24.情報収集(後編)
その疑問についてはまた後で色々説明して貰う事にして、今は情報収集を優先する賢吾。
本来の目的がおろそかになってしまってはいけない。
「今から何処に行くんだ?」
「冒険者ギルドよ。この世界ではそのギルドって言うのに登録して色々と依頼をこなすのが当たり前なのよ」
「俺達は騎士団員だから冒険者ギルドとは関係無いんだけど、例えば荷物運びとか魔物の討伐まで色々な仕事を斡旋してくれるのが冒険者ギルドって訳だ」
それを聞き、賢吾は真っ先にハローワークを思い出した。
システムは違うかも知れないが、仕事を探す1人の人間として個人情報を登録してから自分が出来る仕事を探す為に利用する施設、と言うのは変わらない様である。
賢吾はそれと同時に1つの予想を立てる。
「あ、もしかして俺の登録をしに行くのか?」
そうだったらこの先、この世界で色々仕事が出来るかも知れないと賢吾はひそかに意気込むのだが、騎士団の2人の話はそんな期待を粉々に打ち砕くものだった。
「それは無理ね」
「え?」
「貴方の身体には魔力が無いから、それが原因で登録は出来ないわ」
一体どう言う事なんだ? とクラリッサに聞いてみる賢吾だが、その先はロルフからもっと詳しく説明される。
「冒険者ギルドって言うのは登録する為に個人情報を必要とするんだが、その中に魔力量を記入する欄があるんだ。そこを埋めないと仕事の割り振りを考える事も出来ねえんだよ」
「じゃあ、登録が出来ないって言うのはもう根本的な話になるのか?」
「ああ。冒険者ギルドではそうした魔力の量で冒険者達に割り振る事の出来る仕事が変わって来るんだ。ギルドの支部の職員連中がそう言ってるから間違いねえし、俺も登録の書類を見た事があるしな。騎士団と冒険者が協力して任務をやる事もあるんだが、そう言う時は魔力の高い冒険者を優先的に回して貰う事にしてる」
「基本的に魔力の量が多ければ多い程、攻撃魔術や防御魔術、回復魔術でサポートしてくれるからね」
あくまで騎士団のサポートと言う立場で冒険者と手を組むのだが、魔力そのものが無い賢吾は登録以前の話になるのだと言う。
「何とかならないのか?」
「俺達騎士団でもそれは無理だ。陛下が介入すれば話はまた違うかも知れねえが、そもそもの話で前例が無えから手続きに時間が掛かるかも知れないし、最終的に時間を掛けても結局登録出来ないかも知れねえんだぜ?」
「そう、か……」
少しばかり食い下がってみた賢吾だったが、無理なものは無理だと言う結論が出た以上ここは諦めるしか無いらしい。
冒険者ギルドに向かうのは、仕事の紹介等でそのギルドに訪れている冒険者達に美智子の情報を聞く為だと騎士団の2人は話す。
王都で暮らしている人間の情報も確かに大事だが、冒険者は必ずしもこの王都に住んでいる者ばかりでは無く一時的に滞在している者も居るのが当たり前だ。
なので冒険者に色々と情報を聞いてみる事で、新たな美智子の情報を得る事が出来るかも知れないのだ。
その目的地である冒険者ギルドはメインストリートの喧騒から少しだけ離れた場所にあった。
「着いたぞ、ここだ」
その建物は3階建ての木造建築であり、この中で冒険者の登録から仕事の紹介、それから仕事のトラブル解決等が行われていると更に騎士団の2人から説明がされたので、ますますハローワークを思い出す賢吾。
「こう言う場所こそさっきの大通りにありそうなんだけどな」
ふと思った疑問を口に出す賢吾に、クラリッサが彼の方を向いて説明する。
「10年前位は確かにさっきのメインストリート沿いにあったのよ。だけどあの人混みだと往来の行き来も大変だし、仕事を探すに当たっては色々騒がしいよりもなるべくゆっくり落ち着いて選びたいって言う要望があって、この建物に移ったの」
「そうなのか……」
その立地条件なら冒険者が仕事を探すのもそうだが、美智子の情報も落ち着いて探す事が出来そうだ。
使い込まれた形跡のある木製のドアを開けて、ロルフが先頭で冒険者ギルドの中へと入る。
中では数人の冒険者が壁に貼られた依頼内容の記載がされている貼り紙を見て仕事を探していたり、ギルドの職員と話をしている姿が見て取れる。
「じゃあ早速……」
美智子の情報収集をしようと踏み出そうとした賢吾だったが、それをロルフに止められる。
「待て。魔力が無い御前が行ったら何を言われるか分からないし、迂闊に目立つのは良く無いと思うがな」
「それに私達は騎士団員なんだから、前と同じようにここは私達に任せて、貴方はそこのテーブルで待ってて」
「え、ああ……」
魔力が無い事が迂闊に広まってしまっては、好からぬ言いがかりをつけられる事にもなりかねないと言うのが騎士団員2人の意見だ。
そして賢吾も賢吾で最初の港町でろくに情報が集まらなかった事、それから前回の2度目の情報収集の事を思い返して、ここは素直にクラリッサとロルフに任せる事に決めた。
その情報収集が始まって約20分、騎士団の2人が賢吾の待つテーブルに戻って来た結果は……。