235.因縁の人外
進んでいる通路が、人間が横に4人立った状態で一杯一杯の横幅しか無いので動き回るのも賢吾は一苦労だ。
もっと言えば高校の修学旅行で泊まったホテルのユニットバスみたいに、横に2畳分のスペースしか無いと言うのがしっくり来るその通路を抜けて行く賢吾は先手必勝を心掛けて目の前に現れる魔物を倒す。
エンヴィルークの魔術で生み出された魔物なので、前にSF映画で見た様なホログラムの映像の様にいきなり目の前にブゥン……とその実体が現れる。
それを何回も見ていれば慣れてしまうので、出て来たと分かったらすぐに素手なりさっきと同じく岩をぶつけるなりしてさっさと倒す。
横幅の狭いスペースの関係上、逃げられるのが後ろしか無いのでこの戦法しか思いつかないからだ。
「ふぅ……はぁ……」
さっき休憩もしていたがそれでもまた息が上がって来て、休み休み進んで行く賢吾の目の前に明らかな人工物が姿を見せたのはその時だった。
(ん、あれは……?)
灰色の人工物がちらりと岩壁の間から見えたので、賢吾は身体を起こしてその人工物の様子を岩壁の陰から確認する。
(ログハウス……だよな? そしてもうここでこの狭い通路は終わって、大きな広場になっているって事はここら辺で休憩が出来るスペースだな)
何にせよ広場まで来たので少し山小屋で休憩したいと思う賢吾だが、こう言う時に限ってなかなか上手く物事は進んでくれない。
上で何か物音がして、次の瞬間には自分の陰に別の影が重なるのが月明かりによって分かった。
「うおっ!?」
高い岩壁の上、賢吾にとっては完全な死角から無言で飛び下りて来た黒い影。
咄嗟に前方の広場に向かって踏み切り、地面に手をついてぐるりと回って受け身を取る賢吾。
まさかまた魔物が居たのかと後ろを振り向いてみれば、今度は間髪入れずに武器が突き出される。
「くっ……!!」
ギリギリでそれを首を傾けて回避し、その襲撃者の姿を確認する。
「おい、美智子を何処に連れ去った?」
襲撃者……あの岩場で美智子を連れ去ったカラス鳥人のユグレスは自分の武器のバトルアックスを構えたまま答える。
『あの女ならあそこの小屋の中だ。手は出していないから心配するな』
「当たり前だ。さっさと美智子を解放しろ!!」
賢吾の要求をユグレスは鼻で笑い飛ばした。
『ふっ、素直に応じる訳もあるまい?』
「だったら力尽くで解放させて貰う!!」
賢吾はユグレスに向かって駆け出すが、彼は自慢の翼で上空に飛び上がって賢吾の後ろに回り込む。
(くっ、あれじゃ手が出せない!)
翼を持つ相手にこの広い場所では不利だと考え、賢吾は今まで魔物を退治していた洞窟の方へ彼を誘い込んで対峙する。
『ほう、なかなか考えたな。私が翼を広げて移動出来ない様にした訳か。だが私も人間にこれ以上簡単に負ける訳にはいかないのでね』
この狭い通路の中で先に動いたのはユグレスで、一直線に走って前蹴りを浴びせようとするがそれを賢吾は横に身体をずらして回避。
そこから回し蹴りでユグレスに攻撃を当てようとするも、ユグレスもバトルアックスで上手く賢吾の足をブロックする。
「ほっ、ほっ!!」
バトルアックスと素手ではリーチの違いもあって明らかに勝ち目は無い。
となれば接近戦に持ち込むしかないと考え、ユグレスの一瞬の隙を突いて懐へ飛び込みパンチで接近戦に持ち込む。
そうなればバトルアックスのリーチも意味を成さなくなるので、ユグレスも素手の格闘戦で対抗するしか無い。
パンチのラッシュの隙を突いて賢吾の腹に逆に右のストレートパンチを入れ、そこから前蹴りで更に距離を置こうとする。
前蹴りを放った足は賢吾の腹に入ったが、賢吾も小柄ながらそれなりに強い肉体を持っているので何とか踏ん張ってもう1度接近戦へ持ち込み、ユグレスの顔にお返しのパンチ。
『ぐお!』
そして怯んだ所にもう1つさっきのお返しで右の前蹴り。その前蹴りで2人の距離が少し離れる。
それをチャンスと見たユグレスは再びバトルアックスを構えて向かうが、賢吾もギリギリの所でバトルアックスをかわして行く。
それに業を煮やしたユグレスは身体全体でタックルを仕掛けるが、そのタックルで吹っ飛んだ賢吾は後ろの岩壁に背中をぶつけて、反動で再びユグレスの方に向かう。
「っのお!」
賢吾はバトルアックスを繰り出して来たユグレスの右腕の上腕二頭筋を、自分の右腕の上腕二頭筋で受け止め、それを利用して懐に飛び込み彼の身体を地面に押し倒そうとする。
だがユグレスはそれに抵抗し、逆に賢吾を押し倒そうとするが賢吾も抵抗。
もう1度押し倒そうと試みる賢吾だが、ユグレスの右足が自分の目の前に来たのを見てその足を左手で、そしてユグレスの腰を右手で掴んでそのまま投げ飛ばそうとするも、ユグレスも上手く1回転して着地。
しかしユグレスの体勢は上半身を屈めているので、そのユグレスの背中の上を今度は賢吾の方から背中合わせで回転しつつ飛び越える。
そこで体勢を立て直したユグレスは賢吾に右のキックを繰り出すが賢吾もギリギリでブロックし、そのまま逆にユグレスの足を軽く払って彼がバランスを崩した所で、連続でユグレスの腹から顔に2連続の右のキックを叩き込む。
『ぐあ!』
頭へのキックで後ろによろけたユグレスに一気に賢吾は接近し、自分が今蹴った彼の頭を掴んで跳び膝蹴り。
更にその跳び膝蹴りそのままの勢いで着地した後に間髪入れず右の回し蹴りを繰り出し、ユグレスの胸を思いっ切り蹴って後ろへと蹴り飛ばした。
「ぬあっ!」
そのまま後ろへと蹴り飛ばされたユグレスは連続攻撃に踏ん張りきれず、よろけて地面へと倒れ込んだ。
これで勝負は賢吾の勝ちだ。




