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257(最終話).吊り橋効果

 いよいよ、地球に戻る時がやって来た。

 しかし、こう言う時に限って上手く言葉が出ない賢吾と美智子。

「え、あ、おー……お、俺達も元の世界で頑張るから!!」

「こっちの世界、後は任せたわよ!!」

 それだけのシンプルなセリフだったが、こっちの世界のメンバーの心にはしっかり伝わった様である。

『さようなら、異世界の住人よ……』

『私達に任せて、後は心配するな』

 使い魔のシェロフとユグレスも別れの言葉を送り、光が収まった後にはこの世界から賢吾と美智子の2人の姿が消えていた。


「……帰ってしまったんだな、本当に」

「ああ、そうだね」

「不思議な2人だった……」

 エリアスとイルダーとエルマンが名残惜しそうにしているが、彼等にはまだまだやるべき事が残っている。

「どの道、このシルヴェン王国が滅亡した事は他国にも分かってしまう。だったらさっさとアイクアル王国に管理を申し込みに行こう」

「そうだな」

 エリアスのセリフに食堂の従業員2人とセバクターを含めた他のメンバーも頷く。


「そう言えば、エンヴィルーク様とアンフェレイア様はこの後はどうなさるのですか?」

 ふと思い出したかの様にエリアスが聞いてみるものの、この世界の神の2匹は覇気の無い声で答えた。

『俺達はしばらく休む。異世界人が現れたと他国に知られたら大騒ぎになるだろうし、神が介入したとなれば歴史に大きく影響が出てしまうだろうからな』

『ええ……後はお願い出来るかしら?』

「分かりました。消えたあの2人の事も、それから貴方達に出会ったと言う事も俺達は周囲に伏せておきますよ」

『そうしてくれると助かるぜ。それじゃ行こう……アンフェレイア』

『ええ。シェロフとユグレスも、これから平穏な暮らしが出来る様に願っているわ』

 ドラゴンの姿に戻ったエンヴィルークとアンフェレイアは、その場に残った人間と獣人とこの世界で彼等に紛れて暮らしている使い魔に後始末を全て任せて、2匹纏めて何処かへと飛び去って行った。



「……う……」

「あっ……う……うぐ……」

 賢吾と美智子が目を覚ますと、そこはあの落下した建物のすぐ横であった。

 時間も夜のままだったが、もしかしたら時間が経過しているかも知れないのですぐにスマートフォンで今の日時を確認する。

 だがそのディスプレイに表示されていたのは、あのカラオケに行く約束をした日時であった。

「あ……け、結局俺達……ここから落ちただけだったのか?」

「気絶していただけだったのかしら?」


 そうだったらあの体験は一体何だったんだ? と首を傾げる2人だが、賢吾が自分の腹部に鈍い痛みを覚えて顔を歪める。

「いっ……」

「ど、どうしたの?」

「何か腹が……」

 シャツをめくってみてその痛みを覚えた部分を確認する賢吾だが、次の瞬間賢吾と美智子の表情が一変する。

「あ、あれっ……その傷って……」

「山のトレーニングでエリアスに刺された奴だな、これ……」

 それを見た美智子もある事を思い出し、ゴソゴソと自分の懐を漁ってみる。

 するとそこから、あの牢屋の脱出時に自作したノコギリが出て来た。

「あ、あはは……」

「は……はは……」


 夢じゃなかった。

 あれは全て現実だったんだ。

 そして無事に、自分達は元の世界である2013年の3月29日の地球に戻って来られたんだと理解出来た。

 そんな2人の耳にパトカーのサイレンの音が聞こえて来たのだが、賢吾がそれで思い出した事があった。

「あ……そう言えばユグレスの事を通報したんだっけ、警察に」

「ど、どうしよう賢ちゃん?」

「と、とにかくそのノコギリは捨てろ。そしてカラスに逃げられたと言ってごまかすんだ」

「う、うん!!」


 その後、いたずらまがいの電話をしたとして警察からお小言を頂いた2人は約束したカラオケボックスに向かう。

 だが、どうもカラオケを歌う気にはなれなかった。

「……俺達、良く無事に帰って来られたよな」

「本当ね。こうして自作の武器まで作って、ケガもして誘拐もされて、魔物と戦ったり騎士団員と戦ったり……大冒険だったわね」

 一旦捨てたあのノコギリを警察が去った後で思い出の品として回収した美智子の目の前で、賢吾がスッと立ち上がってマイクを握る。


 そしてマイクのスイッチをONにして、賢吾が美智子にメッセージを送る。

「美智子」

「……何?」

「色々と心配をかけたし、怖い思いもさせた。それに……色々と助けられた事もあった」

「…………」

 黙ったままの美智子に、賢吾は意を決して叫んだ。

「俺には……俺には、美智子が居ないとダメなんだ。……美智子、俺と結婚してくれ!!」

 部屋中に響き渡る声で告白された美智子も、スッと立ち上がってもう1本のマイクを握る。

「私にとってのヒーローからの告白だもん……色々と迷惑も掛けるかも知れないけど、私で良ければよろしくお願いします」

 そのまま2人はゆっくりと抱き合い、濃厚な口づけをミラーボールの下で交わして夫婦になる事を誓い合った。


 若い幼馴染み同士の異世界でのストーリーは、無事にこうして帰還した事で幕を下ろした。

 しかし、地球と違うエンヴィルーク・アンフェレイアと言う世界がある限り、その世界でのストーリーはまだまだ終わらない。



 ファイト・エボリューション2~武器も防具も魔法も使えないので、素手の格闘術と身の周りにある物で頑張ってみる~ 完

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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