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29.魔術と不利な条件

「じゃあ、魔術って言うのはどんなものだ?」

「魔術は自分の体内にある魔力を使って、それを色々なエネルギーに変える事で日常生活に役立てたり自分の身を守る為に使うものだ。とは言っても得意な属性、不得意な属性が人それぞれ違うから、全ての属性を同じレベルで使える訳じゃ無い」

「属性……?」

「そうだ。例えばクラリッサだったら風と水の属性魔術が得意で、ロルフは火と風と土の属性魔術。私は4つ全てが得意だ」

「あんたは4つ全てが?」

 だとしたら相当凄そうだな、と賢吾が思っていると横からロルフが割り込んで来た。

「団長はこの世界でも数少ない、4つの属性全てを得意としている人なんだ。ちなみに他の騎士団長2人も4つ全てを使える」

「凄い人材の集まりなんだな」

 国は小さいけど、中身はレベルの高い人材が集まっているらしいのがこのシルヴェン王国らしい.


 そして肝心なのは、武器も防具も使えない賢吾が魔術は使えるのかどうかと言う事だ。

「俺は……魔術は使えるのか?」

「無理だな」

 即答された。

 レメディオスは賢吾の疑問に即座にそう答える。

 理由としてはやはり体内に魔力が無いので、魔術が使える使えない以前の話になってしまうと言う事だ。

 仕方が無いのでロルフ、レメディオス、クラリッサと4人で賢吾は素手のまま向かう事になるのだが、そう考えてみるとこれはまずいのでは? と賢吾は不安になる。

「待てよ、これは滅茶苦茶不利な状況じゃ無いか? まず武器は持つ事すら出来ないだろ? それから防具は触る事は出来ても、さっきみたいに身体に押し当てたら同じ様な事になって結局装着する事が出来ないよな?」

「そうねえ……となれば貴方は素手で戦うか、あの男の人と戦った時みたいに石とかの身の回りにある物で戦うしか無いわね」

 クラリッサも賢吾の考えに同調し、このままの状態で進むしか無いと言う事で意見が纏まる。


(俺、相当な役立たずなんじゃないのか?)

 この世界では最初に出会った『あいつ』の様に魔物が居るのが当たり前。それから武器や防具を身につけて戦う中世ヨーロッパ時代や戦国時代風の戦いが当たり前。そして魔術が使えるのが当たり前。

 そう言う世界にやって来た自分は異世界人。

 異世界人なら異世界人なりに、身の程を知って生きて行くしか無さそうだ。

(どうすりゃ良いんだ……俺……)

 5歳から、元日本陸軍の軍人だった祖父の指導の元で始めた日本拳法。

 その後に知り合いの日本拳法の道場を紹介され、そのまま続けて大学では日本拳法部の部長を勤めただけで無く、全国大会への出場経験もある。

 そう……確かに日本拳法で全国大会の出場経験もあるが、素手でこの世界を生き抜いて行くのは厳しい。


 実際の話、最初にあの謎の男と戦った時には殺されかける寸前まで行ったのだ。

 自衛隊でも格闘術のベースになっている日本拳法ではあるものの、自衛隊では打撃だけでは無く柔道と相撲の投げ技、合気道の関節技も組み合わせた上での格闘術のトレーニングをする。

 その他にも銃剣や短剣での武器術も習得するのだが、賢吾は武器術に関しては一切習っていない。

 祖父と道場の師範が言うには、「銃剣も短剣も日常生活を普通に過ごしていればまず使う機会が無いのだから、その分は徒手格闘術を極めろ」との事だった。

 実際に日本拳法の道場以外では、祖父とその師範が知り合いだった為に個人的に投げ技と関節技のレッスンも長年に渡って受けて来た。

(確かに使う「機会」は無さそうだけど……)

 武器が持てないのは日本でもこの世界でも同じなのだが、言葉の意味が大分違うのを賢吾は嫌でも実感してしまった。


 そんな考え込む賢吾に対して、ロルフがその心を見透かしたかの様な提案を引っさげて声をかけて来る。

「洞窟から無事に帰って来る事が出来たら、俺達と手合わせをするのはどうだ?」

「ロルフ……?」

「何を言い出すんだ、ロルフ」

 唐突な事を言い出した副騎士団長に一斉に視線が集まる。

「何故だ?」

「クラリッサから聞いた話だと、謎の襲撃者を追い払ったそうじゃねえか。武器も何も使わずにな。この世界で生き抜くのは厳しいかも知れねえけどな、普通に生きて行くだけならなかなかのものだと思うぜ?」

「……」

 と言われても、すぐに賢吾は返答が出来ない。

「素手で戦うって言っても、俺は元の世界じゃただの学生だぞ? それに副騎士団長相手だったらすぐに決着がつくと思うけどな」


 別に手合わせをしにこの世界に来た訳じゃ無いので、賢吾は美智子を助けに行きたい気持ちで一杯だった。

 しかし、ロルフはまたその気持ちを見透かした様な発言をする。

「知り合いの女かも知れない情報をこれから追い求めて行くなら、自分でもこの世界でピンチを色々乗り越えて行きたいって思ってるんじゃねえのか?」

「……ああ、その通りだ」

「だったら決まりだな。心配すんな。俺達だって最初から本気で行こうなんて思っちゃいねえからよ」

 自分がこの世界で生き抜いて行く為には、それこそ軍隊格闘術の様に何でもやらざるを得ないのかも知れないと賢吾は思ってしまうのだった。

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