215.怒涛の暴露ラッシュ
「使い魔って言うのがあんた達なのは分かった。けどそれはそうとして、何で俺達をこの世界に呼んだんだよ?」
当事者として、賢吾も美智子も1番気になるのはやはりそこである。
「そうよねー。この世界に呼ばれたってだけでも凄い迷惑な話なのに、色々これまでトラブルに巻き込まれて来たもんねえ。騎士団関係もそうだし、賢ちゃんは最初にこの人に殺されかけたって言うし、誘拐はされるし……」
思いっ切りエリアスの方に顔を向けてそう言う美智子に対し、エリアスは苦笑いしか出て来ない。
「ま、まぁ……それもそうだが、俺が聞いた声についてはそのエンヴィルークって創造神様の声に間違い無いな」
美智子から視線を逸らしてエンヴィルークに顔を向けるエリアスだが、その様子を見た当のエンヴィルークはああ……と何かを思い出したらしい。
『そうか、それじゃ俺も人間の姿になるか。その方がお互いに話しやすいだろうしな』
『私も人間の姿になるわ』
そう言ったエンヴィルークとアンフェレイアは先程と同じ様に身体を大きく反らして、身体から眩い光を発して人間の姿になった。
賢吾と美智子は既にレメクの時のアンフェレイアは見た事があるが、エンヴィルークの人間の姿を見るのは初めてだと考える。
クリクリした大きな目を持っているアンフェレイアに対し、エンヴィルークは鼻の形もちょっと尖り気味だし目も切れ長である。
だがその変身後の姿は地球人の2人……いや、エリアスとイルダーの度肝をも抜いてしまうものだった。
「……え?」
「あっ、あれ……その姿ってもしかして……」
「あ、あああああああっ!?」
「嘘、だろ……?」
光が収まって人間の姿になったエンヴィルークの容姿は、散々この仲間内で噂になっていた例の男そのものだったのだ。
『茶髪の中年の男だよ。黒いエプロンを着けていて、その茶髪は肩に掛かる位に長くて、目は黄緑色。見た所では武器も防具も何も装備していなかったけど、一体何者なのか俺達も気になる』
『で、私達があのレメディオスの部屋を調べる前に彼が王城で襲われたのよ。茶色の髪の毛で黒いエプロン姿の中年の男に、それも武器を持っていない素手の戦いにロングソードで負けたって』
『そう言えば前に俺達も少しだけ聞いた様な気がするよ。確か君達に「突然現れた茶髪の男が君達がここに来るまでのエピソードを語っていた」って話した時だったよね?』
『ああそうだ。その時は本当に一言だけ……レメディオスがそんな風貌の中年の男に襲われた、としか話さなかった気がするけど良く覚えてるな』
その時の会話を思い出して思わず苦笑いがこぼれる一行。
王城の鍛錬場でレメディオスを襲ったのも、エリアスとイルダーの前に姿を現して賢吾と美智子の話をしたと言うのも、そしてあの砦で瞬く間に騎士団印を全滅させた上に賢吾と美智子にヒントをくれたのも、全てこの男……人間の姿になったエンヴィルークの仕業だと考えれば神の力で納得が行く。
しかし、一行がまだまだ納得出来ない事は山積みだ。
「そ、それじゃ俺達からも質問があります」
『何だ?』
「最初にエンヴィルーク様が俺達の目の前に現れた時、何故俺達にこの異世界人達の情報を教えられたのですか? それにその前から俺に対して色々と声を掛けて来ていたのも貴方ですよね?」
何で自分に声を掛けて来たのかが未だにいまいち良く分からない、と言うエリアスにエンヴィルークはこう言う。
『それは……御前がこの王国に対して恨みを抱いてるって言うのが俺には分かったからだ』
「え、恨み?」
「それってレメディオスじゃないの?」
シルヴェン王国に恨みを持っているのはレメディオスだけじゃなくて、エリアスもそうなのか? と驚きの視線をエリアスに向ける一行だが、エリアスはエリアスで複雑な表情だ。
「いや、それは……ちょっと色々と事情があってさ……」
「事情次第では話の展開が変わるわね」
「俺達をこの世界に呼んだ理由もまだ説明して貰ってないけど、どの道その理由も聞いておかなきゃならないしな」
どうせ全部まとめて聞くのだから、と言う事でまずはエリアスの抱えている事について話して貰う。
「……んー、じゃあ俺の家庭環境の話になるんだが……」
エリアスはシルヴェン王国で生まれ育った国内でも有数の大貴族の1人息子なのだが、王都を始めとした王国内ではその貴族同士の策略が巡らされていた事もあり、彼は小さな時から命を狙われる事も少なくなかったらしい。
なのでその暗殺の危機から逃れるべく、賢吾と美智子をさらったあの屋敷を別荘として一時避難。
そうした貴族のいざこざや腐敗を身近で目の当たりにして来た上に、貴族同士の争いに巻き込まれて親戚や家族を殺されてしまった事もあって貴族出身でありながらその貴族が嫌いになってしまった。
だが、そんなエリアスにも言い分はあるらしい。
「確かにエンヴィルーク様のおっしゃる通り、俺はこの王国に対してそれなりに恨みは抱いている。でも……俺が恨みを抱いているのはこの国の「貴族連中に対して」だ。王国そのものに対してはこれからのやり方次第で幾らでも変わる可能性はあると思っているよ」