249.過去の真相
賢吾達が空へ舞い上がって空を駆けている頃、セバクター達がその目的地であるランディード王国の王城で戦いを終えてとある物を発見していた。
「これは……任務の報告書?」
城の中で発見した、騎士団長専用の執務室。
その部屋の中の、この城の主がここを去ってから長い年月が経過しているにしてはやたらと綺麗に掃除されている執務デスクの引き出しの中に、1つの書類の束が入っていた。
そこに書かれていたのはレメディオスの任務に関する事だったのだが、まずセバクターが違和感を覚えたのが書類の表記だった。
(シルヴェン王国騎士団専用報告書……ここは確か、ランディード王国の王城だったよな? ここにこれがあっても何の意味も無いと思うし、そもそもこう言う報告書ってむやみに外部に持ち出してはならない筈だが……)
何でここにこんな物があるのだろうか、と首を傾げるセバクターの耳に、部屋のドアが開く音が聞こえた。
『残党も全て処理が終わったぞ』
『こっちも問題無い。後は向こうの結果がどうなっているかだな』
「ああ、分かった」
ドアを開けて部屋に入って来たのは、自分と同じくアンフェレイアの背中に乗ってここまでやって来た使い魔のシェロフとユグレスだった。
その2人の内、セバクターが手に持っている書類にシェロフが気が付いた。
『何だそれは?』
「これか? ああ、ちょっと見て欲しい」
そう言いながらセバクターが差し出した書類を、2人の使い魔は目を通してみる。
『見た所、これはシルヴェン王国の騎士団の報告書らしいが……これがどうかしたのか?』
『内容としても特に変な個所は見受けられないが』
使い魔達は特に疑問を抱いていない様子なので、セバクターは自分が目を通した時に覚えた違和感を報告する。
「内容が間違っている間違っていない以前に、この報告書が何故こんな場所にあるのかって言うのが俺は気になる」
『そう言えば確かに、ここはランディード王国の王城だから遠く離れた場所にあるのはおかしいな』
元々ここがシルヴェン王国騎士団の支部だとすれば存在していても不思議では無いのだが、ランディード王国の王城であるこの場所は今はシルヴェン王国の倉庫だか何かに使われているかされている筈なのでここにわざわざ持って来る必要性が無いのだ。
何でこんな場所に……とセバクターがまだ首を傾げる横で、内容を読み返していたシェロフが納得した声を上げる。
『……そうか、これが理由だったか』
「え?」
『ここの部分を見てみろ』
差し出し返されたその書類の捲られて指を差されている部分に、セバクターは言われた通り目を向ける。
「レメディオス団員が魔物を逃がした可能性が高いので、以前の侵入した賊を逃がした件も含めて再捜査を進めている。しかし証拠が少ない為にまだ断定は出来ていない……レメディオス団員だって?」
レメディオス団「員」と言う表記が気になるセバクターに、シェロフはコック長の姿の時に従兄弟の近衛騎士団員から聞いた情報やその他の情報筋から聞いた情報を全て頭の中で纏めてセバクターに説明する。
『と言う訳だ。賊を逃がしたって言うのと魔物を逃がしたって言うのとどちらが本当なのかは分からなかったが、どっちも本当だったらしいな』
他にも元々レメディオスが近衛騎士団員だった事を聞き、セバクターは納得した表情を見せる。
「そうか、読めたぞ。この報告書に書かれている事を暴露されたらまずいから、こっちに隠して嘘の報告書とすり替えて上に出したって所か。だけど下手に燃やして魔術で復元されでもしたら困るので、とりあえず人目に付かない場所に一旦保管していてそれがここに入っていた……とか?」
『いや、私達に聞かれても困る』
当事者では無いのであくまで予想の域を出ないのだが、もしこれが本当だとしたらレメディオスはわざと賊と魔物を逃がしたのでは? との結論に3人が辿り着いたその時、執務室の外から足音が聞こえて来た。
『みんな、ケガは無いかしら?』
『大丈夫だ』
足音を響かせてやって来たのは人間の姿に化けたアンフェレイアだった。
「アンフェレイア様はご無事ですか?」
『私は別に何とも無いわよ。それと……エンヴィルークから念話で今こっちに向かっているって連絡が来たわ』
「エンヴィルーク様からですか?」
セバクターに問われて、かなり嬉しそうにアンフェレイアは答える。
『ええ。こっちに向かう前の報告もあったんだけど、無事に1つ目の魔導砲の破壊に成功したらしいし騎士団の幹部の1人を倒す事にも成功したらしいわ』
『ほう、だったらまずは第1段階は成功だな』
『ああ、それならこちらも合流した後にすぐ2つ目の魔導砲に向かえる様に出発準備を整えよう』
ユグレスとシェロフも満足そうに頷き、そのシェロフが言った出発準備をする為に動き出す一行。
しかし、時間はこの世界の何処でも同じ様に動いている。
ここにエンヴィルーク率いる一行が向かっている事、ここでアンフェレイア率いる一行が出発の準備を整えている事、そして騎士団の方でも着々と準備が進んでいるのだった。