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34.決断

 だが、賢吾の活躍する場は殆ど無いと言える。

 と言うのも坑道の通路の幅が人間5人横並び分のスペースしか無くそこまで広くないのと、敵が全て前方から向かって来ているので賢吾の前方の騎士団員3人が敵を片付けてくれているからだ。

 それでも賢吾は油断しない。

 何故なら時折り、騎士団員の3人を掻い潜って自分の方までやって来るのでその対処をしなければならないからだ。

 素手と武器では前日のロルフとの手合わせと同じくリーチの差があるものの、大きく違うのはここは「屋内」だと言う事である。

 屋外でのバトルとなったロルフとの手合わせでは、そのリーチの長い槍を存分に振るう事の出来るスペースがあったからこそロルフとのリーチの差、それから体格差に成す術無くやられてしまった。

 それに加えて、ロルフは王国騎士団の副騎士団長だけあって実力差でもまだまだ敵わないのも敗北要因の1つだ。


 しかし、今の賢吾が居るのは屋内……それもかなり足元が悪い上に天井もそれほど高くない洞窟の中。

 162cmの賢吾が縦に1.5人分位しか上下には余裕が無く、岩の地面と壁がむき出しになっている空間なので武器を振るうのは通常の平坦な地面と比べてなかなかやりにくくなる。

 それにロルフと違って、この襲い掛かって来ている連中は盗賊。

 武器を扱った事が無い賢吾と比べれば、それは確かに慣れたものではあると思うが……いかんせんロルフのレベルと比べてしまうとスピードもスローモーだしモーションも大振りなので、この状況では素手の賢吾にも十分勝機が見える。

 これでも全国大会まで出場した過去を持っている彼は、この程度の相手なら武器や防具が無くても素早く避けて相手の頭から壁に叩きつけたり地面に投げ落としたりして難を逃れる事が出来ている。


 そのまま騎士団の3人と一緒に最深部に向かって進んで行く中で、賢吾は考えている事があった。

(俺が今までやって来た日本拳法は実戦を重視しているとは言え、学生のスポーツレベルにしか過ぎない。それが全国大会レベルだったとしてもだ!)

 事実、戦場を幾つも経験して来たロルフの武器捌きの前には手も足も出なかった。

 それは武器と素手のリーチの差があったからと言う以前の問題で、賢吾はこう言う長いリーチを持つ武器と戦った経験が全く無いのである。

 そして今もそうだがこれから先……美智子を見つけて洞窟から無事に出られたら地球へと帰る手掛かりを探す旅をする事になるのだろうが、その旅路は決して平和な展開ばかりでは無いだろうとも思ってしまう。

 地球とは異なる世界。常識も文化も、それから生活の基盤も何もかもが地球人の賢吾にとっては未経験。

 魔物が闊歩するこの世界で、素手だけで生き抜いて行くのは至難の業である。

(俺が今まで見た魔物は……あの最初のあいつ位のものだからな)


 あの魔物に素手で勝て、と言われてもそれは不可能だ。

 例えば格闘技で最強の男が居たとしても、ゴリラの手に掛かってしまえばただのエサでしか無いのだ。

 それに魔物以外にも獣人と言う存在が居る、と言うのを賢吾は実際に見て、そして聞いて認識している訳だからますますこの世界で無事に行き抜く為に、彼はひっそりとある1つの決断をしていた。

(スポーツなんて生ぬるい事は言ってられない。今みたいに相手が殺す気で向かって来ているんだったら、俺もスポーツレベルを超えたレベルでの対処をしなければいけないと言う訳だな)

 スポーツはスポーツ、実戦は実戦。

 ルールのあるスポーツとは違い、賢吾が今体験している実戦にはルールなんて存在しない。

 奇襲、武器の使用、多人数での襲撃と言った、まさにバーリトゥードの世界がここにはある。

 そしてそこで生き抜く為には、日本と言う平和な世界で育った賢吾にはなかなか難しそうである。


(それでも、やるしか無いんだ)

 こんな世界からはさっさとおさらばしたいのが賢吾の本音。

 その本音を現実に実現させる為には「人を殺す」と言う選択肢も時には選ばなければならない。

 今も、自分の目の前で騎士団の3人が人を殺している場面を見ている。

 しかしそれは騎士団人に襲い掛かって来る人間達が返り討ちに遭っているからで、この状況に対して「怖い」とか「恐ろしい」と言った感情が特に湧いて来ない。

(俺はこの状況に納得しているみたいだな)

 日本に済んでいる状況でこんな光景が繰り広げられているのであれば、間違いなく自分はその場から逃げ出し110番や119番に通報していただろう。

 だが、エンヴィルーク・アンフェレイアと言う異世界にやって来て……そしてその現実を受け入れた時から賢吾は非現実的な事が起きても余り驚かなくなってしまったのもまた事実。

 そう、ここは「異世界」なのだから。

(俺も……これから先、この世界でこうした場面にまた出くわしたら戦うしか無いんだよな)

 その「異世界」を行き抜く為、まずは無事にこの洞窟を調べて脱出するのだと自分に言い聞かせた賢吾は再び、騎士団員達3人と共に洞窟の奥へと進んで行った。

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