239.復活、アディラード
アンフェレイアに治療をして貰った賢吾は美智子と一緒に広場の先に歩いて行き、そこで待っていたエンヴィルークの元に辿り着いて見事ゴールを果たした。
つまり、地球人は2人共に色々ありながらもようやくこのトレーニングを終えたのである。
「あーあ、結局俺は君には勝てずじまいか……」
ゴールを決めた賢吾と美智子の元に、エリアスとエルマンのワイバーンでそれぞれ拾って来て貰ったトレーニングの敵側のメンバーも全員合流した。
その中でポツリとエリアスが放ったその一言で、最後まで賢吾にエリアスは勝てなかった事を他のメンバーも知った。
しかし賢吾と美智子がそれよりも気になるのは、最後のエリアスとのバトルにおいていきなりその姿を見せたあのアディラードについてである。
「それはそうと、さっきのあのアディラード……あれってエンヴィルークから貰ったんだって?」
賢吾がストレートにエリアスとエンヴィルークにそう聞いてみると、アディラードをエリアスにあげた存在のエンヴィルークが直々にその質問に答える。
『そうだ。あれは俺が用意したものだ』
全く否定せずに、自分があのアディラードをあげたのだと言うエンヴィルークに今度は美智子が疑問をぶつける。
「さっきエリアスも言ってたんだけど、シルヴェン王国騎士団に対抗するんだったら私達だけじゃやっぱり力不足って事ね?」
確かにこの人数で王国騎士団に立ち向かうのは無謀としか言えないので、それを踏まえてエンヴィルークが予備として用意していたもう1匹のアディラードを与えたのだと言う。
『ああ。はっきり言ってこの人数では立ち向かえまい。俺達は神だからこの姿でむやみに人の前には姿を現す事は出来ない。そこで使い魔を御前達と一緒に行動させようと思ったが、それでも戦力には圧倒的な差がある。だから予備のアディラードをあげた訳だ』
とりあえず、これで戦力面に関しては少しは不安が解消された。
だがそれでもまだ圧倒的な戦力差があるので、こちらは少人数と言うのを逆に利用して恐ろしい計画を阻止するべく動こう、と美智子が提案する。
「私達の国では「窮鼠猫を嚙む」って言葉があるの。絶体絶命のピンチに追い詰められた時に、小さいネズミでも猫を倒せるって事の例えね。だから私達が絶体絶命のピンチに陥ってもまずは諦めない事が肝心ね」
『それは当たり前だけど……今は作戦の立案でしょ?』
ドラゴンの姿に戻ったアンフェレイアが横から話の軌道修正を促せば、美智子は「まあまあ」と青緑色で目が大きなドラゴンを手で制する。
「まだ話の続きがあるの。で、それと似た様な言葉……これは賢ちゃんから教えて貰ったんだけど「小よく大を制す」って言うのもあるのね。小さいからと言って諦めてはいけないと言う意味よ」
「で、結局何が言いたいんだ?」
さっさと話せ、と若干イライラした口調でエルマンが問いかけて来るので、それだったらストレートに話すわと美智子は口を開く。
「つまり、私達は少人数だからそれを逆手に取って計画を進めるのよ。大部隊だったら統率を取らなきゃいけないけど、今ここで出撃出来るのは使い魔の貴方達やえーと……何帝国だったか名前忘れたけど騎士団員の貴方を含めて全部で8人だから、それぞれの拠点を潰して一気に勝負を決めるのよ」
『勝負を決める……か。具体的にはどうするつもりなんだ?』
エスヴァリークの名前を思い出せない美智子に、エンヴィルークがもっと具体的な説明を求める。
「このトレーニングの前にエリアスが言ってたでしょ? 態勢を整えて部隊を分け、それぞれの拠点をもう1度探索して調べつつ騎士団に対抗する……って。だから3つの拠点を潰す為のメンバー分けを提案しようと思って。少数精鋭だから慎重に選ばないといけないけどね」
「もう1度言っておくと、俺の所属しているのはエスヴァリーク帝国騎士団だ。それでメンバー分けと言っていたが具体的な案があるのか?」
美智子はセバクターの質問にも自信たっぷりに頷く。
「うん。エルマンとイルダーの2人は拠点に先回りしていたでしょ? だからイルダーには3つ目の私達が回ったあの城に行って、探索をしてから合流する。同じくエリアスも2つ目の拠点の砦に向かって貰う。残った4人だけど、まず使い魔の2人にはそれぞれイルダーとエルマンに着いて行って貰って、セバクターとエリアスと賢ちゃんと私は魔術都市イズラルザに向かうの」
「イズラルザに?」
一体そこで何をするんだ、とエリアスが問えば美智子は「まだ潰すべき場所があるから」と話し出す。
「そこから供給されている魔力がエネルギー源となって、あの魔導砲が動くって話を前に聞いたからね。1つ目の拠点の研究所は既にエルマンやその部下が調べ尽くしているだろうからもう良いだろうし、その魔導砲を潰してしまえば計画はストップしたも同然だと思うわ。確か魔導砲はその砦とシルヴェン王国の王城と何処かに後1つあるって聞いてたけど、ええと……何処だったかしら?」
段々と進軍計画が練り上がって行く一同だが、次の瞬間それにイルダーがストップを掛けた。