(魔術による治療が俺に出来ないなら、俺はなるべく怪我を負わない様に戦うしか無いだろう!)

 向こうが完全に「()る」気でこっちに向かって来ているのに、それに対して生半可な気持ちで対処していたのでは駄目だ。

 息絶えてから次の魔物に対して対処しなければならない。

 中途半端に対処して言ったのでは、後々になってその魔物が回復してまた襲われかねない。

 それが1体だけ復活するならまだしも、何体も同時に復活されて取り囲まれて……となったらあっと言う間にジ・エンドである。

 だからこそ確実に殲滅していかなければいけないのだが、余り1体にばかり構っていると他の魔物もやって来るのでバランスと状況判断が大事だ。


(1匹をやっと潰したと思ったら、すぐにもう次のが来る! これじゃキリが無い!)

 自分だけで無くイルダーもそうだし、他の騎士団員達も魔物を相手に戦いながら確実に坑道に近づいているのは分かるのだが、その中で賢吾は「自分がどうにも足手纏いだ」と言う感じが拭えない。

 しかし、それを呑み込まなければいけないと言うのも頭の片隅では理解している。

(武器を持っていないから仕方が無いし、武器も防具も使えない。そもそも戦いに来た訳じゃ無いから素直にここは出来る人達に任せよう)

 自分は自分の出来る事をするだけだ。

 そう思いながら小型の魔物達を倒せるだけ倒しながら、賢吾は騎士団の人間達の後に続いて坑道への道を進んで行く。

 幸いにも最初のあの島で出合った様な、大きくて危険なタイプのモンスターには遭遇せずに済んだのだが、イルダーの口から問題の坑道に関する重要な情報が語られたのはその時だった。

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