252.リベンジマッチ
「もう、魔力が無いって本当に不便ね!!」
「全くだ。とにかく急いでくれ!!」
『これ以上出せないんだよ。とにかく王都のシロッコよりもまずはあの砦に向かうぞ!!』
地下で魔法陣で転送して貰い、イズラルザに向かう事が出来たのはこの世界の住人達だけだった。
賢吾と美智子の2人は魔力が無いので、体内の魔力に反応して転送をしてくれると言う魔法陣の効果が得られなかったのは当たり前の話らしい。
なので残る使い魔の2人とアンフェレイアには先にイズラルザの町に魔法陣で第1弾の他のメンバーを追い掛けて向かう事にして貰い、地球人の2人が初めて人間の姿のエンヴィルークと出会ったあの砦へとその張本人……いや、張本ドラゴンの彼の背中に乗って一緒に向かっているのだった。
「くそ……レメディオス団長はついに狂ったか!?」
「もしかすると、私達にあの盗聴器を仕掛けていたのを気付かれたから計画を早めたとか……!?」
『そうかも知れないな。それじゃ山を越えるから寒いのは我慢してくれよ!!』
ほぼ夜が明けてしまった朝の空を地球人達がオレンジっぽい赤いドラゴンに乗って駆け抜けている頃、魔術都市イズラルザにおいては先に到着していたメンバー達が早速騎士団員達を相手に奮戦していた。
「うわ、こりゃひでえ……」
「くそっ、これじゃもう廃墟みたいなもんじゃないか!!」
魔導砲によってやられてしまったそのイズラルザの町は、あちらこちらで建物が崩れ、地面が抉れていて、人々の死体も転がりそこかしこで火の手が上がっていてまさに壊滅状態である。
『ここの人々の治療は任せて!!』
「お願いします、アンフェレイア様!!」
その元凶を作り出した魔導砲のある砦に、自分の回復魔術で治療を買って出たアンフェレイア以外のメンバーが騎士団員達を蹴散らしながら一刻も早く何とかしなければと向かう。
一方で、一足先にその砦に辿り着いた賢吾と美智子とエンヴィルークは砦のすぐそばに着地してから魔物達と激闘を繰り広げる。
どうやらここには騎士団員では無く、見張りと警護を兼ねて培養した沢山の魔物を配置しているらしい。
とは言っても殆どがエンヴィルークの魔術による攻撃で倒せてしまうのだが、大っぴらに動けないとか言ってたくせにここまでやっちゃって良いのか……と賢吾は複雑な気持ちになっていた。
それでも賢吾は小柄な体格の身軽な動きで魔物を翻弄しつつ、この世界に来て更に精度を高めたパンチやキック、関節技も駆使して戦う。
美智子はエンヴィルークに守られながら移動しているだけなので、まるで出番が無いと言える。
エンヴィルークが道を切り開くものの、次から次へと湧き出て来る魔物達に処理が追い付かずに賢吾との距離がどんどん離れて行く。
その距離が離れている事に気が付かずにバトルを繰り広げる賢吾が、最上階のドアを開けて屋上に出てみると衝撃的な光景が目に飛び込んで来た!!
「うおぅ!?」
「ちっ……」
廊下の突き当たりにある屋上へのドアを開けた瞬間、愛用の槍に炎を纏わせて突撃して来る男が1人。
それは魔導砲をコントロールしていたロルフだった。
屋上には初めて出る賢吾だが、結構ギリギリのスペースに魔導砲が建設されていた。
ここからイズラルザの町に向けてあのエネルギー弾を撃ったのだろうと考えつつ、ロルフに向き直る賢吾。
「あんた等の計画は全てお見通しだ!」
指をビシッと差して宣言する賢吾に、ロルフは槍を構え直して鼻で笑った。
「はっ、そうかよ。そりゃーごくろーさん。けどここで御前をグッサリと一突きしてやれば楽に殺せる。それで御前がイズラルザ砲撃の犯人だって事にしてやれば、もっと計画が進めやすくなるんだよなぁ?」
ロルフはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら言うが、証拠もあるのに一体こいつは何を言ってるんだと呆れた顔になりながら口を開く賢吾。
「そもそも俺達を殺す気だったのなら、あの屋敷の炎の海の中でさっさと俺達を殺してれば良かったじゃないか?」
しかし、ロルフとクラリッサが賢吾と美智子を殺せなかった理由はきちんとある様だ。
「バーカ。御前等に魔術の炎は効かないけど、俺達は効くんだよ。だからあそこでモタモタしてたら俺達が先に死んじまうからな。前の手合わせの時に俺は御前に勝った。けど今回は手合わせじゃなく、本気の殺し合いだからここで死んで貰うぜ!!」
槍を構えたロルフが走って向かって来るが、賢吾も当然何もせずにやられる訳にはいかないので対抗する。
炎の槍の攻撃もそうだが、巧みにキック技も繰り出して来て賢吾を翻弄するロルフ。
左、右とキックを放って来るので賢吾もそのキックに足を合わせて対抗。
更に振り被って来た槍も身軽な動きで避ける。
が、避けた後の隙を突いてロルフは前蹴りを賢吾の腹にヒットさせ、体重が軽い賢吾はその衝撃で後ろに転がる。
「ぐおうっ!」
更に倒れ込んで起き上がろうとした賢吾の腹をロルフは思いっ切り蹴り上げる。
「がはっ!?」
物凄い衝撃が自分の腹を襲ったがまだ大丈夫である。
だが、何とか立ち上がった賢吾に再びロルフが前蹴りを放った。
その衝撃で、賢吾は後ろの落下防止用に階段一段分高くなっているフチまで転がってぶつかって止まる。
(危ねぇ……!!)
止まっても安心している暇は無いのですぐに立ち上がると、ロルフがまたもや前蹴りを放って来たので咄嗟にその左足を賢吾は両手でキャッチして捻る。
「ぐっ!?」
その足を放り投げてロルフのバランスを崩し、屋上のフチギリギリでの戦いに持ち込む賢吾。
最初の時と同じ様にロルフのキックに上手く足を合わせて対抗する賢吾は、また前蹴りを食らわない様に先手必勝でロルフの胸に肘を入れ、そこからお返しに自分も前蹴り。
「うお、おっ!?」
その前蹴りでロルフは屋上から落ちそうになり、賢吾は自分が蹴ったロルフの胸を咄嗟に掴んで落下を阻止する。
「ふぅ……」
一息ついた賢吾だったが、そんな賢吾に恩を仇で返す様に賢吾の胸にロルフは頭突き。
「ぐふぉっふ!?」
更に燃え盛る槍を振り被って来たので、賢吾は素早く足のバネを使ってロルフの胸にサマーソルトキックを繰り出し、屋上の外へと蹴り飛ばす。
「う……うおわぁぁあーーーーっ!?」
当然ロルフは砦の下へと落ちて行き絶命し、リベンジマッチは賢吾の勝利で幕を閉じた。