218.監視状態
『それで貴方の位置が分かっていたんだけど、その周りには大勢の生体反応があったからもしかしたら敵に囲まれているんじゃないかと思ってね。流石にあの状況では切り抜けるのは難しいと思ったから手助けしたのよ』
その話を聞いていた賢吾と美智子が、自分達の時のケースも思い出してエンヴィルークに視線を移す。
「ちょ、ちょっと俺達もエンヴィルークに聞きたい事がある」
『何だ?』
「俺達の時も今のアンフェレイアの話と同じなのか?」
良いタイミングで現れて敵を倒し、なおかつ目印までつける事が出来るとなればそのアンフェレイアと同じ事をしたのだろうと賢吾と美智子は考えた。
それに対してエンヴィルークはこう答える。
『御前達の時はちょっと違う。時間が無かったのと、あれ以上は俺の力を行使するのが無理だったからだ』
「意味が分からないわね。もっと具体的に言ってよ」
断片的な解説ではさっぱり分からないので、自分達にも理解出来る様に説明してくれと頼む美智子。
『御前達の事は呼び出した時からずっと監視させて貰っていたが、あの時は流石に手助けが必要だと感じたからだ。砦の牢屋から出る為に御前達が色々と小物を作ったりしていたのも分かったが、それでもあの砦の中にはかなりの敵が居たから御前達だけでははっきり言って力不足だと思ってな。だから魔術防壁を破って中の敵を倒し、その敵を倒して道を切り開いた。だがその時の俺にはそれが精一杯だったんだ』
「精一杯って……あんたは神じゃ無いのかよ」
『神でもそのエネルギーには限度がある。魔術防壁を破るにはそれなりのエネルギーが必要だし、 それなりの多さの敵を相手にするのもそうだ。それに後は御前達の仕事だから俺が出る必要も無いと思ってな』
続いてもう1つの理由も答える様に賢吾が促す。
「それは分かったけど、時間が無いって言うのは?」
『それは、俺があの騎士団長の動向をこのライオンのシェロフから報告されていたからだ。騎士団長が色々と企んでいるのはさっきのその銀髪君からも話して貰った通りだから、あそこで大勢の敵と戦って時間とエネルギーを無駄に消費させて3つ目の城の調査を遅らせる訳には行かないと思ってな。現に俺の手助けがあったからこそ、その銀髪君はあの騎士団長に負けてどうにでもされてしまう前にアンフェレイアが助け出す事に成功したんだろう?』
「ま、まあそれはそうだけどさ」
何だか上手く言いくるめられた気がするが、何にせよ自分達やイルダーを助けてくれたのは分かった賢吾と美智子。
だが、まだ疑問は残っている。
「じゃあ……何でレメディオスを襲ったんだよ?」
その時はまだ自分達が敵対関係になっていなかったんだし、と賢吾が言うとエンヴィルークはやや気まずそうにその理由を話し始める。
『……恥ずかしい話だが、まだあの男が何かを企んでいないか転移魔術で城に潜入して調べる予定だったんだ。だが……あの城には外敵をブロックする為の魔術防壁……それも世界でもトップレベルのものが張られていて、俺はそれを突破するのに時間とエネルギーをかなり使ってしまってな。さっき話で砦の防壁を潜り抜けた話をしたが、あれとは比べ物にならないレベルの防壁だ。それでエネルギーを消費した俺はとりあえず人気の無い場所で休もうと思って、城の中をさまよっていたらあの鍛錬場に辿り着いて……そこで意識を失った』
「それで起きてみたら目の前にレメディオスの姿があった……と?」
賢吾の確認に相変わらず気まずそうな顔で頷く人間の姿のエンヴィルークに、心の中で賢吾は「良く分からないドラゴンだな……」と思わず呟いてしまった。
『だからさっさとその騎士団長を叩きのめして逃げて来たんだ。なかなかの実力だったがな』
色々とこうして話して、結果的に王国騎士団の手から逃れる事が出来たのはドラゴン2匹のおかげだったと分かった。
それでも思う事はやっぱり賢吾にも美智子にもあるらしい。
「でも、最初から私達を監視したりエリアスやイルダーに魔術をかけて見張っていたんでしょ? それってGPSみたいなものよね」
「ああ。もっと言えば逃げられない様に監視するシステムみたいなものだろう」
それじゃあまるで、監視されたまま何処にも逃げられずに命令に従うしか無い奴隷の様な存在じゃないか……とエリアスとイルダーに対して若干同情する賢吾と美智子。
だが、自分達もまだ答えを聞いていない事があったのを思い出して賢吾が口を開く。
「あ、そう言えばまだあんた達に答えを聞いてなかったな」
『何がだ?』
「何がって……俺と美智子を何故この世界に呼んだかって質問の答えだよ。俺達をこうして呼んで色々トラブルに巻き込ませたのは、結局あんた達がやったんだろ? で、エリアスに「元の世界に帰る方法を知っているから協力してくれ」と言わせてまで俺達にこの問題を解決させようとした。それは一体どうしてなんだよ?」
そう、元々その質問から話が始まった筈だったのに話がだんだん変な方向に向いて行ってしまったので、ここでいよいよ地球の2人がその質問の答えを聞く事にする。