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32.手合わせ(後編)

 日本拳法は日本の武道なので、どちらかが先にポイントを取ったかで勝負が決まる。

 この辺りは剣道等でも同じだ。

 その打撃テクニックは日本拳法特有と言うべき、全身のバネを使った突きが特徴的。非常にパワーがあるもので破壊力が高い事で知られている。

 しかしディフェンス面に関しては不安が残る。

 これは余り防御に重点を置いていないスタイルでもあるので、自分が攻撃を仕掛けた時に相手からカウンターで攻撃を貰いやすい。

 賢吾もそれは同様で、自分がディフェンス面に不安がある事は自分でも分かっている。

 日本拳法ではボクシング、古武術、空手等からテクニックを取り入れており、ボクシングのアッパーカットやフックパンチ等も使われる。

 それから賢吾の習っている流派は回し蹴りを使わないものだったが、最初のカラスの時に繰り出した時の様に、とっさの時に繰り出せる技の1つで回し蹴りも彼は習得している。

 また、日本拳法では型よりも組手重視の実戦重視のスタイル。

 その為に繰り出すテクニックもシンプルなものばかりにして覚えやすくし、それもまた実戦で対応しやすくしているのが特徴だ。


 投げ技と寝技は基本的に柔道と同じで、大外刈りや内股と言った多種多様の投げ技も組み込んだのが日本拳法であり、打撃だけの武術では無い事を証明している。

 投げ技もそうだし、タックルを決めて相手を一気に倒してから柔道と同じく関節技を決める。

 また柔道とは違って打撃を使う事が出来るので、追い討ちとして打撃のテクニックを決めて行けるのもコンビネーションとして大いにありだ。

 そして逆に打撃を決めて相手を怯ませてから投げ飛ばしに掛かる……と言う様に、時と場合によっては柔道よりも投げ技に持ち込みやすいのも日本拳法だ。

 組み手では相手を倒した後に追い討ちを掛ける場合は寸止めだが、実戦では勿論当てて行かなければならない。

 そして自分が倒されて関節技に持ち込まれない様に注意しなければならないのも、柔道からの流れを汲んだものと言えよう。


 日本武道の中でも1、2を争う程に実戦を重視した武道なので、ケンカに強くなりたい、もしくは実戦を重視した武道をやりたいと言う人間にお勧めなのが日本拳法。

 だがその激しさからボクシングと同じく、脳にダメージを受け続けた結果としてパンチドランカーになってしまう事もある。

 かと言ってただの格闘技では無く、武道の一種なので精神面の鍛錬も重要なものだと捉えられている。

 それにポイント先取制のルールが定められているので、賢吾の様に小柄な人間も活躍しやすい武術だ。


 だが、やはり格闘技の場合は大柄な人間の方が強い。

 日本拳法は階級が分かれると言う事は無い、無差別階級制の武術である。

 体重も体格も関係無いのが特徴なのだが、それ故に小柄な人間の方がやはり不利と言える。

 体幹を鍛える事で小柄な人間がパワーで負けない様にする……と言うのは出来ない事では無いのだが、やはり元々の体格を考えると限度があるのも事実だ。

 その分は素早さであったり、独自にコンビネーションを編み出したりと言う事で賢吾は補って来た。

 自分のフットワークを軽くして素早く相手の懐に潜り込んだり、相手の攻撃を捌いて早く決めに掛かるスタイルを確立。

 自分の体幹も一緒に鍛えられたので、この点に関しては効率の良いトレーニングが出来た。

 道場では賢吾より大きな相手はざらに居たし、そう言う自分よりも体格で勝っている相手にどう勝つかと言うのを考えるのは賢吾にとってはこれから先、日本拳法を続けて行く上で最後まで付き合わなければならない課題だと思っている。


 ……なのだが、今の状況はこれまでの道場での常識が一切通用しない相手だ。

 それに祖父や道場師範からの教えでは一切習っていない、まさかの槍使いとの組み手を異世界と言う相手のホームグラウンドでやらなければならない。

 リーチの差、そしてロルフとの体格差を見れば賢吾が圧倒的に不利なのは普通に考えれば分かるし、賢吾自身もそれは思わざるを得ない。

「くっ……うっ!」

 槍の軌道を見て避け、時折り飛んで来るロルフのキックをガードして反撃に持ち込もうとするものの、そこに槍が横に薙ぎ払われるので屈んで回避。

 だが屈むと言う事は動きが止まると言う事でもあるので、槍を薙ぎ払った勢いで身体を回転させたロルフの右回し蹴りが賢吾の頭にクリーンヒット。

「ぐえっ!?」


 きりもみ回転をしながら地面に叩きつけられた賢吾だが、ロルフはそんな彼を見ても一切攻撃の手は緩めずに槍を振り被る。

 殺気を感じた賢吾は即座に地面を転がって回避するが、その直後にフワッと地面から身体が浮く感覚に襲われる。

「え……?」

「ぬん!」

 賢吾を片腕で持ち上げたロルフが、彼の身体を背中から地面に叩きつけたのだ。

「ぐふっ……!!」

 草の地面とは言え、背中から物凄い衝撃が伝わって一瞬呼吸困難に陥る賢吾。

 その賢吾の首をブーツの底でグッと踏みつけ、槍を胸の手前で突き刺す体勢で寸止めにした。

「こんなもんかよ。全然弱っちいじゃねえか」

 呆れと嘲笑が入り混じったロルフのセリフを聞き、レメディオスが宣言する。

「そこまでっ!! 勝者、ロルフ・エイセル!!」

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