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236.無茶と驚愕

 しかし、賢吾が構えを解いて背を向けたその時だった。

「くっ……」

 ユグレスが恐ろしい程のスピードで素早く立ち上がり、賢吾を背中から狙おうとする。

「!!」

 狙われた賢吾は対応するのが若干遅れる!

 だがそこに割って入った1人の人物が居た。

「うわあああっ!!」

『ぐうぉ!?』

「はぁ、はぁ、はぁ……往生際が悪いのよ!!」

「み、美智子っ!?」


 賢吾とユグレス、両者の死角から突然現れた美智子はユグレスに全力で駆け寄り、ダッシュからのドロップキックでユグレスを思いっ切りぶっ飛ばした。

「間に合って良かったわね、賢ちゃん」

「あ、ああ。それはどうもありがとう。だけどあのログハウスの中に閉じ込められていたんじゃなかったのか?」

 広場に建っている、先程ユグレスが『美智子はあの中に居る』と言っていたログハウスを指差して美智子に問い掛けると、彼女はこの状況になるまでの経緯を話し始める。

「抜け出して来たわ。ロープで後ろ手に縛られていたんだけど、この人が賢ちゃんが来たのを察知して私を置いて出て行ってしまったのよ。勿論抜かり無く魔物を1体見張りとして配置して行ったんだけど、魔物を倒して出て来たの」

「ど、どうやって……?」


 魔物を倒したと言っても、最初のクモの時や自分がエルマンと戦っている時みたいに自由の身になっていた訳じゃないだろう、と聞いてみるが美智子はブンブンと右手を顔の前で横に振る。

「勿論そんな訳無いじゃない。まず後ろ手に縛られているのを解く為に、私は一種の賭けに出た」

「賭け?」

「うん。後ろ手に縛られているのは手首だけだったし、椅子自体に縛り付けられている訳じゃ無かったから背もたれから後ろに倒れ込んで思いっ切り足を屈めて、椅子の座面を蹴飛ばしてその見張りの足に当てたの」

「え? 上手く行ったのか?」

 そんなアグレッシブな事に良くチャレンジしようと思ったな、と賢吾は驚いて良いのか喜んで良いのか分からない複雑な表情になる。

「何とかね。それで椅子が腕の間から引っこ抜ける形になったから、次に思い切ってジャンプしつつまた足を最大限まで折り曲げると同時に、足の下から腕を通して手を前に持って来たのよ」


 その後に、椅子が自分の足に直撃して痛がっている見張りの顔面を蹴り飛ばして消滅させた美智子は、ロープで縛られている手を壁にゴシゴシと擦り付けて力技で解く事に成功。

 見張りももう居なくなったし、さっさとあのユグレスが戻って来る前にここから逃げなければと思ってログハウスの外に飛び出してみる。

「そしたら、こっちの方から叫び声とか何かがぶつかる音が聞こえて来たからもしかしたらと思ってね。それでさっきの飛び蹴りに繋がるって事」

「あ、ああ……でも無茶し過ぎだよ」

 必ず俺が助けに行ってやるからジッとしていれば良かったんだと思う賢吾だが、美智子は首を横に振った。

「無茶するわよ。だって賢ちゃんに下の方で魔物と戦わされたじゃない。それに賢ちゃんが私を助けに来るって言うのが分かっていたには分かっていたけど、同時に無茶をしているって事もすぐに感づいたからね。それだけ賢ちゃんが頑張っているのに、私だけが黙って助けに来てくれるのを待つなんて出来なかったわ」


 そこまで幼馴染みにキッパリ言われてしまうと、もう賢吾も何も言えない。

「それなら良いけどさ……」と口を閉ざしてしまった賢吾に、美智子は更にこんな事を続けた。

「でもね、最後に活躍するのはやっぱり賢ちゃんだと思ってるの」

「え?」

「覚えてるかしら。ほら……あのコック長を始めとした食堂の人達と実戦形式のトレーニングを宿舎でやった事。あの時、私が言った言葉」

「美智子の言葉……ああ、俺が意識を回復した時の話だな」

 あの時、結果的に勝つ事は出来なかったものの健闘した賢吾に対して美智子がこう言っていたのを彼も思い出した。


『……何言ってるのよ。4人相手に果敢に立ち向かった賢ちゃん、凄く格好良かったわ。他人の振りして尻尾を撒いて逃げちゃう様な男じゃないんだって凄く安心した。最後は確かに負けちゃったけど……でも、それでも賢ちゃんは私にとってのヒーローである事には変わり無いわよ』


「だからね、賢ちゃん。あの時と一緒で賢ちゃんは今も私の中のヒーローなの」

 そう言って、美智子はあの時と同じ様に賢吾にキスをする。

 ただし前回とは違い、今度の彼女がキスをしたのは賢吾の唇だった。

「ん……んんんんんんっ!?」

 いきなりの出来事に何が起こっているのか分からない賢吾は固まってしまい、今までの疲れも筋肉痛も全て吹っ飛んでしまう程のショックを受ける。

「ぷはっ……ななっ、ちょ……!」

「こう言う時じゃないと、こう言う事も出来ないじゃない?」


 誰に見られている訳でも無いんだし、と美智子が言うものの賢吾はその光景を見ている存在が居る事に気が付いていた。

『見なかった事にしておくわよ』

「……あ」

 そのアンフェレイアの声で、やっと美智子も審判役のアンフェレイアに今の会話もそしてキスシーンも全てを見られていた事を知った。

「そうして、くれ……」

「そ、そうして貰えると助かるわ」

 一気に顔を赤らめた地球の2人は、この広場の先に待っているであろう最後の敵の元へと向かうべくさっさと踵を返して歩き出した。

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