22.再確認
カシャンと音を立てて、カビ臭い牢屋の戸が閉められた。
「どう言う事だ……」
まさかの出来事に、賢吾は呆然として鉄格子を両手で掴んだまま呟いた。
さっさと事情聴取をもう1度終わらせて、美智子を捜しに行こうと意気込んで城までやって来たまでは良かった。
しかし、事前にクラリッサから連絡を受けていた騎士団員達にあっと言う間に拘束されてしまった賢吾は、そのまま抵抗も出来ずに牢屋へと入れられてしまったのである。
これでは美智子を探しに行くどころか、これから先の自分の待遇について心配する方が先になってしまう。
ここまで一緒について来たクラリッサ曰く、やはり不法入国者と言う扱いの賢吾はもう少し詳しく事情を聞かなければならないらしい。
なので朝になるまでここに入っていてね、と言われて今の状況に至る。
賢吾としては勿論美智子を捜しに行きたいのだが、国としてはそうも行かないのが賢吾の中にちぐはぐな感情を生み出す。
(くっそ……参ったな、この状況……)
一先ずはクラリッサの言う通り朝までこのままの状況が続くらしいし、良く考えてみればあの洞窟で目覚めてから初めての夜を迎える。
(この1日だけで色々な事があったな)
洞窟で目が覚め、クラリッサに水をあげて、その後にロルフとレメディオスともファーストコンタクト。
騎士団の駐屯地へと向かってこの世界が地球じゃない事を知り、事情聴取をされている内に魔物と出会って逃げて来た。
だがやっとの思いで安全な場所まで逃げて来たと思えば、今度は謎の男が襲い掛かって来たので応戦。
殺されかけるもののクラリッサにも一緒に男に応戦して貰って何とか撃退した。
結局その謎の男には逃げられてしまったが、それでも命は助かったので気を取り直して船に乗り込み、賢吾が目を覚ました小島から海を渡って王都シロッコのある大陸へ。
近くの港町で地図を確認し、王都の位置を知った後に聞きこみ調査をしてみると美智子らしき人物の目撃情報を手に入れる事にも成功。
最終的に時間を掛けて馬でこの王都シロッコまで到着し、牢屋に入れられて拘留状態……と言うのが今までのエピソードだ。
そのエピソードを思い返す賢吾は、1つ1つを思い返して行く内に身体が今までの疲れを訴えるかの様に段々と重くなって来ている事に気がついた。
(うう……駄目だ、眠い……)
美智子を探しに行きたい感情よりも、今まで色々な事があったからこそここで出て来てしまった身体の疲れの方がどうやら勝っているらしい。
その疲れに抗う事が出来ずに、賢吾はズルズルと壁にもたれ掛かって90度の体勢で座り込んで意識を闇の中に飛ばして行った。
「……ぃ、おい、起きろ!!」
「……う……」
「起きろと言っている!」
何処からか聞こえる声に、賢吾は意識を段々と覚醒させながら目を覚ます。
声色からすると男の声だが、一体誰が起こしに来たのだろうかと目を開けてみると、まず最初に黒い髪の毛が視界に飛び込んで来た。
「あ……う、あれ、あんたは確か……」
「団長のレメディオスだ。起きたならさっさと朝食を済ませて取調室に向かうぞ」
あの魔物が襲撃して来た時以来で近くで見るレメディオスの顔に、賢吾は記憶の糸を手繰り寄せながら顔と名前を思い出す。
「ああ……もう朝なのか?」
「そうだと言っているだろう。何時までも寝ぼけているんじゃない。朝食を持って来てあるからさっさと食べろ」
まだ寝ぼけ気味の賢吾。
別に寝起きが悪い訳では無いのだが、昨日だけでやはり身体に疲れが溜まりすぎていたらしくなかなか意識が覚醒しない。
それでもレメディオスが急かして来るので、何とか身体を起こして差し出された朝食を胃の中に収めていく。
「……と言う事は、その男は飛竜に乗って飛び去って行ったと言う訳だな」
「ああ。俺はこの目ではっきりと見た。クラリッサと一緒にな」
騎士団の駐屯地から逃げ出した後、あの男と戦った事や美智子らしき人物の目撃情報があった事をレメディオスとロルフに説明する。
これが堅固1人だけだったら半信半疑の状態になっていたのかも知れないが、同じ騎士団のクラリッサも賢吾と一緒に説明してくれた事で何とか信じて貰えた様だ。
それとは逆に、賢吾からもロルフとレメディオスに聞きたい事がある。
「そう言えば、あの魔物が現れた後はどうなったんですか?」
「奴は手ごわかったぜ」
先に口を動かしたのはロルフだ。
その時の状況を思い出しながら、ロルフは自分の言葉でクラリッサと賢吾にあの魔物との戦いを説明する。
「あいつはどうやら魔術で動いているらしくてな。魔術によって生み出された炎の影響で、武器で攻撃しようにも燃やされちまってどうにもならなかった。それから魔術への耐性も高いらしくて、水属性の魔術で攻撃してもちょっとしか効いてないみたいだったから俺達は退散するしか無かったんだ」
賢吾とクラリッサがイメージする以上に手ごわい相手だったらしいと言うのが、そのロルフの説明でありありと感じ取る事が出来た。