38.チャレンジャー
「もっと細かく言えば魔獣の強さでランク分けがされる。基準はその魔獣を捕獲した時に測定した体力値、魔力値、素早さ、体格、それから単独行動か群れて行動するか等の習性の違いとか、元々の凶暴性とかを全て組み合わせてランク分けをするんだ。ちなみにSランクって言うのは最近出来たばかりの基準だ」
ロルフがランクの最後の説明をし、一同はガルレリッヒ村へと足を踏み入れる。
「話をつけて来るから待っていろ」
レメディオスとロルフが村の中へと足を踏み入れ、今夜の宿泊の相談に向かう。
「泊めて貰えるのかな?」
「うーん、微妙な所ね。この村の広さからするとスペースは結構あるからその点に関しては心配しなくても良いと思うわ。けど軍人を嫌っている人間も居ない事は無いし、私もこの村に来たのは初めてだから分からないわ」
とりあえずここはレメディオスとロルフに任せましょ、と言われて賢吾も頷く。
許可が貰えなかったら貰えなかったで、何処か別の場所でキャンプを張るだけの事らしい。
そして待つ事およそ10分、レメディオスとロルフが村の入り口で待っている一同の元に戻って来た。
「どうだった? 泊めてくれるって?」
目を輝かせながら期待を込めて尋ねるクラリッサだが、レメディオスもロルフも何だか微妙な表情だ。
「……一応、許可は下りたのだが……」
「ちょっとややこしい事になっちまってなあ」
「えっ?」
「ややこしいって何があったんだよ?」
歯切れの悪いセリフの先はクラリッサも賢吾も気になる。
説明しない訳にはいかないレメディオスとロルフは、その内容について神妙な顔つきで話し始める。
「騎士団に憧れている若者が居てな。その若者は血の気が多くて、この村で1番の武芸の腕を持っていると自負しているらしい。だから、その若者に現実を教えてやってくれたら良いと言う事だ」
「え、ええー……」
ややこしいと言うか、面倒な事になったなーとクラリッサも賢吾も思わず思ってしまう。
それでもその条件で泊めて貰えると言うのなら、ここを拠点に動ける以上喜ばしい事は無いだろう。
「じゃあ、ロルフか私が騎士団の代表として出れば良いわね」
そう提案するクラリッサだが、そうそう都合良くは行かないらしい。
「いや……それがだな、その若者からの条件もあってだな」
「は?」
まだ何かあんのかよ、とイライラし始める賢吾に、ロルフから条件が一気に伝えられる。
「俺とか団長相手だったら勝てる訳が無いから、誰か別の奴にしてくれってよ」
「何だよそれ、随分自分勝手な奴なんだな」
「そう言われても、この条件が呑めないと泊める事は出来ないそうだ。言ってしまえばそいつは村長の息子らしい」
「ああ、そう……じゃあ、別にここに無理に泊まる必要も無いんじゃないか?」
呆れて物も言えない賢吾はそう提案するものの、騎士団員の身の安全を考えると外でキャンプを張って魔物に襲われて全滅と言う危険性もあるので出来ればこの村の中で泊まりたいと言う。
「しょうがないわね、なら私が出るわ」
「ああ、それが良いかもな」
クラリッサだったら騎士団員だし納得してくれるだろうとの事で、レメディオスも彼女の立候補を許可する。
そうして騎士団の一行は村の中心に設置されている簡易リングへと向かう。
リングと言ってもK-1の試合等で見られる様なロープを張った物では無く、ただ単に土の地面に草や木で枠線を作ってそこでバトルゾーンを区切っている物だった。
「これでやるのか……」
粗末な設備だが、村の中と言う事を考えればこれが妥当なのかも知れないと言う結論に達する。
そのリングの前には1人の若者が待っている。
若者は銀髪で黒いマントを羽織っており、その腰の部分からはロングソードの柄が見えている。
「やっと来たみたいだね。で、誰が僕の相手をしてくれるのかな?」
(うわ、典型的なドラ息子って感じだ……)
人間はその第一印象で、全体の80パーセントのイメージが決まると言っても過言では無い。
賢吾は口には出さないものの、その話し方や身なりでどうしてもそう思わざるを得なかった。
それでも騎士団に正面切ってチャレンジして来る辺りは、余程自分の腕に自信があると見える。
その賢吾の気持ちを代弁してくれたのがレメディオスだった。
「君か……我が騎士団に憧れていると言うのは?」
「ああそうだ。僕だったら騎士団員相手でも引けはとらないと自分で思うね。この周辺の魔物だってこの村の仲間達と一緒に何体も討伐して来たんだからさ?」
「ほう……そうか。では仲間に頼らずに1人で何処まで戦えるのか、それを我々に見せて貰おうか?」
「あー良いよ。騎士団長とか副騎士団長相手には無理だけど、普通の騎士団員だったら僕でも全然勝てると思うね」
その余りにも挑発的なセリフに、騎士団員達の間に殺気が漂う。
レメディオスはその殺気を背中で受け止め、自分の信頼の置ける部下に声をかける。
「そう言う事だから、それじゃあ相手を任せるぞ、クラリッサ」
「分かったわ」
そうしてクラリッサが男の前に歩み出たのだが、男はその瞬間表情を変えた。