26.追跡準備と再確認
「怪しい武装した男女達と共に、東の山の中にある洞窟の方に向かったらしい」
それが騎士団の2人が手に入れた、美智子らしき人物の足取りだった。
冒険者ギルドで手に入れたその情報が今の所最有力候補なので、騎士団の2人はレメディオスと賢吾を連れて出発準備に向かう。
「東の山の中って言うと、地図で見れば近く感じるんだが……実際は南側から大きく回りこんで行かなきゃならないから結構遠回りのルートになるぜ」
そう言いながら城の武器庫までやって来たロルフは、クラリッサと賢吾にそれぞれ武器と防具を選ぶ様に指示を出す。
だが、クラリッサは良いとしても賢吾は武器を選ぶのを躊躇してしまう。
「……どうした?」
「いや、武器……は俺は使えるのかどうかって思ってさ」
何とも歯切れの悪いその言い方に目を丸くするレメディオスとロルフだが、クラリッサがその時の出来事について説明する。
「あ、えっとね……」
正直な話をすれば、クラリッサ自身もあの謎の男と戦った後で武器に触れた時の現象は未だに信じ切れていない。
それでも実際に自分も経験している訳だし、嫌でも信じなければならないと言うのもまた事実なのでその感情も交えての説明になるのだが……。
「何を言っているのだ……?」
「おいおい、どうかしちまったんじゃねえのか御前? そんなバカみてえな話があったら俺が見てみてえよ」
「……やっぱりそう簡単には信じてくれないわよね。私だって最初その現象を見た時は、この人が嘘をついてるんじゃないかって思ったんだけど……」
でも実際に自分で見ているし体感もしているから間違い無い。
だとすれば、レメディオスとロルフに信じて貰う為には1つしか手段が無いと言う事でクラリッサは賢吾の方を見る。
「その目つき……凄く嫌な予感しかしないんだけどよー……」
「ちょっと痛い思いをすると思うけど、こうなったらもう1度やるしか無いでしょ。それで何も無かったら素直にここから武器を持っていけば良いし、もしまた同じ様な事になったら私達が言っている事が正しいって証明になるじゃない」
何だか誘導されている感じが半端無いのだが、確かに証明するのは論より証拠でそれしか無いだろう。
そう思った賢吾は、まず手近にある木箱に詰められているロングソードの柄を力強く握ってみた。
バチィィィッ!!
「ぐおっ!?」
「うお!?」
今回もまた、同じ事が起こってしまった。
「……え?」
謎の現象が起こってから約5秒後、呆然としていたロルフの口からようやくその一言が絞り出された。
ただ武器に触っただけなのに、何かが破裂する様な音が聞こえたのと同時にまばゆい光と苦しむ賢吾の姿が見て取れた。
何故こんな現象が起こってしまうのかは全く理解出来ない。
「お、おい! 一体何やったんだよ!?」
「俺はただ、この剣を取り出そうとしただけだ」
痺れと痛みが残る右腕をさすりながら、賢吾はレメディオスとロルフにその答えを口走る。
だけど団長と副団長はまだまだ信じる事が出来ない様だ。
「そんな馬鹿な!」
「嘘つくんじゃねえよ! 触っただけでそんな事が起こる訳ねえだろ!」
「でも今、確かにレメディオスとロルフも見たじゃないのよ!」
今回のクラリッサは賢吾の方についている。
「じゃ、じゃあ結局一体何がどうなっているんだよ!?」
何かの原因があるのは確かだが、それが何かは分からない。
もう1度チャレンジしてみたらどうだとレメディオスとが提案するので、今度はそばの壁に立てかけられている槍を手に取った。
バチィィィッ!!
「うぐっ!?」
結局これもまた駄目。
ロングソードと同じ結果が起こってしまったので、レメディオスもロルフも複雑な表情になる。
「剣も槍も駄目となれば、恐らく他の武器でも同じ結果が出るだろうな……」
信じ難い事だが、剣も槍も何故か握れないしあの男の時に試した様子だと短剣も弓も駄目らしいので武器を持つ事が出来ない、と言う結論になりそうだ。
だがそこで、もう1つのある予想が賢吾の頭を過ぎる。
「なぁ、まさかとは思うんだけど……武器が駄目なら防具も駄目なのか?」
「試してみた方が良さそうだな」
武器が持てないまま美智子の後を追いかけるのは危険だが、せめて防具があればまた話は変わって来る。
「じゃ、まずこれを着けてみて」
そう言ってクラリッサが差し出して来た腕当てを、賢吾は若干躊躇しつつも「試してみなければ分からない」と言う事で思い切って掴んでみる。
「……おっ?」
すると、武器の時とは違って何も起こらない。
防具に関しては触っても問題が無さそうだ。
賢吾は安堵の息を吐きつつ、まずは自分の腕のサイズに合うかどうか身につけてみようとした……その時!!
バチィィィッ!!
「ぐぅぁぁ!?」
「うわっ!」
「きゃっ!」
「ぬおっ!!」
また、起こってしまった。
それを見たレメディオスがポツリと呟く。
「それ……確か魔力効果増強の術を編みこんでいる物だから、それが関係しているのではないか?」