208.諦めるな
(まだ遠くには行っていない筈だ!!)
セバクターはあの中庭で倒れてしまった後、丁度中庭を通り掛かったレメディオスの部下の騎士団員達に回復魔術と魔力を補充する魔術をかけて貰って戦線に復帰。
まだ倒れてからおよそ5分しか時間が経っていないので、簡単に何があったのかをその騎士団員達に報告して再びレメディオスの言っていたあの反逆者達の行方を追う事に。
(あの反逆者達は恐らく、先にこの場所で身柄を拘束していると言う銀髪の若い男を助け出す為にここに侵入して来た筈。ならばその銀髪の男が居ると言う地下に向かえば追い付けるかも知れない!!)
そう思って駆け出そうとしたセバクターだったが、自分に回復魔術をかけた騎士団員から思いもよらない話を聞く事になる。
「ま、待ってくれ。あの捕まえていた筈の銀髪の男が逃げてしまったんだ!!」
「え?」
どうやら侵入者を逃がしてしまったのは自分だけでは無く、自分にあの反逆者達の逮捕を手伝ってくれる様に依頼して来た騎士団長のレメディオスも同じらしい。
「逃がしたってどう言う事だ?」
「そ、それが聞いた話でしか無いから良く分からないんだけど、レメディオス団長があの銀髪の男の挑発に乗せられて戦っていて、その戦いには何とか団長が勝利したらしいんだ。でも……その後に突然その戦いをしていた地下に光の魔術が何者かの手によって発動されたらしくて、それで視界を奪われてる間に銀髪の男は逃げてしまったらしいんだよ!!」
「光の魔術……?」
火属性、水属性、土属性、風属性の4つの魔術があるのはセバクターも知っているが、光属性と言うのは遥か昔に使われていただけで今はもう存在していないとされる、そもそも存在しているのかどうかも怪しいレベルの属性の魔術なのだ。
「……その属性を使ったって言う人物の行方は?」
「それもまるで分からない。とにかく俺達も探しているんだけどまるで見つからないんだ。俺達は引き続き向こうを探すから、あんたはそっち側を頼むよ!!」
「分かった」
とは言うものの、あの3人組やその若い銀髪の男がどっちに逃げたのか見当もつかないセバクターは何処に向かって足を進めれば良いのかも分からない。
(弱った……元々この建物は王城だったからかなりの広さがある。闇雲に探し回っても見つかる可能性は低いし、それだけ逃げられてしまう可能性も高くなるから幾つか見当を付けた方が良さそうだな)
持ち前の冷静さを駆使して、もし自分があの3人の立場だったらどうするかを考えてみるセバクター。
(余り複雑に考えず、俺があの3人の立場で……あの銀髪の男が逃げ出したと言う情報を仮に聞いたとしたら、その男と合流してからこの城を脱出する為に動くだろうな)
だけど合流するのにはかなりの時間が掛かる筈だと考えて、ここは自分から色々な場所に探しに行くのでは無く待ち伏せをする事に決めるセバクター。
(この城から行ける場所と言うのは限られている筈だし、あの3人が仲間の男と合流して脱出するなら騎士団員が集結している正面の出入り口は避けて別の場所から脱出を図るかも知れない……)
なので、まずは自分の予想の中で出て来た「別の出入り口」が無いかどうかを城の中の通路で出会った騎士団員に聞いてみる。
するとその騎士団員が有力な情報をもたらしてくれた。
「正面玄関以外の出入り口なら幾つかあるけど、1番行きやすいのは裏口だよ。そこから林を抜ければ街道に出られるよ」
「そうか、分かった!!」
だったら裏口も固める様にその騎士団員に言付けを頼んだセバクターは、自分のその予想が当たっている事を信じて教えられたその裏口へと向かって足を動かす。
(とは言うものの、時間が少ない……このシルヴェン王国とエスヴァリークは余り関わりが無いし、俺は部外者と言えば完全な部外者なんだよな)
通路を走りながらふとそう考えるセバクターではあるものの、何故無関係の筈の自分がこうして事件解決に向けた協力を他国の騎士団にしているのだろうか?
それはかつて自分がまだ傭兵として暮らしていた頃の名残、それから「国が滅びる」と言う重い過去を背負った彼だからこそ協力したくなったのである。
元々彼はエスヴァリーク帝国の出身では無く出身は別の国だったのだが、2年前までは傭兵の仕事で西の方から少しずつ世界地図の最南東であるエスヴァリーク帝国まで移動して来たのである。
そしてそこに至るまでに傭兵として少しずつ功績を上げて来た事と、エスヴァリーク帝国で起こった事件を解決した事で他国出身者でありながら帝国騎士団に入団して今に至る。
自分が生まれ育った国が戦争で滅んでしまい、貴族出身でありながら16歳の時に着の身着のままと愛用のロングソードだけで自分の能力だけを頼りに生きて行かなければならなくなったセバクターは、国を滅ぼそうとしている輩が居ると言う事を騎士団長のレメディオスから聞いて、居ても立っても居られなくなって協力を申し出たのである。
(まさか他国に来てまで反逆者を相手にするとはな……)
さっきは反逆者の前に不覚を取ったが、まだ諦めてはいない。
諦めたらそこでお終いだと自分に言い聞かせつつ、裏口へとセバクターは走り続けた。




