30.潜入計画
実際、不利な条件ばかりが揃っていても美智子に再び会えるかも知れないとなれば賢吾は行かない訳にはいかないのだ。
騎士団の人員が余り割けないと言うのもあって、賢吾に同行するメンバーはクラリッサ、ロルフ、そしてレメディオスの3人だけである。
騎士団長や副騎士団長が直々に出向いて城を留守にしても良いのかと思う賢吾だが、王国騎士団員の3人からしてみれば賢吾はこの世界の人間では無い。
そして賢吾に最初に出会ったこの世界の人間が他ならぬ自分達である、と言う事実も相まって賢吾をフラフラ出歩かせると色々と不安があるのだとか。
それにまだ異世界からやって来た人間が居るとなれば、それこそ王国としても放っておけない。
あの島の後始末や報告書の作成はその洞窟の調査が終わってからでも出来る、とレメディオスが主張した事もあって結果的にこのメンバー編成になった。
「相手の人数は聞いているのか?」
「ええと、美智子って人らしき人物は5~6人に囲まれて何処かに連れて行かれたらしくて、見た感じではその5~6人だけって話ではあるけど、他にもっと連れ去った連中の仲間が居る可能性はあるわね」
レメディオスにクラリッサはそう報告したが、相手の人数が定かでは無いので油断は出来そうに無い。
それにまだ疑問はある。
「そもそも何で誘拐なんてしたんだ?」
「さぁな。目立つ街中で素早く誘拐するのは余程手馴れているか、もしくはただの馬鹿か……いずれにせよ、誘拐するって事はそれなりの目的があっての事だろうよ」
その誘拐した奴等を捕まえてみれば済むだろうし、と自分の槍を手に馴染ませる様に構えながらロルフは賢吾に呟いた。
そんな2人の横から、今度はレメディオスがその誘拐集団が向かったとされる洞窟について説明する。
「誘拐については分からないが、その集団が向かったかも知れないダンジョンなら目星はつく」
「ああ、鉱物のダンジョンだろ?」
「そうか、そこなら狙う理由も分かるわね」
騎士団の3人は納得した表情を見せるが、全くの部外者である賢吾は全然納得出来ない。
「おいおい、そっちだけで勝手に納得されても困る。一体そのダンジョンに何があるんだ?」
「ダンジョンの中には価値のある鉱物が色々あるんだ。それを狙って良く盗賊が出没するとの情報を騎士団で仕入れる事があってな。逮捕しても逮捕しても次から次に狙う輩が現れるから、こちらとしても近くの駐屯地からたまに見回りに行って捕まえに行く」
「盗賊か……」
「そうね。その鉱物は武器や防具の材料になったり、それから魔力を生み出す携帯燃料の魔石の原料にもなったりするから、そう言うのを盗掘して売りさばく連中が後を絶たないって訳よ」
世界が変わればテクノロジーも色々変わる様だが、人間の行動原理は余り変わらないらしい。
良い人間も居れば悪い人間も居るのは同じだと言う事だろう。
それを聞き、賢吾はこんな疑問をぶつけてみた。
「もしなんだが、相手がその鉱物の盗掘を目的としている盗掘団だって言うならこっちもそれなりの人員をやっぱり集めた方が良いんじゃないのか? 人員不足だとしても、多勢に無勢って言うのは不安が残ると思うけどなぁ」
レメディオスは賢吾のそのセリフに渋い顔で答える。
「確かに御前のその言い分にも一理ある。しかし、さっきクラリッサも話した通りでまだ相手の人数が定かでは無い以上、やはり人員不足だからこちらとしては大勢動かせない。それから大勢で向かったとしても、その大勢の足音や話し声、それから気配でこちらが様子を探ろうとしている事が分かってしまった場合、その御前の幼馴染の女かも知れない人物に被害が出る可能性もあるだろう?」
「……そう、か……」
騎士団長として戦場の実戦経験も豊富な事から、導き出したその自分の考えをレメディオスは賢吾に伝える。
言葉に詰まってしまった様子の賢吾に、ロルフがフォローとして1つの方法を伝える。
「でも俺達だって全くバックアップ無しで向かう訳じゃねえんだぜ。言っただろ、そのダンジョンの近くには駐屯地があるってな」
「ああ」
「だからその駐屯地の奴等に連絡を入れておいて、そうだな……例えば俺達がダンジョンに着いたらそこから駐屯地に向かって鷹を飛ばして、鷹を着いてから1日経過しても駐屯地に報告に来ない場合は即座に駐屯地からダンジョンに騎士団員を応援に向かわせる、としておけばバックアップは可能になるって訳さ」
地球の様に携帯電話や電子メールなどのテクノロジーがある世界では無い。
しかしそう言ったテクノロジーが無いなら無いなりに、騎士団員達が色々な場所に駐屯しているからこそ出来る独自のネットワークを駆使して工夫して任務を遂行しているのだ。
例え賢吾が追いかけられる立場になったとしてもすぐに見つけてしまうだろう。
「それじゃ、そろそろ出発しよう。各自武器の準備は良いな?」
「ええ」
「こっちも何時でも大丈夫だ」
「なら行くぞ。御前はロルフの馬に一緒に乗せて貰え。ロルフの馬がこの中で1番速いからな」