23.情報収集(前編)
そのロルフの説明を横で聞いていたレメディオスが、ある事を思い出して賢吾に再び確認する。
「そう言えばクラリッサから聞いたんだが、武器に触った時に変な現象が起こったらしいな?」
「ああ、それなんだけど……」
今のロルフと同じく、自分の言葉とあの時の感触を思い出して謎の現象について説明した。
「ふうむ。その武器に触った時の反応は気になるが、まずはそれよりも先にその美智子とやらを探さなければならないな」
「ああ、人相と格好は前に俺があの島で伝えた通りだ」
害は無いと判断された賢吾はこうして釈放されたのだったが、この世界における賢吾の「戦い」はこれからだと言って良いだろう。
美智子らしき人物の目撃情報がこの王都シロッコであるとすれば、騎士団にも捜して貰いたい。
なので、美智子の情報収集を兼ねた王都の案内を再びクラリッサ、それからロルフにして貰う事に。
「事務作業の方はまた副官に任せたの?」
「ああ、俺は外を歩いてる方が楽しいからな」
(それで良いのか……)
クラリッサとロルフの会話を横で聞いていた賢吾は、この会話は良くある事らしいと結論付ける。
その結論を出した賢吾に対し、クラリッサは呆れた顔で賢吾に話を振った。
「ねえ聞いた?」
「隣に居たら嫌でも聞こえる。事務作業の話だろう?」
「そうそう。この人、事務作業が大の苦手でね。だからこの人の副官が事務作業の全般を請け負ってる訳。たまに私も手伝わされたりするから参っちゃうわよ」
「おい、あんまり余計な事言うなよ!」
「だって本当の事でしょ!」
(弱ったなぁ、ケンカ始めちゃったよ……)
いきなり目の前で口論を始めたロルフとクラリッサに対し、賢吾は「まぁまぁ」と割って入る。
「喧嘩ならまたの機会にしてくれないか。今は美智子を捜すのを手伝ってくれよ」
「……分かったわよ」
「そうすっか」
やけに聞き分けが良いんだなと思いつつ、喧嘩が収まってくれたならそれで良いので賢吾は更に申し出をする。
「さっき、一緒に観光案内もしてくれるって言ってたけど……美智子の情報を集めるのが先だから宜しく」
「何度も言われなくても分かってる。それじゃまずはメインストリートで情報を集めてみようぜ」
そう言うロルフに先導され、3人はこの小国シルヴェンの王都シロッコのメインストリートで聞き込み調査を開始。
あの港町の聞き込み調査の時は異世界人の賢吾1人だけだったので、聞き込む時にはやはりと言うか反応が何処かよそよそしかったりつっけんどんにされたのは記憶に新しい。
しかし、今は賢吾だけでは無く騎士団員のクラリッサ、それから副騎士団長のロルフも一緒の為か、街の人間達は警戒心を出さずに色々と答えてくれる。
賢吾だけの時とは違って物腰も柔らかめな対応の人が多く、美智子に関する情報を提供しようとしてくれる。
だが、あの港町での目撃情報はどうやら奇跡と言えるものだったらしい。
と言うのも、今3人が居る場所はメインストリートと言われているだけあって人の往来はかなりのものだ。
日本の渋谷や新宿レベルとまではいかないものの、人混みに紛れてしまえばそれだけで姿を隠す事は容易なレベルの人通りがこのメインストリートにはあるので、美智子の目撃情報は全くと言って良い程に集まらなかったのだ。
「手掛かりは何も無しか……」
「仕方無い、場所を変えてもう1度だな」
「そうした方が良さそうね」
クラリッサもロルフの提案に同意し、3人は人混みから一時的に開放されるべくメインストリートを横切って横道に逸れる。
ここで賢吾がとある光景を見かけて、その事についてクラリッサとロルフに聞いてみた。
「そう言えば、人混みの中に狼の頭をしている人間とか尻尾が生えている人間が居た様な気がするんだけど、何かの仮装行列でもやってるのか?」
賢吾としては本当に何の気無しに聞いてみた疑問だったのだが、その瞬間に騎士団員の2人は鳩が豆鉄砲をくらった様な顔つきになった。
「えっ、あれは獣人でしょ……?」
「見た事無えのか?」
「ああ。俺の世界ではああ言う動物の頭や尻尾を持っているその獣人って言う存在は作り物の中の話だからな」
賢吾のセリフを聞き、クラリッサとロルフは顔を見合わせた。
「本当に違う世界から来たんだな、御前は」
「そうよねぇ……初めて会った時からその格好しかり、立ち振る舞いしかり、それから魔力が感じられない事しかりで色々おかしいなーとは思ってたけど、こうして話を聞かせて貰うと私達は貴重な体験をしてるんだなって思うわ」
今のやり取りだけでも王国騎士団員の2人には色々と思う所があったらしく、妙に納得した表情をされた。
だが、賢吾はその2人のセリフを聞いていてまた新たな疑問が出て来たのでそれを口にする。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今……魔力が何とかって言わなかったか?」
「ええ、確かに言ったわ。貴方の身体からは魔力が感じられないのよ。少ないとかそう言うレベルじゃなくて、本当に一切感じられないの。これも貴方の世界では普通なのかしら?」
どうやら、まだまだ疑問は尽きないらしい。