36.新事実発覚
「盗賊団?」
今まさに、手に持ったスプーンに乗っかっている米を口に入れようとしていた賢吾の手が止まった。
「そうだ。この辺りでは有名な盗賊団らしく、かなりタチの悪い連中って事で最近は騎士団にも出動要請が出ていたのでな」
駐屯地の食堂の椅子に深くもたれかかったレメディオスが、嘆かわしいとばかりに腕を組みため息を吐きながら答える。
騎士団員では無い部外者の賢吾は同席させて貰えなかったのだが、腕ひしぎ十字固めを決めたあの赤髪の男……エルマン・マイヤールはその盗賊団の分隊のリーダーだったと言うのが、駐屯地で尋問にかけた結果判明したのである。
「と言う事は、本隊を潰さない限りまたあいつ等は活動し続けると言う事になるのか?」
口に入れた米を飲み込んでから賢吾がそう問い掛けると、今度はロルフが口を開く。
「そう言う事になるな。あの坑道で戦った人数よりも更に多い部下を従えたリーダーが居る、と言う話だが……あのエルマンと言う男はあくまで分隊のリーダーだから詳しい所までは分からないらしいぜ」
「でも、そうだとしたらレメディオスの言う通りかなりタチの悪い存在ね。大規模な盗賊団だったら何処まで勢力を伸ばしているのかイメージしにくいし、国外に逃亡する為のツテとかも人脈を利用して作ったり出来ると思うわ」
事実、以前もそう言うケースが幾つかあったのでそこから騎士団の行動を幾つかイメージ出来るが……今回は規模が大きいのでなかなか本隊のリーダーの情報が掴めないらしい。
(トカゲの尻尾切りって奴か……)
不意に賢吾の頭の中にはそんなフレーズが浮かんだ。
例えばドキュメンタリー番組で良く見かける、日本国内における詐欺グループであったり麻薬の密売グループと言う様な組織ぐるみでの犯罪行為を捜査する刑事達の姿。
だが、トップの情報まではなかなか掴む事が出来ない事は日常茶飯事だ。
現代の地球ではテクノロジーも発達して色々犯罪も多種多様化して複雑になっているので、それと比べてみればこっちのそうしたテクノロジーはまだまだと言ったレベルだろう。
でも、世界が違っても犯罪を犯す奴等の考える事は似た様なもんなんだなと賢吾は妙に納得し、そして感心してしまった。
しかし、賢吾も騎士団のメンバーと一緒にこれからその盗賊団を追い続けなければならない。
賢吾自身にもまだやらなければならない事がある。
「いずれにせよ、美智子があそこで見つからなかったって事はその本隊に渡ってしまったって可能性もあるんだよな?」
「大いに考えられる。悔しいと思うが、私達もその盗賊団を野放しにする訳には行かない。私達第3騎士団は魔物の討伐だけでは無く、そうした盗賊等の犯罪者集団も相手にせねばならんのだからな」
そう、美智子を見つけるまでは賢吾も盗賊団の討伐に同行しなければならない。
賢吾の伝えた情報と美智子の容姿が変わってしまっている可能性もあり、本人確認が魔力の有無でしか出来ないかも知れないからだ。
「まずはとにかく、その本隊を探さなければいけないんだな」
「ああ。あの赤毛の奴から聞き出せた他の情報は……クラリッサが前に少し話していた、別の場所にある新しい坑道も狙ってるって話だ」
そうロルフが言うと、クラリッサがハッとした顔をして声を上げる。
「その新しい方って南西のよね。でもそこは確かまだまだ警備が十分配備されて無かった筈よ?」
「そうだ。だから奴等が狙うには格好の場所だろう」
そのクラリッサの疑問に答えたレメディオスの顔には、冷静な口調ではあるものの僅かな怒りと悔しさが出ている。
「だったらメシ食って早く行こう。それと前々から騎士団にも出動要請が出ていたんなら、他のどんな場所で活動していたとか、被害の状況とかもっと色々な情報が掴めてる筈だろ?」
そう言う賢吾に、クラリッサが力無く横に首を振る。
「そうは言っても、他の事件とかも色々あってなかなか手が回らなくてね。今こうしてやっと本腰を入れて取り掛かれてるって訳」
「そうなのか……」
何にせよ、その南西の坑道に向かえばまた何かが分かるんじゃないかと言う事で4人は駐屯地からまた馬に乗って南下して行く。
赤いインクで区切られている国境ギリギリのラインに掘られているその坑道は、何とか国境の内側にあると言う事でこのシルヴェン王国が掘削を進められる事になったのだ。
だが、問題なのはその位置。
南西の坑道は山の中にあるだけでは無く、その山の周辺には魔物がウロウロ闊歩している森が広がっている。
だから山に辿り着くだけでも一苦労なのに、その上で魔物や盗賊団の連中を相手にしなければならないかもしれないのだ。
出来ればなるべく戦わずして坑道の調査に向かいたいが、それは厳しいだろう。
と言う訳で、今4人が進んでいる後ろには総勢50名程の騎士団員が駐屯地から一緒に着いて来ている。
流石に4人……それも1人は素手でしか戦えない状況では厳し過ぎるので、人員不足を考えて出動制限ギリギリの人員で向かうのだ。