37.魔物とは?
駐屯地を出発して早3日。
回り道をしたり、休憩中に賢吾が他の騎士団員達とコミュニケーションを取ったり、森での作戦を練ったりしていた騎士団員達はその坑道の近くにあるガルレリッヒ村までやって来ていた。
南西の海沿いにあるこの村のすぐそばには魔物が闊歩している森がある。
しかし村全体に魔物にしか効果が無い強力な魔術の結界を張り巡らせている為、魔物が入って来られない様に対策もしている。
それに海沿いの村と言う事で漁業が盛んであり、船は村の人間達にとっては欠かせない存在だ。
王都に向かうならば、この村の住人達は魔物に襲われない様に陸地での移動を避け、船で王都の近くの陸地まで向かってそこから徒歩で王都に入るのが一般的だ。
騎士団の巡回がある時も王都から派遣されて来るのがこの村の住人にとっては当たり前だったので、陸地の方から村にやって来る人間達は珍し「かった」。
その坑道が発見されるまでは。
坑道が発見されてからは騎士団の手が入り、魔物の討伐も進み、坑道で採れる様々な鉱物を運び出す事の出来る道も整備されて以前よりも魔物による被害は減った。
しかし魔物も人間と同じ生物なので繁殖をして子供を生み、新たな命の数を増やすのが常識。
だから魔物の繁殖によるいたちごっこの状態が続き、完全に魔物の脅威が消えると言う事は有り得ないのだ。
その辺りの説明はガルレリッヒ村に向かう途中でロルフが賢吾にしてくれた。
「魔物ってーのは2つのタイプがあってな。俺達も持っているこの世界の魔力がねじれる事で生み出されるん魔物と、その魔物からまた生み出される子供だよ」
「ねじれる……って言うのは?」
「濁るとか汚れるとかって言い方もするんだけど……言葉で説明するのは難しいな。とりあえずこの魔力って言うのはデリケートなもんで、ねじれが生じると魔物が自然に発生するんだ」
何だかいよいよファンタジーらしくなって来たな、と賢吾は自分の中でワクワクする気持ち、それから怖いと思う気持ちをミックスさせた複雑な表情をしつつもロルフに尋ねたい事があった。
「え、じゃあ……俺達が最初に出会ったあの島で遭遇した、あのでっかい奴もその魔力のねじれが原因で生み出されたって事なのか?」
「ええと……あれは……えっと、そのぉ……」
説明に困って歯切れの悪い反応をするロルフの横から、レメディオスがニュッと右手を差し出して彼を制する。
「その先は私が説明しよう。御前達がこの陸地に向かった後、私達もあの島から撤退して王都に帰還する途中で騎士団員達で聞き込み調査に向かわせて、鷹を使って逐一王都に情報を送って来て貰っている。だがそれとは別にあの王都から出発する前に、島から一緒に撤退して来た王宮魔術師達から手に入れた情報があるんだが、あの魔物はその2つのどちらにも当てはまらないタイプだと言うのが分かった」
「え……?」
じゃああれは魔物では無いのか? と賢吾が聞いてみるが、レメディオス曰くそうでは無いらしい。
そして話す前に、賢吾の耳に口を寄せる。
「話しても良いが、口外はしないと約束出来るか?」
「……ああ、分かったよ」
どうやら機密情報らしいし、自分もこの騎士団員達以外には異世界からやって来た人間だと余り知られたくないのは同じなので賢吾は首を縦に振る。
しかしその情報は、賢吾の表情を凍りつかせるには十分なものだった。
「あの魔物は……まだ不確定なのだが、恐らくは合成生物なんじゃないかと言う見解だ」
「合成……むぐ!?」
思わず大きくなってしまった声を慌ててロルフが塞ぎ、レメディオスが賢吾を睨みつける。
「う……す……すまん」
「まあ良い、続けるぞ。そう言う訳だからあの魔物は私達騎士団が討伐し、王都に持ち帰って調べなければならない。だが、あれだけ大きな魔物なのに目撃情報はあれっきりだ。今の私達が魔物について知っているのはそれだけだ」
これで賢吾も魔物については大体分かったのだが、そうすると必然的に不安が付き纏う。
「俺……は武器も何も使えないから、森に入るならどうすれば良い?」
「とにかく私達から離れちゃ駄目よ。何時何処から魔物が襲って来るか分からないんだからね」
そう言うクラリッサからも。魔物についての追加情報があった。
「ちなみに魔物は6段階のランクで強さが決められているのよ。SランクからA、B、C、D、Eと言う順番になっててね。この森に住んでいる魔物はCランクの魔物が沢山だから、それこそ私達がこうして束になって掛からないといけないのよ」
「ちなみにランクでどれ位の強さか分かるのか?」
「ええ。Eランクは素手でも1人で対応が出来る。Dランクは3人から5人で対応が出来るレベルで、Cランクが10人位で対応しなければいけなくて、Bランクは50人位で対応するの。Aランクは1体で100人で……Sランクともなると1000人レベルね」
Cランクでも束になって来られればこちらも集団で対応するしか無いと言う事が分かり、賢吾は自分がこれからかなり危険な場所へと踏み入れようとしているのを実感した。




