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21.王都

「やっと着いたか……ここが王都だな!」

 あの港町とは比べ物にならない位の広さの敷地を誇り、メインストリートは行き交う人々の喧騒で賑わい、見るからに強固で高い城壁がそびえ立って街を守っている。

 そんな厳つさと賑やかさを同時に兼ね備えているのが、シルヴェン王国の王都シロッコである。

 キョロキョロと物珍しそうに辺りを見渡す賢吾に、呆れた様な口調でクラリッサが声を掛ける。

「観光なら後にして。先に貴方には城に来て貰わなければならないのよ」

「えっ……あ、ああ、そう言えばそうだったな」

 今の時間帯は既に夕暮れ時……と言うよりもそろそろ夜になると言える空模様なのだが、それでも街はかなりの賑わいを見せている。

「ここって何時もこんな状態なのか?」

「ええ、王都シロッコは眠らない街で有名なのよ。東西南北の城門は常に開いていて、例えば旅人が夜になって到着したり、その逆で夜明け前に出発する商人のキャラバンがあったり。色々と取り引きをするには昼夜問わず働かないとね」

「ふぅん……」


 この王都の雰囲気、それから今のクラリッサの話を聞いて賢吾は地球の事を2つ思い出していた。

 自分が生まれ育った岩手から、高校の修学旅行の時に初めて東京に出て来た時のカルチャーショック。

 秋葉原、渋谷、新宿、池袋、品川、お台場等の広さにそれはそれは圧倒されたものであり、自然と興味は東京の大学へと向いていた。

 それと同じ様な感情が、あの港町からこの王都シロッコにやって来た賢吾に渦巻いている。

 そしてもう1つは「眠らない街」と言う単語での東京への恋しさだった。

 六本木には幾つものクラブがあり、朝まで眠らない街を形成する要因の1つになっている。

 それから東京だけに限った事では無いが、コンビニエンスストアだって今の時代は24時間営業なのが日本では当たり前になっている。

 そう考えてみると、この異世界でも24時間営業と言うシステムがあるんだなと賢吾は妙な親近感を覚えてしまった。


 だけど、その親近感やカルチャーショックに浸っている場合では無い。

 自分がここまでやって来たのは美智子を探す為だ、と言う事で賢吾は首を振って余計な感情を打ち消す。

「なぁ、やっぱり先に美智子を探しに行く事は出来ないのか?」

 駄目元でクラリッサにそう申し出てみるものの、クラリッサは無言で首を横に振る。

「私としてもその気持ちは分からないでも無いわ。だけど、今の貴方は不法入国者って言う事になっている訳だし、王都に来る前に伝書用の鷹を飛ばしてあるからこのまま城に向かって事情聴取を受ける準備が既に整っているのよ。事情聴取が終わったら捜索活動はさせてあげる様に上に掛け合ってみるから」

「……ああ、分かった」

 させてあげる、と言う上から目線の言い方に賢吾は若干ムッとするものの、今ここでそこに突っかかっても仕方が無いのでグッと堪える。

 これから社会人として活動して行くのであれば、必ずしも自分の意見ばかりが通ると思ってはいけない。

 時には「自分を殺す」と言う事も大切なのだ。


 そんな賢吾の心境を知ってか知らずか、クラリッサはフォローの意味とも取れるセリフを口から出す。

「この王都に飛ばした鷹には、その美智子って人の事を捜索しておく様に手紙をくくりつけてあるから心配しないで」

「ああ、そう……」

 でもあの港町に自分達が居る時から半日前にこの王都での目撃情報があって、その前に島で行われたロルフやレメディオスも交えた簡単な事情聴取の後に鷹を飛ばしたとなれば、捜索しても見つからない可能性だって出て来る。

 それでも騎士団が美智子を探してくれているらしいので、とにかく今はクラリッサの言う事を信じておく賢吾。

「さて、それじゃあ王都への入場手続きも済んだ事だし城へ向かうわよ。人混みが激しいから私からはぐれない様について来てね」

「分かった」

 そう、南側の城門からメインストリートの人混みの中を通って真っ直ぐ行けば王城なのだが、時間帯が夜だと言う事も相まってはぐれてしまう可能性が高い。

 東京に来てから通勤と通学の人間でごった返す山手線のラッシュは経験済みだし、新宿でも渋谷のスクランブル交差点でも秋葉原の歩行者天国でも人混みは嫌と言うほどこの4年間で経験して来たので、その経験を活かしてはぐれない様に頑張ろう、と決意する賢吾。


 いざ歩き出してみるとやはりその時の経験が活かせているのか、クラリッサの姿を見失う事無く人混みの中をすり抜ける事が出来ている。

(意外と行けるもんだな……)

 クラリッサはクラリッサで時折振り返って背後を確認し、賢吾がきちんと着いて来られているかどうかを確かめながらの歩行だ。

 その確認行為もあって、夜の人混みを無事にすり抜ける事が出来た賢吾は王城へと辿り着いた。

 だがその人混みを歩いていた賢吾も、そしてクラリッサも気がつく事は無かった。

 2人の姿を見かけたとある人物が、この人混みを利用して城の近くまで2人を尾行をしていた事に……。

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