240.村の地下のヒミツ
「何?」
「1度、僕の村に先に行ってくれないか。そこの地下に僕達が集めた騎士団の物的証拠を保管しているんだ。それを確かめてから色々とやりたい」
「あー、そう言えばさっきエルマンが来た時にそんな事も言ってたわね」
出来ればここの全員で物的証拠を確認させて欲しいと言うのがイルダーの希望であり、それをやってから拠点を潰しに行こうと言う提案だった。
「それを色々と確認すれば、あいつ等が何をしようとしているのかがもっと分かるかも知れないからさ」
「そうか、その為に貴方の村の地下に隠したんだもんね。じゃあ早速……」
行きましょうと言いかけた美智子だったが、そんな彼女に今度はセバクターからストップが掛かる。
「ちょ、ちょっと待て。今までの話を聞く限りではこのシルヴェンの騎士団の連中が急ピッチで計画を進めているんだろう? だったらそれこそ手分けした邦画良くないか?」
「手分け?」
「もー、何なんだよ……」
きょとんとする賢吾、それからせっかく話が纏まりかけたのにまた別の案を出すのか……と若干うんざりした口調で先を促すイルダーを見据えてエスヴァリーク帝国の騎士団員は頷いた。
「ああ。集めた物的証拠は何時でも見られるけど、このまま騎士団の連中に構わずにいなかったら計画がどんどん進んでしまうと思わないか?」
「それは確かに言える」
賢吾も納得した表情を浮かべ、その横から今度はユグレスが提案をして来た。
「だったらやはり手分けしよう。物的証拠の確認は何も全員で無くても良いだろうし、むしろ拠点を再調査して魔導砲を潰すのが最優先の筈だ。ここでああだこうだと意見を出し合っていては、せっかくのチャンスがなくなってしまうかも知れないぞ?」
神の使い魔でもあるユグレスに落ち着いた口調でそう問われ、一行はシーンと静まり返る。
結局その一言からスムーズに話は進み、拠点へと向かうメンバーは使い魔のユグレス、同じく使い魔のシェロフ、部外者と言っても良い位に本来は関係が無い筈のエスヴァリーク帝国騎士団員のセバクターの3人。
彼等はアンフェレイアの背中に乗る形で拠点の1つであるあのランディード王国の王城に向かった。
そして残りの賢吾、美智子、エリアス、イルダー、エルマンの5人はエンヴィルークに連れられてイルダーの故郷のガルレリッヒ村に向かう。
賢吾にとっては美智子の捜索の為に騎士団と一緒にやって来て、村長の息子としてイルダーとバトルした事がまだ記憶に新しい場所でもある。
「ここに来るのは久しぶりだな」
「そうだね。僕とあんたが出会ったのもこの村だったからな」
もう少しで夜が明けそうになる空の下で懐かしさを感じる2人の後ろで、人間の姿になったエンヴィルークが地下室の場所を尋ねる。
『それで……その地下室とやらは何処にあるんだ?』
「ああ、こっちだよ」
イルダーに手招きされて後をついて行くと、村長の息子である彼の自宅に辿り着いた。
彼の両親も在宅だったが、勿論騎士団の話も知っているので地下室に案内してくれる。
そこの居間に置いてある、比較的小さなサイズのタンスとしてイギリス等では有名なシフォニエをどけて足で床をバンとイルダーの父親が蹴ってみる。
するとガコンと音がして床の一部が浮き上がり、そこに指をかけて力一杯引っ張り上げれば地下室に続く階段が現れた。
「この先だよ」
エルマンがここに保管してあると言う物的証拠を見に来た一行だったが、彼等はこの時まだ自分達に襲い掛かる恐るべき事態を予想する事は出来なかった。
「ん……意外と物的証拠は少ないんだな」
「そう言うなよリーダー。これしか無かったんだからしょうがないだろーが。あの砦に俺をまた向かわせるつもりだったんだろうけど、もうあそこは調べ尽くしたから何も無いぜ、本当に」
砦からかき集めて来たと言う物的証拠がドッサリ詰め込まれている、とエルマンは言うもののその袋を見てエリアスは正直に「少ない」と発言した。
「でも良いじゃないか。こうして集めて来てくれたんだから」
「そうそう。それに他の3人も拠点に向かってくれているんだし、これを確認したら僕達も拠点にさっさと向かおう」
賢吾とイルダーがエリアスをなだめる横で、美智子は1人ある事を思い出していた。
「そう言えば話は変わるんだけど」
「何?」
「その拠点に向かう前、何か急ぎの話があるとか何か言ってなかったっけ、エリアス……」
「俺が?」
自分に話を振られるとは思っていなかった顔つきのエリアスに対して、ハッキリと美智子が頷く。
「うん。確か王国の秘宝がどうのこうのって話があって、それがきっかけで貴方の顔色が変わったのを覚えているわ。あれって何だったの?」
そんなに急ぎの話なら、あんな山の中のトレーニングなんてしている暇は無かったんじゃないのか……と美智子は思うものの、エリアスは「もう大丈夫」と返す。
「拠点を潰してくれたおかげでそれはまだ少し時間に余裕が出来た。君達が持っていた吸魔石のがそれだったんだが、あれで魔導砲のエネルギーを蓄えるって言う話をして……無かったっけ?」
「うーん、聞いた様な聞いて無い様な……」
今までかなり慌ただしかったので記憶が曖昧な一行だが、そんな一行の元にバタバタと更に慌ただしい出来事を持って来る足音が聞こえて来た。