229.安心出来ない
「美智子!!」
「け、賢ちゃん!!」
賢吾がエルマンと戦っている間に、美智子は小型の魔物を多数相手に奮戦していた。
なるべく1匹ずつ相手にする様にしながら、使える物は何でも使うと言う気持ちでその辺りに転がっている石を拾って殴りつけたり、パンチよりも威力のあるキックを駆使してさっきのクモと同じ様に蹴って撃退したりしていたのだが、いかんせん数の面でやっぱり不利だったらしく少しずつ追い詰められていた。
そこに賢吾がエルマンを撃退してやって来てくれたので、ここからは賢吾も加わって残りの魔物をそれぞれ潰して行く。
「それぞれは大した事は無いけど……こうも数に差があるとやっぱり安心出来ないな!!」
そうぼやきつつも賢吾は目の前から向かって来る魔物の1匹を片付け、美智子が苦戦している魔物に後ろからキックを入れて怯ませる。
「今だ、美智子!!」
「うん!!」
賢吾に手助けをして貰った美智子は、「このお!」と叫びながら両手で抱えた岩をその魔物に叩き付けてようやく最後の魔物を撃退する事に成功した。
「はぁ……ようやく片付いたな」
煙になって消えた最後の1匹を見て、賢吾がようやく終わったとホッとして息を吐き出す。
しかし、美智子の意識は別の方向に向いていた。
「危ない!!」
咄嗟に美智子が賢吾に向かって身体ごと抱きついて転ばせる。
「うおっ!?」
それもその筈で、賢吾が立っていた場所の地面には深々とバトルアックスが突き刺さっていた。
「は、だ、誰がこんな物……!!」
だが間髪入れずに、今度は2人の後ろから殺気が迫って来る。
「くっ!」
前方へと飛んで受身を取り、賢吾が振り返るとそこには地面に突き刺さったバトルアックスを引き抜くエルマンの姿があった。
「ちぃっ、運の良い奴だぜ……!」
そう、バトルはまだ終わっていない。
アンフェレイアがストップを掛けるまでバトルは続くのだから、こうやって敵が復活してもう1度襲い掛かって来ても不思議では無いのだ。
賢吾が駆け出して行ったのを見て、今度は自分も一緒に戦おうとする美智子。
……だが、また絶妙のタイミングで魔物が数体現れる。
(こんな時に……こっちも終わってなかったみたいね!!)
舌打ちをしてから魔物を迎撃する美智子を尻目に、エルマンの方に向き直った賢吾。
「往生際が悪いぞ!!」
「うるせえよ……俺は諦めねえ!!」
余程気合が入っているのか、先程よりも明らかに速いスピードでバトルアックスを振り回すエルマンの攻撃を賢吾も必死に回避する。
しかし、今までの戦いの疲労からか賢吾の足が一瞬もつれた。
「!!」
そこにエルマンのバトルアックスが振り下ろされる。
このまま避けるのは間に合わないと賢吾は踏み、上半身を前に突き出して地面と水平になる様な……まるで水泳のスタートの時の飛び込みをしている時みたいなそのフォームで前に向かってジャンプ。
その結果、賢吾は思いっ切りエルマンの顔面に頭突きを食らわせる事に成功した。
「ぐごっ!」
顔面に頭突きを食らってしまったエルマンは、振り下ろそうとしていたバトルアックスを思わず手から落としてしまう程の激痛をダメージとして食らう。
賢吾はその悶絶するエルマンの右足を両手で掴んで彼を引き倒し、今度はそのエルマンの右足にまたがる。
そうしてエルマンの右足を力の限り足首からひん曲げた。
「ぬおおおおおおおっ!!」
「うがあぁあぁぁあーっおおぁあぁあっ!?」
まさかの展開と痛みとありえない方向に曲がった自分の右足に絶叫するエルマンだったが、それに構わずに賢吾は限界までエルマンの右足を捻り上げる。
これで完全に、エルマンのふくらはぎから先が普段の人体の構造ではあり得ない向き方をしてしまった。
「うぐぅ……うぐ……」
うめき声を上げるエルマンは、賢吾を見上げて何故か薄気味悪い笑みをこぼす。
その顔に異常に腹が立った賢吾は、全身全霊の力でエルマンの顔面を右足で踏み潰して気絶させた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
今度こそ決着がついた……と賢吾は思っていたが、エルマンは何と気絶しておらずに賢吾の首に腕を巻きつけて飛び掛かって来た。
「うぐぉぉ!?」
早く戦線離脱しないとやばいと思っていた賢吾は、今度こそケリをつけるべく仰向け状態のままエルマンの腹に10回肘打ち。
それに怯んだエルマンにとどめのローリングソバットを繰り出し、それで吹っ飛んだエルマンは背中から後ろに生えていた大き目の木にぶつかって気絶。
アンフェレイアからのストップが掛かった事もあって、ようやくこのバトルは終わりを告げた。
『はい、そこまで!!』
「はぁ、はぁ……はぁ……あ、美智子は!?」
「はぁっ……はあ、はあ、わ、私なら大丈夫よ……」
まさか魔物にやられはしていないだろうなと思って周りを見渡すが、美智子も同じ様に息を切らせつつも無事な姿で立っているのを確認する賢吾。
それなりの実力や度胸が、彼女もこの長い旅を通してしっかり身についた様だ。
しかし、まだこの大自然の中のトレーニングは始まったばかり。
やっと第1の関門と言っても良いエルマンと魔物の集団を退けた地球人の2人は、疲れた身体を労わる様にしながらゆっくりと山の上に向かって進軍を再開した。