228.第1の関門
今までの経験でもう分かり切っている事だが、地球人の2人には大きなハンデが2つある。
1つは武器も防具もそして魔術も使えない事。もう1つは回復魔術で逆にダメージを受けてしまう事。
この2つの内、回復魔術で逆にダメージを受けてしまうのが2人にとっては大きな痛手である。
何故ならケガを負っても回復も出来ないし、更にダメージを受けてしまうとなるとそれは回復魔術じゃなくて攻撃魔術になってしまうのだからハッキリ言って意味が分からない。
素手の格闘術や身の周りの物を使って戦うのはもう慣れたものだが、回復魔術云々に関しては本当に気を付けないといけない。
「俺達、回復出来ないもんな」
「それで良く今まで生き残って来られたわよね。まぁ、これからもなるべくケガしない様に頑張りましょうよ。私達にはそのやり方しか出来ないんだから」
「ああ……」
そんな会話をする2人の目の前に、今度はザシッ……ザシッと人間の足音が聞こえて来た。
「……!」
「それなりの実力は持っているみたいだけど、ここは通さないぜ」
最初に立ちはだかるのは赤髪のエルマン。賢吾にとっては彼と戦うのはこれで2度目になる。
「御前には何時かリベンジしなきゃならねえと思ってたからな」
「そう言われても、俺と美智子だって先に進むしか無いんだ。大人しく退いてくれ」
「出来ねえ相談だな。それに相手は俺だけじゃないんだぜ?」
エルマンが指をパチンと鳴らすと、そばの木々の間から多数の魔物が現れてエルマンと一緒に2人の目の前に立ちはだかる。
「……さっきから聞こえていた足音はこの連中ね」
自分の耳の良さに感謝しながらも、緊張の色は隠せない美智子も賢吾と一緒に身構える。
それを見たエルマンは手に持っているバトルアックスを構えつつじりじりと賢吾に近づいて来る。
「エルマンは俺が相手するから、美智子は魔物の相手を頼む」
「う……うん」
「ダメだと思ったらすぐに逃げろ。逃げるのも戦略だぞ」
美智子にそう言って彼女が魔物の1匹に向かって行ったのを確認した賢吾は、バトルアックスを構えて自分に走り寄って来たエルマンにすぐに向き直る。
「おらああっ!!」
賢吾は突き出されるエルマンのバトルアックスを必死に避け、かわし、時には足でブロック。
更にそのバトルアックスを持つ手を掴んで体勢を崩そうと試みたが、そこにエルマンの蹴りが賢吾の腹目掛けて入って吹っ飛ばされる。
「ぐぉ!!」
チャンスとばかりにエルマンはバトルアックスを構えて走り寄るが、賢吾はそばの木の下に落ちている丸太レベルの太くて固くて丸めの木の枝を掴み、エルマンのバトルアックスをギリギリで受け流した。
その受け流しから賢吾は反撃に出る。
武器を手に入れた上に、リーチこそ劣るがその分素早い攻撃が出来るのでエルマンの薙ぎ払いをしゃがんでかわし、逆に彼の足を思いっ切り叩く。
「ぐっ!?」
若干怯んだエルマンに対して一気に畳み掛けようとする賢吾だが、すんでの所でエルマンも持ち直して技の応酬に戻る。
だが元々盗賊団の分隊のリーダーだけあってエルマンもなかなか素早い動きを見せ、再び彼のキックが賢吾の腹を捉えた!
「ぐへお!!」
再び吹っ飛ばされ丸太も衝撃で手から吹っ飛ばされた賢吾だったが、彼は何とか痛みを堪えつつ立ち上がる。
「うらあ!!」
エルマンはバトルアックスで追撃しようとしたが失敗。
横に振るわれたバトルアックスを回避し、その勢いで今度は体勢を低くしながらエルマンの顔目掛けて回し蹴りを放つ賢吾だがギリギリでエルマンも避ける。
そこから逆に、賢吾の腹目掛けて床に倒れ込んだ姿勢のまま右足でキックを放った。
「おああ!」
キックは見事賢吾の腹に命中してぶっ飛ぶ。
2人はそのまま痛みに耐えながら何とか立ち上がり、少し身体を振ったり手足を回しながらお互いを見据えた。
「なかなかやるな……だけど勝つのは俺だ」
「そうはさせない。美智子だって頑張って戦ってるから、俺はあんたを倒して先に進む!!」
2人はほぼ同時に動き、エルマンの繰り出したバトルアックスを避けた賢吾はそのバトルアックスを持っている手を蹴ってバトルアックスを吹っ飛ばし、お互いに素手の状態へ。
「るっ、らっ、やっ、ちゃっ、とっ!」
今度は足と足をぶつけ合うキック合戦に入って行くが、賢吾が出して行くキックのスピードにエルマンが合わせ切る事が出来ずに腹を蹴られて最終的にぶっ飛ばされる。
「ぐほっ!?」
「でゅわ!!」
更に賢吾はキックを繰り出すがエルマンも上手くガードし、お返しに右のハイキックを賢吾に向かって放った。
しかし賢吾はエルマンの身体を支える軸足となる左足を、自分が繰り出す下段回し蹴りでタイミングを合わせて払い飛ばした。
「うおあ!!」
何とか立ち上がってもまだ体勢を立て直し切れていないエルマンに、賢吾は全力でドロップキックをかます。
「うおおおっ!?」
エルマンは後ろへとぶっ飛び、その後ろにあった木の幹に背中から叩き付けられて息が苦しくなった。
「美智子は……!?」
任せっきりにしてしまった美智子の方を見ると彼女もまだ魔物相手に苦労している様なので、手助けをしなければ……と賢吾は立ち上がれないエルマンを尻目に駆け出した。