253.最後の魔導砲
かなりの強敵ではあったものの、この狭い場所を活かして槍の広い攻撃範囲を潰した上で何とか勝利する事が出来た賢吾。
そしてイズラルザを壊滅させた元凶の目の前の魔導砲もまた、砦の中の魔物をあらかた潰して屋上にやって来たエンヴィルークの炎の魔術で焼き尽くされた。
「これで2つ目の魔導砲も終わりね」
「ああ。だけどまだ最後の……王都の地下で造っていたあれが残ってるからそれも潰さなきゃな」
それを達成して初めて「全てが終わった」と言えるので、余りここで安心している時間も無い。
『……ん、アンフェレイアのグループが来たぞ』
念話で連絡を取っていたエンヴィルークが屋上から下の様子を見て、どうやらイズラルザの戦いも収束に向かっている様だと実感出来た。
「良し、後は王都だけだな」
エリアスが灰となった魔導砲を見て、いよいよ最後の戦いに赴こうとする。
しかし、この移動もまたイズラルザに来た時と同じ展開になりそうだと狼獣人が漏らした。
「俺達が先に行って王都に乗り込めば良いんだな?」
『それしかあるまい。私もシェロフも一緒に行くが、向こうの戦力は強大だぞ」
ユグレスのセリフを聞いた美智子が、歩き出しながら狼獣人のコックに尋ねる。
「ねえ……そう言えば自分の第3騎士団だけじゃなくて第1と第2騎士団まで仲間に付けちゃった訳でしょ、あのレメディオスは? 一体どうやって仲間に引き込んだのよ?」
「……それ、俺も気になるな」
美智子もエリアスも気になるその経緯については狼獣人のコックでは無く、同じく事情を知っている女従業員が説明してくれた。
「ああ、第1騎士団と第2騎士団の団長はそれぞれ仲が悪いのよ。だけど2人に共通しているのは「上に上がりたい」と言う野心ね。そこで手を挙げたのがレメディオス団長。彼が元々ランディード王国の騎士団長だったって事もあって、自分が覇権を握る事で新たに国王となった暁には、双璧の将軍として手厚い待遇を約束するって言ったんですって。その騎士団長2人はあくまで騎士として上に行きたいだけであって国王になる気は無いから、将軍待遇として迎え入れてくれるなら……と言う事で手を組んだみたい」
近衛騎士団所属のシェロフの甥が調べ上げた結果だと言う事で、信頼度はほぼ100パーセントだと女従業員から説明された。
「人を懐柔するのが上手いって事なんだな、あの団長は!!」
そっちがその気ならやってやろうじゃん、と燃えるエルマン。
だが、一方のイルダーは圧倒的な戦力差をやはり気にしていた。
「3つの騎士団が纏めて来るなら、イズラルザよりも明らかに戦力差があるね」
『ああ。だから今度はアンフェレイアにその魔力を持たない2人を運んで貰おうと思っている』
シェロフがそう言えば、エンヴィルークも自分の役目を察した様だ。
『俺は道を切り開く役目になる訳だな』
「そうですね。恐らく向こうも俺達が来るのを予想して王都中に戦力を配備している筈。俺達も勿論協力しますから頑張りましょう!!」
狼獣人のコックの決意に他の全員も頷き、まずはアンフェレイア以外の魔力を持っている全員がイズラルザの転送装置で王都に向かった。
そして魔力を持たない2人は、その先陣を切ったグループから2時間程遅れる形で空を飛んで王都へと向かっていた。
何故2時間も遅れたのかと言うと、まずアンフェレイアがイズラルザの町で救助活動に当たっていたのでそれを賢吾と美智子も手伝った事、その救助活動が意外に長引いた事があった。
更にはアンフェレイアがエンヴィルークからリアルタイムで念話で報告を受けていたのだが、その内容からするとやはりかなりの苦戦を強いられている事が挙げられたので王都シロッコに赴くタイミングがなかなか掴めなかった事が理由だった。
その報告の内容も、王都の各地で先に向かったグループが奮戦している状況が入って来ていた。
『主力は人間の姿のエンヴィルークと、あのエリアスって人が操っているアディラードね。その他にもコックの狼獣人とイルダーが第2騎士団長と戦っているし、槍使いの女従業員とイルダーで第1騎士団長と戦っているわ。私とエンヴィルークの使い魔達はそれぞれの騎士団員や培養した魔物達を相手に苦戦しているみたい』
「エンヴィルーク、アディラード、それから使い魔さん達のあれだけの戦力をもってしても尚苦戦するなんて、流石に総力を挙げてこっちを粉砕しに来ている訳でも無いわね」
「おいおい、称賛してどうするんだよ」
しかし、次の瞬間アンフェレイアにかなりショッキングな念話がエンヴィルークから送られて来た。
『……えっ!?』
「ど、どうした?」
焦った声色を聞く事自体が珍しいアンフェレイアから、明らかな動揺の色がその一言だけで窺えた位の内容が告げられる。
『王都が……王都の魔導砲が地下から地上に向けて発射されたんだけど、まず王都に向けて2発特大の魔力のエネルギー弾が撃ち込まれたわ。そして……そして、王城にも3発撃ち込まれて……城が崩壊したって……』
精一杯冷静に伝えようとしているものの、声が震えているのが分かるアンフェレイアの報告に賢吾と美智子も言葉を失う。
「えっ!? 城が……」
「う……嘘、じゃあそれって……」
その結果はそれなりに予想がついてしまうのが腹立たしいやら、悲しいやらだがそれでもアンフェレイアの口からハッキリと聞いておきたかった。
『王族全員……死亡。城下町の住民も7割が死亡、騎士団員も培養した魔物も城下町に沢山居た筈なのに、敵も味方も関係無しに殺しに掛かっているみたいね、あの騎士団長……』
「くそ……レメディオス、絶対許せないわ!!」
美智子がグッと拳を握り締めたその横で、賢吾も同じ気持ちになっていた。
「自分の野望を達成する為なら、敵味方問わず犠牲は問わない……非道にも程があるぜ!!」
王族が全員死亡するだけでは無く、王都もイズラルザと同じく壊滅状態になってしまった。
魔導砲、そしてレメディオスを何としても倒す事を決めた賢吾と美智子の目の前に、既に朝になった空から太陽が照り付ける、至る所で白煙と黒煙が上がる王都シロッコが見えて来ていた。