245.待ち構えていた部隊
「うおああああっ!?」
「きゃあああっ!?」
その白い光に狙撃(?)された3匹のワイバーンは1匹残らずバランスを崩し、コントロール不能になって波止場に突っ込んで行く。
「ぐう……っ!!」
エリアス、エルマン、イルダーの3人は何とかケガを最小限にしながら不時着出来る様にワイバーンをコントロールするものの、それでも無事に着陸は出来ずに何人かが波止場の地面に投げ出された。
「ぐへっ!!」
「うぐぁ!?」
投げ出された賢吾とエリアスとエルマンは痛みを堪えつつ、パンパンと汚れを払って立ち上がる。
「痛ってえ……何なんだよ……!?」
一体何がどうなったんだと不愉快な気持ちになりながら辺りを見渡した賢吾の視界に飛び込んで来たのは、360度ギッチリと隙間無く自分達を取り囲んだシルヴェン王国騎士団の面々だった。
「くそ……俺達を待ち伏せしてたってのか?」
「その通りよ」
エルマンがそう呟くと、騎士団の包囲網の一角が割れてそこから聞き覚えのある声がブーツのコツコツと言う足音と共に聞こえて来た。
「あ、あんたは……」
「クラリッサ!!」
あの王都で本性を現して襲われてから敵になった彼女が、大勢の騎士団員を伴ってこの波止場で待ち伏せていたのだと言う。
「大人しく降伏してくれれば、苦しませないで死なせてあげるわよ?」
「降伏しなかったら?」
「苦しんで死んで貰う事になるわよ」
それってどっちにしろ死ぬ事になるんじゃないか、と聞いてみたイルダーを始めとして騎士団員以外の全員が心の中で突っ込みを入れた。
そんなクラリッサの後ろに見えるのは、何時だったか賢吾と美智子がシェロフと一緒に、それからロルフに連れられたイルダーがあの騎士団の総本部の裏から続いている、地下通路の先で建造されていた大きな金属製の黒光りする設備があった。
「俺達が殺される理由って言うのはあれか?」
エルマンが指差した先にあるその物体を振り返り、再度囲まれている一行の方に向き直って肯定した。
「そうよ。あれを壊そうなんてのは私達にとっては絶対に阻止しなければならない事だからね」
油断無く武器を構えたままの騎士団員達に混じって、クラリッサも自分の背中に背負っている斧を構え……様とはしないで他の騎士団員達に任せようとするスタンスだ。
それを見たイルダーはクラリッサに、以前レメディオスにチャレンジした時と同じくクラリッサにもタイマンを仕掛ける。
「じゃあ僕と勝負しろ。そして僕が勝ったら見逃せ」
そのイルダーのチャレンジを、クラリッサは鼻で笑って一蹴する。
「悪いけど、私はレメディオスと同じ手には乗らないわよ。何の為に貴方達を待ち伏せてこうやって取り囲んだと思ってるのよ?」
「俺達をしっかり殺す為か?」
賢吾の確認にクラリッサは頷く。
「そうよ。ちゃんと分かる人には分かるのね。だからどんな理由があるにせよ貴方達がここで死ぬって言う事実は変わらないの」
そう言ったクラリッサは再び魔導砲の方を向いて、楽しそうにこう言った。
「さっき、実際に試しにあれを砲撃してみたけどかなりの威力でしょ?」
「えっ、じゃあさっきのあの白い光は……」
「そうよ、魔力のエネルギー弾。あれを食らったら一瞬で灰になって死ねるからそれで死んじゃえば良かったのに……その前に矢で狙撃もしたのにそれも当たらないんだもん。しぶとい人達よね、全く」
クラリッサの話を聞いて、ワイバーンでこの場に不時着した5人の背中に嫌な汗が流れる。
もしあれが直撃していたら、今頃自分達はこの世界から灰になって消滅していたのだろうと怖くなってしまった。
魔力の塊だと言うので賢吾や美智子には効くかどうか分からないが、それでも2人の心にも恐怖心を植え付けるのには十分だった。
だが、その他にまだ疑問に思う事があったので美智子がそれを聞いてみる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。事前に私達がここに来るって言うのを知っていた訳?」
「ええそうよ。レメディオスから聞いたの」
「レメディオスから……? それって何処からの情報なのよ?」
じゃあやっぱりレメディオスに誰かが情報をリークしていたのか? と更に聞き出そうとする美智子だが、クラリッサはまたしても鼻で笑う。
「今から死んで行く人達に話しても意味が無いでしょ? それじゃここでさよならね」
そのクラリッサの言葉と同時にさらに包囲網が狭まるが、エリアスが懐から何かの細かい物体を複数取り出して周囲の騎士団員達に投げつける。
「ふん、悪あがきかしら?」
また鼻で笑ったクラリッサだが、その何かを投げつけた場所に次の瞬間不時着したワイバーンが起き上がって突っ込んで来た!!
「う、うわあああっ!?」
「く、くそっ!?」
物凄い勢いで突っ込んで来た3匹のワイバーンに騎士団員達の包囲網が一気に崩れ、波止場はバトルフィールドと化した。
エルマンとイルダーは地上でそれぞれの武器を使い、賢吾は船から外れて手近に落ちていたオールで騎士団員達に立ち向かう。
それから遠距離攻撃を得意とするエリアスは、自分のワイバーンに飛び乗って空中から攻撃。
そして最後の美智子は見逃さなかった。
バトルフィールドになった波止場の中で、クラリッサが魔導砲の方に向かって走って行くのを……。
「あ、あの女……!!」
当然逃がす訳にはいかないので、美智子はそのクラリッサの後を追って走り出すのであった。




