212.神
世界を「創った」と言うのはもしかして……と4人の人間達の視線が一斉に向けられている事に気がついたレメクは、別に隠す必要も無いだろうと当たり前の様な口調で答える。
『そう、このエンヴィルーク・アンフェレイアを創ったのはこの私よ』
「何だってえ!?」
「えっ、それはつまりこの世界の創造神様だと言う事ですか?」
『そう言う事になるわね。正確にはそのドラゴンの子孫で、代々名前が受け継がれているんだけど……』
この世界の人間であるエリアスとイルダーは驚きを隠せない。
何しろ、今の自分達が生きている世界を創ったと言う存在の背中に乗っているのがイルダーで、並んで飛んでいるワイバーンの背中に乗っているのがエリアスなのだから。
その創造神(の子孫)が目の前に居ると言うだけでも、この世界の人間にとっては気絶してしまいそうな程ショックな出来事である。
それとは別に、地球から異世界にトリップして来たメンバーである賢吾と美智子もやはり驚きを隠す事は出来ない。
「えっ……と言う事は、貴女がこの世界に私達を呼んだの?」
美智子が単刀直入に聞いてみた所、レメクからはまたも曖昧な返事が。
『そう言われればそうなんだけど、色々と事情があって私だけで呼んだんじゃないのよ。山の中に一緒に来てくれればその呼んだ他のメンバーに会わせられるから』
「う、うん……」
そう言われてもいまいち事情が呑み込めていないのでリアクションに困る美智子。
その横から賢吾も質問をぶつけてみる。
「俺達をこの世界に呼んだ理由って何なんだ?」
そもそもの原因としてあのカラスやライオンが関与している事は間違い無さそうだが、何故この世界に自分達が呼ばれたのかと言うのが気になる。
もし「誰でも良かった」等とふざけた理由を抜かされたら、賢吾は幾ら女であっても元々がドラゴンなので1発位ぶん殴ってやらないと気が済まなかった。
単純に異世界にやって来るだけならともかく、何度も命を狙われたり誘拐されたり金の為に売られそうになったりして、今は王国騎士団まで敵に回してしまったのだから。
色々な感情も人間達と一緒に乗せて、ドラゴンの姿のレメクとワイバーンに乗ったエリアスは国内の中央にある山を目指して夜空を一直線に飛行する。
そうしておよそ30分のフライトを終えて、一行はシルヴェン王国の中央部に位置している山の山頂付近へと降り立った。
「このノラーク山を境目にして、昔は2つの国に分かれていたんだ。西がシルヴェン王国で東がランディード王国って事になってたんだけど、このノラーク山を挟んでその2か国が小競り合いをして、勝ったのが西側のシルヴェン王国だったのさ」
エリアスが簡単に説明をするものの、それよりも大事な事が他にもあるので地球人の2人は早速レメクに質問をしようとする。
「えーと、それじゃまずは……」
『あ、ちょっと待って。まだここが到着地点じゃないのよ』
「へっ?」
山頂付近で人も余り通らなさそうな山の中の広場に降り立ったので、てっきりここがゴールだと思っていた人間4人。
「まだ何処かに行くのかしら?」
『そうよ。私達が身を隠している場所。そもそも私達はこの世界の創造神だから、余り長くこの姿で1か所に留まって生活するって言うスタイルじゃないのよ。今回は成り行き上仕方がない部分もあったけど、それこそ貴方達みたいに普段から人間や獣人を相手にしていたら色々とプライベートな時間が取れなくなっちゃうでしょ』
しかし、そう言われてしまうとあの村で生活していたレメクのスタイルと矛盾が生じる様な気がする賢吾とエリアス。
「おいおい、それじゃ俺達があの村であんたと出会った時に、あんたはあの村で生活していたじゃないか。最終的にはあの村もいずれ出て行くつもりだったのか?」
『うん。何か問題でも?』
「……いや、別に」
余りにもあっさりと認められ、逆に賢吾はそれ以上問い掛ける気力が無くなってしまった。
『気に入った場所にはそれは長く住み続けたいけど、この世界を創った片割れとしてはこの世界がどうなるのかって言うのを見届けて行く義務が私達にはあるからね。だからその仲間もこれから紹介するわ』
さっきからこのレメクのセリフの中にちょいちょい出て来る「私達」や「仲間」と言った単語、それに今みたいな「片割れ」と言う様に、どうもこのメスドラゴンの彼女には仲間が居るらしいのでさっさとその仲間の元まで案内して貰う事にする。
「分かった。あんたについて行けばその仲間とやらに出会えるんだな?」
『それは約束するわ。でもこの姿のままじゃ移動しづらいから……ちょっと待ってね』
そう言ってレメクは大きく身体を仰け反らせて、頭が思いっ切り天を向く位まで身体を斜めにする。
工事現場のダンプカーが砂を一気に降ろすあのスタイルみたいだなと思っている賢吾の目の前で、その時レメクの身体が突然光り始める!!
「う……おっ!?」
「きゃっ!?」
「な……何だぁ!?」
「うわああああっ!!」
またもまばゆく光り輝くそのレメクの光のショックから視界を守ろうと、思わず4人の人間達は視界を手や腕で覆う。
そしてその光が収まった時、ドラゴンの姿があった場所には再び人間の姿のレメクが立っていた。