234.第4の関門
シェロフとイルダーのコンビを倒した賢吾が洞窟の出口へと向かって進んでいる頃、美智子はその洞窟からもう少し進んだ先にある広場の山小屋の中に居た。
その中では彼女を攫ったユグレスが油断無く美智子を見張っており、逃げ出せそうには無い状況である。
「何か、こんな展開ばっかりねぇ……」
今まで何回も捕まって来たからか、美智子自身ももうこの展開に慣れてしまったのが正直な感想である。
(ワンパターンな展開ばっかりで、もっと違う展開とかは用意していないのかしらね……全く)
そう思いはしているものの自分がピンチである事に変わりは無いので、何とかユグレスの隙を見て脱出を試みる美智子。
しかしコック長のシェロフに捕まった時よりも更に近い距離で見張られている上に、そのシェロフも今回のユグレスも元々は人間では無いので、もし仮に逃げ出せたとしてもすぐに捕まってしまう可能性しか見えない。
とりあえず周りを見渡して、今の自分の状況を再確認する美智子。
(ここは山の中にあるログハウスの山小屋。部屋はLDKの大部屋しか無いから簡易宿泊所か、もしくは休憩所って所ね。その中で私は木の椅子に後ろ手に縛られている状態で、懐にはあの牢屋から脱出する時に手作りしたノコギリが入っているからそれを何とか取り出せれば……って思うけど、手が後ろに回っちゃっているからそれも無理ね)
自分の柔らかい身体を活かして後ろの手を足を通して前に持って来る事も出来なくは無いが、そうしようとすればすぐにユグレスに気が付かれてしまう。
(残念だけど今回はお手上げね。時折ユグレスは窓の外を見て様子を確認しているけど、それでも私の監視に抜かりが無いのは見られている私が良く分かるから……)
あの奴隷船の中の時の様に賢吾が協力してくれる訳でも無く、シェロフの時の様に事務作業の隙を見計らって脱出出来そうにも無く、牢屋の時みたいに使えそうなパーツも見当たらないので完全にお手上げ状態の美智子。
そんな彼女にユグレスが近づく。
『逃げ出そうと思っても無駄だ。この山は広いし、何よりここまであの男が無事に来られるかがわからないからな』
「え?」
耳元で小声でささやくユグレスに、流石の美智子も表情を変えた。
「そ、それってどう言う事よ。言っておくけど賢ちゃんは強いんだからね?」
『ああ、それは私も分かる。しかし……ここに来るまでにまだ遭遇していない相手が居るからな。そいつらに勝てれば勿論ここに来られるが、その分身体に疲労も溜まっているだろう。それに私だってこれでも武人である。前は不覚を取ったがその後は勝ったし、今度もそう簡単には負けない』
ユグレスはねっとりとした嫌らしい声色で美智子に耳打ちし、その手に持ったロングバトルアックスを構えて彼女の前に出る。
「な……何をするつもりよ!?」
『別に何も? だが私達と戦おうと言うのならこちらも容赦はしない』
「私達……あ!」
そのユグレスのセリフが妙に頭に引っ掛かったおかげで、美智子はある事に気が付く。
「そうか……敵は貴方だけじゃないもんね。まだ他にもメンバーは居るし、魔物も生み出されるから自分達が有利だって思ってるんでしょ!」
何かを確信したかの様にそう叫ぶ美智子に、更に嫌らしい笑みを浮かべるユグレス。
『良く分かっているじゃないか。御前の言う通りの連中が御前達の相手だ。それにこうやって戦力を分散させるのも戦場ではありだし、相手が強ければ人質を取って降伏させるのもありだからな!』
悔しいけど、これが戦場なのだ……とユグレスのセリフに美智子が歯ぎしりをしている頃、賢吾は
やっと見つけた洞窟の出口に向かって行き、そこで一息ついた。
「はぁ、はぁ……流石にこの山道をここまで一気に登って来たし、さっきは戦ったしもう足が限界だぜ……」
美智子の行方を追いかけるのに必死だったものの、それでも身体が出している痛みや疲れと言ったヘルプサインに逆らう事は出来ない賢吾はせめて5分だけでも、と出口に座り込んだ。
(くそっ……アクション映画とかじゃあたまに10分位のバトルシーンとかあったりするけどあれってやっぱり映画なんだよな)
カットを割って何回もテイクを重ね、それを編集して繋ぎ合わせて長いバトルシーンを演じる事が出来るのとは違い、ただでさえ険しい山道に加えてバトルも何回もあったので乳酸が溜まりまくっているのだ。
『辛い様だったら私からエンヴィルークに言って途中で棄権する事も出来るけど、どうする?』
賢吾の様子を見たアンフェレイアが声を掛けるものの、座り込んだまま彼は首を横に振った。
「リタイヤはしない。せっかくここまで来たんだから最後まで進みたいし、何より美智子がどうなってるか分からないままリタイヤするのは実際の戦場じゃ出来ないだろ」
絶対に最後まで進んでやる、と意気込んで少し休んだ賢吾は再び立ち上がり、洞窟の出口から再び上にへ向かって進んで行く。
その先では天井の高い洞窟……と言うよりも岩壁に囲まれた細い路地が彼を待ち構えており、行く手を阻む様に小型の魔物が現れる。
「くっそ……どけええええ!!」
手近な岩を魔物の1匹に投げつけて撃破し、賢吾は更に先に進んだ。
全ては美智子を見つけ、無事にゴールしてこのトレーニングを終わらせる為に。




