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43.モヤモヤ

「はぁ……ふぅ……」

「落ち着いたか?」

「ああ、何とかな……」

 ベッドに寝かされておよそ5分。ようやく賢吾の様子が元通りになって来たのを見て騎士団員の3人とイルダーにも安堵の色が浮かぶ。

 一方、元通りの状態に戻った賢吾は一旦自分の左腕を見つめ、それからクラリッサの方に目を向けて問い掛ける。

「おいクラリッサ、俺に一体何をした?」

「えっ、私はただ単に治癒魔術をかけただけよ。それなのに貴方がいきなり叫んで物凄く痛がるから、私達だって訳が分からないわ」

 本当に魔術の効果が賢吾には無いのか、クラリッサも実験をしてみようと思っただけ。

 しかしイルダーに魔術をかけて貰った時とはまるで正反対の反応を見せた賢吾に、クラリッサだけで無く他の3人も戸惑いと驚きを隠せる状況では無かったのだ。


「その……俺の身体って何かやっぱり変なのか?」

「私達に聞かれても困るわ。私は単純に日常生活の中で怪我をした時とか、それこそ戦場で傷を負った時に自分にかける治癒魔術をかけただけだからね」

「色々と調べて貰う必要がありそうだな。魔術に関する事なら魔術に詳しい奴じゃねえと」

 そう言いながらロルフがイルダーの方に目を向けるものの、イルダーは首を横に振って「自分にも分からない」とジェスチャーをする。

「御前も分からない様なもんなのか?」

「うん。流石にこんな症状は僕も見た事も聞いた事も無いよ。だって魔術をかけた時にこんな反応をする人間なんて僕は生まれて始めてこうして一緒に居るもん」

「それもそうか……」

 レメディオスの顔にも困った様な色が浮かぶ。


 騎士団員達とイルダーが話した所によると、どうやら賢吾は魔術のタイプによって2つの反応があるらしいと言う所までしか分からない。

「僕がかけた様なアイスフリーズとか、それからファイアーブレードみたいな魔術は攻撃魔術って言うものに分類される。その名前通りに対象を攻撃する為の魔術だね。それともう1つはこのクラリッサが君にかけたヒールを始めとする治癒、もしくは別の名前で回復魔術。これも名前通りに身体に受けた傷とか、場合によってはそれまでの疲れを癒してくれる様な効果がある魔術の事さ」

 イルダーの話を隣で聞いていたクラリッサも頷いて、その説明を引き継いで賢吾に話す。

「その2つのタイプの違いで、貴方の反応はまるで違ったわね。それともう1種類魔術があって、それは相手の攻撃だったり魔術から自分の身を守る為にかける防御魔術、もしくは別の呼び方で防壁魔術。大体これも予想はつくと思うけど、例えば剣で攻撃されても魔術の壁がその剣を弾いてくれたり、魔術で攻撃された時にそれをブロックして弾いてくれたりしてくれるのよ」

 その先は言われずとも、言いたい事が大体賢吾にもイメージ出来た。

「つまりその防御魔術ってのも、俺には全く効果が無いかもしくはかなり痛みを伴うか……って事になるんじゃないかって言いたいんだろ?」

「そう言う事よ」


 魔術に関しては賢吾は全く分からない。だけど言いたい事は何と無く分かる。

「攻撃魔術は俺に対してはまるで効果が無いから、例えば魔術師を相手にするのは余り気にしなくても良いと」

「ああ」

「だけど俺に治癒魔術をかけたらさっきみたいにのた打ち回る程の痛みを受けつ。更に言えば防御魔術も効果が無いからいざと言うときに俺の身を守る為に防御魔術をかける事も出来ない……って話だろ?」

「そうなるね」

 ロルフもイルダーも頷きで賢吾の考えに肯定するが、レメディオスがその横からこう尋ねて来た。

「ちょっと待ってくれ。治癒魔術を受けた時、お前はのた打ち回る程の痛みを感じたんだな?」

「ああ。滅茶苦茶痛かった。ええっと……何て例えれば良いんだろう? それこそ火で直に焼かれた様な激痛が俺の腕に伝わった。ちなみに俺は骨折を何回かした事があるんだが、その骨折の痛みとはまた少し違う痛みだったよ」

「ふうむ……ますます訳が分からんな」


 訳が分からないのはこの空間に居る5人全員が同じ様だが、こうなってしまった以上はますます自分がこの世界で生き抜いて行くのは難しいだろうと思う賢吾。

 それどころかこれから美智子を探しに魔物がうろうろしている森の中に足を踏み入れなければいけない上に、誘拐された美智子を助けるのも全て騎士団員任せになってしまうだろうから、結局は自分が足手纏いにしかならない未来も簡単にイメージ出来た。

「困ったな。これじゃあ俺は迂闊に怪我も出来ないって訳だろ」

「ああ。もし怪我をしたら私達の場合は自分で治癒魔術をかけるか、治癒魔術を使える他の人間にかけて貰えるのだが……お前が治癒魔術でそう言う反応をするとなると、本来は人体を治癒する為の魔術が自分にダメージを与える結果になっているのだから、怪我をされると治療も後始末も厳しいな」

「悔しいけどそう考えるのが当然だよな。俺も自分でそう思うもん。だけどこれじゃあ、あの洞窟の時みたいに襲って来た連中相手に戦うのも俺は厳しいだろうな」

 レメディオスが淡々とした口調でそう言うのを見て、賢吾の頭の中にはモヤモヤとした感情が生まれていた。

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